12.宣言
メルト症候群を救う方法を開発したとして、私は月の国の首都へ招待された。
国はこの装置を全患者分ほど製造することを約束してくれた。
私は全国民に向けての会見に出席することになった。
その場で、私は国王から賛辞の言葉と多大な報奨金をいただいた。
その後、全国民に向けてのスピーチが用意されたんだ。
私は国側で用意されていた会見用の原稿を、全国民の前でぐしゃぐしゃに丸めて、
用意されてたドレスの袖をたくし上げて、机の上に上がり、こう宣言してやったんだ。
「私はこんな賛辞やお金が望みだったわけじゃない。
私は戦争が止めたかっただけだ。みんなの不安を減らしたかっただけだ。
それに私はこんな賛辞を受けるようなことは何もしてない。
患者を救ってくれた? ちがう! 命は救ったが彼らの大切なものを奪ってしまった。
私には責任がある。全てのメルト症候群の患者に対する責任が――。
願いがある。平和への思いがある。あいつとの誓いも……。
月の国には感謝しています。全患者分の装置の製造を約束してくれましたし、
なにより、私にこのような会見の場を与えてくださったことを。
私はここに宣言します。この報奨金を元にある団体を創設します。
その名は『クリプトン』隠された私たちの可能性を拓いていくという意味です。
この組織は普通の社会生活を送れなくなったメルト症候群の人々を
すべて すべて受け入れます。そして共同生活をできる場を提供します。
でも、そこに閉じこもったりはしません。
私たちは普通の人たちにはない可能性を秘めています。
だから国中から私たちにしかできない仕事を受け付けて、
依頼を受けて、みんなの役に立てる。生きがいをみんなで作っていきます。
場所はそうだな…… うん!! ここから見えるあのすごく大きな木の下に作ります。
今からあそこに作ります。決めました。
最後にもう一度……今日この時に、
メルト症候群受け入れギルド『クリプトン』の創設を宣言します」
ってね。くくく あの時はサイコーだったな。
みんな突然のことにあっけにとられて、ぽかーんとして。
そのあと、トラボルタにはすごく怒られたけど、結局は創設に協力してくれたんだ。
他にも会見後にギルド創設に賛同してくれた有志が集まり、見事クリプトンは創設されたんだ。
数年後、テレパス君は全ての患者に行きわたり、
一応はメルト症候群に対する不安は解消されたんだ。
私はまだできたばかりのギルドの運営に四苦八苦してた。
でも、すげー楽しかったな。みんなで協力して、迷って、悩んで、考えて。
ギルド内のみならず全てのメルト症候群の人たちは『メルター』と呼ばれた。
まあ、地方や都市部の一部の人は無表情な彼らのことを
『機械人形(ドール)』と呼ぶ人がいたけど
私たちは気にもせず、あわただしく毎日を過ごしていた。
ギルドには徐々に仕事の依頼も舞い込むようになっていた。
メルターたちには、やっぱり可能性があったんだ。
私たち同様、身体能力の上昇がみられた彼らにしかできない仕事もたくさんあった。
そうやって、社会に役立っていくことで私たちはメルターの地位を向上できると考えていた。
でも、いいことばかりではなかった。依然として、戦争は終わることはなかった。
しかし、私はクリプトンの運営に必死だった。所属しているメルターたちを守る責任があった。
今思えば、逃げてただけなんだろうね。私は正直、もう戦争を止める方法を考えつけなかった。
もう、半ばあきらめてた部分もあったんだろうね。
そういえば、それから数年後、私の体にはある異変が起こっていることに気付いた。
ある年齢から歳をとっていなかったんだ。いや正確には老化が始まらなかった。
肉体は自身のもっともピーク時のまま維持されていた。
どうやら体内で流れ続ける電流が、細胞を活性化しているのが原因らしい。
私も女の子だからね、最初は喜んだもんさ。
でも、周りの人間が歳をとっていくのを見ると、
なんだか自分が本物の化け物になったみたいで、あまりいい気はしなかった。
でも、今は感謝してるんだ。こうやって、旅が続けられるのも若さゆえだからね。
……クリプトンを設立して数年後、国とは独立した軍隊が活躍してるらしいと
風のうわさで聞くようになった。
うわさによると、敵国との戦闘地域に赴いては、力任せに解決してるその軍のリーダーは
黒い雷をまとっているらしい。
私にはもちろんすぐにわかったよ。それは私の弟ロミオだった。
あの子の戦争に対する姿勢は変わってなかった。
でも、私みたいに逃げてばかりいる姉よりは、ぜんぜんマシなのかもね。
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