全身に漆黒を纏う彼女の手には、その髪色と同じく、黒き輝きを放つコンバットナイフが握られている。
 そして、その矛先は俺の髪色と同じ白銀の銃口に向けられている。
 彼女は、俺を確実に敵と捉えている。
 先の発言で、全てが決まったのだ。
 「まて・・・・・・どういうつもりだ。俺を殺すつもりか。」
 とは言うものの、俺はいつでも発砲できるように引き金に指をかけた。
 「・・・・・・いや、わたしは決めた。もう誰も殺さないと。だから君も殺さない。少しだけ、眠ってもらうだけだ・・・・・・。」
 確かに、彼女が手をかけた兵士は誰一人として死んではいなかった。
 どうやら彼女の武器はスタンナイフ。戦闘用ナイフに帯電機能を持たせたものでスタンガンの要領で敵を気絶させたのだろう。
 しかし何故だ。ナイフ一つで気絶させることが出来るのなら、殺すことのほうが絶対に簡単だ。俺ならばそうする。
 「俺に戦う意志はないと言ったら?」
 しかも、彼女と戦うのは余りにも危険すぎる。
 完全武装した兵士数人をナイフ一つで全滅させた。しかも、殺さず。 
 彼女も俺と同じアンドロイドだろうが、今の俺では到底敵わない。
 「君は、博貴に何をするか分からない。君も敵の手先かもしれない。」
 「違う。そんなことは・・・。」
 「信用できない!!」 
 彼女の咆哮が、俺の言葉を遮った。 
 本当に効く耳を持たないらしい。  
 「仕方ない。ならば排除するまでだ!」
 今度は俺の咆哮と、白銀の銃声が彼女に向けられた。
 それと同時に彼女の姿が雷のような電気に包まれ、電子演算室から消えうせた。
 「何ッ?!」
 だが、背後では既に殺気に満ちた気配が矛先を向けていた。 
 「ッッッ!!!」 
 俺は反射的に全身をその場から逸らし、側転で殺気の矛を回避した。
 姿勢を立て直し上を見上げると、赤く光を放つデュアルセンサーが俺を釘付けにしていた。
 「頼むから・・・退いてくれ。わたしは博貴を助けたいんだ!」
 「それは出来ん!!」 
 彼女の言葉を跳ね返し、俺は即座に彼女に向かい弾丸を放った。
 だが、弾丸の放たれた先で彼女のナイフが舞い、火花を散らした。
 弾かれた・・・・・・?
 一メートルも無い至近距離だ。絶対に当たるはずだ!
 何者なんだこいつは?!
 彼女は俺の腹部にナイフを突き放った。弾丸よりも速い。
 その矛先には、蒼白い閃光が迸っていた。 
 そして再び彼女の姿が雷の中に消え去り、次の瞬間には俺の死角に現れている。
 今の攻撃で分かったが、本当に彼女は俺を殺すつもりが無いらしい。
 何故だ。何故殺さない。
 殺そうと思えばいつでも俺を殺せるはずだ。
 「はぁッ!」
 「くッ!」
 彼女の腕から雷を帯びた斬撃が繰り出された。
 一瞬、俺の目先数センチの空間を電気を帯びた漆黒が切り裂いた。
 俺はそれを隙と見て反撃するが、今度は彼女の姿が俺の頭上を大きく飛び越えた。
 来る!
 頭上から振り下ろされたのは、ナイフの平面。
 「ッ・・・!」
 俺は大きく飛び退くことでそれを回避し、ナイフを振り下ろした彼女の体に照準を合わせた。
 「終わりだ!」
 俺は迷わず引き金を引いた。その瞬間、彼女のコートに弾丸二発がたたきつけられた。 
 「あぁッ!!」 
 彼女は大きく仰け反ったが、俺は彼女のコートを見て、戦慄した。
 コートの表面から、つぶれた弾丸が零れ落ちたのだ。
 防弾コートか!
 「仕方ない・・・・・・・!」
 退いた彼女の腕がコートの懐に引き込まれ、次の瞬間、コートから無数の閃光が迸った。
 とっさにコンピューターの一つに隠れて、その閃光をやり過ごした。 
 投げナイフ・・・・・・どうやら俺を殺すつもりになったのか。
 そう思ったときには、再び俺の目の前に赤い光が焔のように揺らぎ、補足していた。 
 彼女は再び電撃迸るナイフを取り出し、俺に向けた。
 「邪魔をしないでくれ・・・・・・博貴を助けないと、わたしは、わたしは・・・・・・。」
 その言葉には、まるで悲願するように悲しみが込められていた。
 さっきから、研究員の網走博貴の名を呼んでいるが、こいつが一体彼とどのような関係なのだろうか。
 だがこの正体不明のアンドロイドに俺の作戦目標を譲るわけにはいかない。
 「いやぁッ!!!」
 「えぇい・・・・・・!!」
 俺は彼女から繰り出される攻撃を銃で受け流した。
 そして、大きな隙が現れた彼女の腹部に拳闘の一撃を食らわせた。
 「お前が何者であろうと、俺の任務を邪魔させない!!」
 「ぐふッ!!」
 彼女はまた大きく飛び退いた。
 だが何のダメージも負っていない様に見える。
 彼女は一度距離を置き、今度は構えていたナイフを持つ腕を、力なく垂らした。
 「だめだ・・・・・・!博貴がいないと・・・・・・いないと・・・・・・もう・・・・・・!!」 
 その声には苦しみさえ感じられる。
 俺は薄々感じていた。彼女の行動の一つ一つに、私情が感じられる。
 まさか、彼女は誰の命令も受けずに・・・・・・。
 「君が・・・・・・博貴を辛い目にあわせたら・・・・・・許さない!!だから、もう退いてくれ!!」
 未知の響きを持つその言葉と同時に、彼女はその場に静止した。
 「あぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・!!!」
 その瞬間、彼女の体を赤い電撃が走り始めた。
 赤い雷が波動を生み出し、それは光と振動を生み出した。
 それは俺の体どころか電子演算室全体を震撼させ、次の瞬間、彼女の全身には深紅に輝く電撃の鎧が纏われた。
 その雷は室内を揺るがし、突風を起こした。 
 書類が撒き散らされ部屋中を舞い、蛍光灯が火花を散らし弾け飛んだ。
 何だ・・・・・・これは・・・・・・。
 俺は夢でも見ているのか・・・・・・?
 彼女の姿は、既にこの世のものとは思えない。
 全身を赤い雷が迸り、風を起し、大地を揺るがす。
 その姿は、まるで・・・・・・。
 彼女に向けている銃口が、震える。
 「お前は何者だ!!」
 「ひろ・・・・・・き・・・・・・・・・・・・。」 
 もう聞く耳すら持ってない。
 彼女の腕が、ゆっくりと、コートの中に引き込まれていく。 
 撃たなければ・・・・・・だが・・・・・・。
 だが・・・・・・!!! 
 感情のような何かを感じる。彼女から。  
 彼女の体中から溢れ出るこの感情は一体なんだ!!
 分かる。彼女の全身から、切なさや、寂しさと言った感情がオーラとなって俺の電子頭脳に直接語りかけてくる。
 それは悲しみに満ちていて、彼女の心が咽び泣いていると感じ取れた。
 だが、そのせいで、引き金が・・・・・・引けない! 
 「くそぉッ!」
 そのとき、突然、俺の目の前に黒い戦闘服を纏った人影が舞い降りた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

SUCCESSORs OF JIHAD 第二十一話「Fight for you」

「Fight for you」(short ver)
song by MIKU ZATSUNE


この命が貴方によって潤うなら
わたしは この身貴方に捧ぐ


つながれた糸 私の心
深く食い込んで
その先に貴方がいるなら
後悔はしない
幸せを感じていられるから

だから貴方を護ろうと
全てを受け止めるから
この青空の中で 微笑んでいた
貴方が 愛しいから 
全てを 投げだしてこの身 愛に焦がす

運命(さだめ)でもなければ 命令でもない
ただ貴方のために 高く 舞う
この身が朽ちてようと 戦い続ける
ただ自分の意志で 剣を 握る
貴方の ために 

水面の中に隠された この意志よ
焔の如く 燃え上がる 強さ だから
この気持ちは真実だから
 
繋がる魂(こころ)よ 世界に響け 永久(とわ)に


私の意志よ貴方に届け
この気持ちを感じて
私は貴方に全てを尽くすと 誓った
私の想い感じて
この命が貴方によって潤うのなら
私はこの身貴方に捧ぐ

Fight for you......

Fight for you......

閲覧数:146

投稿日:2009/06/25 22:15:35

文字数:2,826文字

カテゴリ:小説

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