桜。
それは四月に開花する、美しい花。
桜が舞い散る中、花見やスケッチをするのは最高だ。

そんな桜にも、いろんな噂はあるわけで。
それはいいものもあれば、悪いものもあるわけで。
その桜の噂に関係した、ある話もあるわけで。















<<桜舞い散るあの頃へ>>















「ふあぁ…」


ついついあくびが出てしまう。
最近暖かくなってきたからか、とても眠い。
新聞を取りに玄関を出る。


「あら、神威。おはよう」
「おう」


俺の隣の家に住んでる幼馴染が玄関を箒で掃いていた。
朝から立派なことで。

その幼馴染、巡音の家には大きな桜の木がある。
亡くなった両親が産まれる前からあった木だそうだ。


「お前ん家の桜、今年もキレイに咲くといいな」
「うふふ、ありがと。できれば枯れてほしくないわ」
「そうだな。花見ができなくなるし」
「…食べ物目当て?」
「いや、お前目当て」
「おだてても何も出ないわよ」
「そりゃ残念」


この桜は、花が咲いているのを見ると心が癒されるものだ。
この桜が、いつまでも見れるものだと、そう思っていた。










*










「ねぇ知ってる?
 桜がキレイに咲くのは、木の下に死体が埋まっていて、その血を吸っているからなんだって」
「おいおい、本当に埋まってると言いたいのか?
 嘘ウソ、誰かの作り話だろ?」
「そ…そうよね。
 そんな怖いこと、あるわけないもんね…」
「…間違っても埋めるなよ」
「埋めないわよ!怖いし」


このとき、巡音の顔が微かに曇ったのは気のせいだろうか。










*











「ねぇ神威。
 今年は寒いから、桜は咲かないかもしれないって、テレビで言ってた」
「そうかもしれんなぁ。そうなるのは残念だ」
「まだ決まったわけじゃないんだよね?」
「あぁ。たぶんな」
「…桜、キレイに咲く方法はないかな…」


このときは、まだなんとも思わなかった。
まさか、あの言葉が最悪な事態を引き起こすとも知らずに。









*









事件が起こったのはそのときだ。
三月下旬ごろ、桜がまだ咲いていないときだ。

この地域で人が一人、行方不明になった。
そしてそれをきっかけに、ぽつりと人が消えていった。


行方不明者が六人に達したとき、俺はさすがに違和感を覚えたさ。
絶対に何かあると思った。

だがいくら調べても、手がかりは見つからない。
だがある噂は手に入れた。

―最近、巡音の様子がおかしい―

はっきり言って、関係ないと思う。
確かに最近、調子はおかしかった。
学校はしょっちゅう休むようになったし。
俺が何回訪ねても、留守だったし。

でも、確かめずにはいられなかった。
もしかすると、関係あるかもしれないから。









俺は巡音の家を訪ねた。
と言っても隣だけど。


「あら、いらっしゃい」


今日はめずらしく、巡音はいた。
表情は笑顔だが、今はその笑顔が少し怖い。


「私今から出かけるとこなんだけど、ちょっといいかな?」
「あぁ、いいけど」
「ごめんね、ちょっと長くなるかも」


そして、彼女は出て行った。




俺は立ち上がり、庭の桜の木へと足を向ける。


彼女は無関係だ。
関係があるわけがない。


そんなことを心の奥から願っていた。
気づけば俺はスコップを手にしていた。

桜の木に到達。
かすかに、考えたくないにおいが漂っている。
スコップの先を、根元近くの土に突き立てる。




柔らかい。




あからさまに、他の地面より柔らかかった。
まるで、何かを埋めた後のような。


―違う、彼女は無関係だ―


必死に願いつつも、俺の手は作業をやめない。





そして、唐突に飛び込んできた、強烈な鉄のにおい。





信じたくなかった。
考えたくなかった。
関係なんてしていないと思っていた。
彼女は無関係だと、信じたかった。


だが、現実はあっけなく襲ってくるもので。
その光景は、認めたくない真実をしっかりと俺に見せ付けた。


見たくなかった。
それは、あまりにも残酷で。
見るも無残な姿で、たしかにそこに埋まっていた――


彼女だ。
信じたくなかった、だがパズルははまった。


――桜、キレイに咲く方法はないかな…――


彼女は桜が咲かないことを心配していた。
彼女の様子がおかしくなったと同時に、人がふらりと消えていった。


間違いなく、彼女がやった。
この事件は、すべて彼女自身が引き起こしたこと。
彼女は、桜を見るためだけに、たったそれだけの理由で、最悪な事態を引き起こした。


この光景が、すべてを物語っている。
それが証拠。


―彼女が犯人だ―
―そして、恐らく次に生贄となるのは…―




「なあんだ…神威には、もうバレちゃったかぁ」




彼女の声。
それは、普段聞いているものよりも、凍りつくように冷たくて。



「幼馴染だもんね。わかっちゃうよね」



ジャリジャリと、ゆっくり足音が近づいてきて。



「君は私を信じてくれないんでしょ?」



雰囲気は、かすかに重くなっていって。



「でも君は裏切らない。私はそう確信する」



人形のようにゆっくり首を動かすと、そこにあるのは。



「だって、桜はキレイに咲くんだから」




――狂ってしまった、彼女の笑顔で。

その手には、確かに鋭利な刃物が握られていて。



「…ねぇ、神威。そうでしょ?桜は、キレイに咲くでしょ?」
「……」
「ねぇ、そうよね?でも、君は見れない」
「……ッ!」



ギラリと光るソレは、ゆっくりと振り上げられて。
彼女の雰囲気は、俺を縛り付けて。

動けない。

身体が、恐怖に怯えている。
動くことができなくなっている。



「だって、君には桜のために生贄になってもらうんだから」

「…う……っあ…あああ…」



できない。
俺には、彼女を止めることなんて、できやしない。
身体は動かない。

恐怖に怯える俺の瞳は、狂った彼女を捉えていて。



「バイバイ、幼馴染」



身体に走る激痛。
俺の左胸から、たしかに赤いソレが流れ出していて。
そして…鼻に突き刺さる、生臭いにおい。



「私が愛した人なら、桜はキレイに咲くわよね?」

「だって、共通しているのは『赤』だから」

「ねぇ、そうでしょ?」






『いつまでも、この桜がキレイに咲けばいいね』

『きっと咲くよ。僕は、君と一緒に見届ける』

『じゃあ、約束。二人で、いつまでもこの桜を見ようね』

『うん、約束』






「今年も、桜がキレイに咲くといいわね」







――もう、あの頃に戻ることはできないのだろうか。

幼くて哀れな、桜が舞い散るあの頃に…







俺が最後に見たのは、狂った幼馴染と、幼き日の思い出。

そして、小さなつぼみがついた、真冬の桜の木。




「約束よ、神威」




彼女の声を最後に、意識は遠ざかっていった…













*












『――次のニュースです。七人目の行方不明者が…』

「まぁ怖いわね」

「でもよかった、今年もきれいに咲いたわ」

「でも、少し色が薄い…」

「…そうだ」




「私も生贄になれば、もっときれいに咲くはずよ」

「そうよね?そう思うわよね、神威?」










+++++












そしてその年、その桜は見事な色で咲きました。

写真撮っておけばよかったですねぇ。とてもキレイでしたよ。



え?あぁ、彼女達ですか。

そうでしたね。

実はあの後、八つの遺体が発見されたんですよ。

一つは桜の近くで、七つはその根元に埋まっていたとか。

もちろん、犯人は彼女でしたよ。

だって、堂々と彼女の日記に書いてありましたし。

遺書だって残されていたんですから。恐ろしいですねぇ。



しかし、こういう話は意外とおもしろいですよねぇ。

え?おもしろくない?そうですか、それはすみません。

でもほら、他人の不幸は蜜の味って言うじゃないですか。

それですよ、それ。

そうじゃない人もいるでしょうけど、私はそれの虜なんですよ。

…おっと失礼、私のことなんてどうでもいいですね。



そういえば、あなたたちには今二枚のカードがありますね。

『桜が咲く』か、『桜が咲かない』か。

私のカードは特別です。

どちらか誤ったほうを選べば、何か不幸なことが起こります。

皆さん、くれぐれもふざけてカードは選ばないでくださいね?



それでは皆様、お気をつけて。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【がくルカ】桜舞い散るあの頃へ

「桜がキレイに咲くように」


息ぬきで小説を書くとギャグか暗い系になる←
ちなみに後半部分が書きたいがためにこれ書きました。

そして『八つ』というキーワードでなんとなく察しがついたでしょうか。
そりゃーあの人たちもルカさんが…ねぇ。

そして誤字脱字があれば、暖かく見守ってやってください。
そしてよろしければご感想をどうぞ。


ちなみに、カイト誕生祭の小説はネタが出ないので今回はパス。

閲覧数:1,292

投稿日:2012/02/13 20:33:35

文字数:3,632文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    ゆるりーさんは、結構ダークゆるりーになってるんですね←

    ここでも、何かを学んだ私ですが、それは内緒ww
    だって、それは秘密にした方が……たのしいでしょう……ふふふ(黒)

    2013/06/27 03:31:48

    • ゆるりー

      ゆるりー

      たまにダークゆるりーになりますよ←

      学ぶところが一体どこにあったんですか!?w
      ちょっと気になります…
      だ、ダークしるるさんだと…(ガタガタ

      2013/06/27 18:21:05

  • 雪りんご*イン率低下

    雪りんご*イン率低下

    ご意見・ご感想

    『木の下に死体が埋まっていて、その血を吸っているから』のときにとある「魔○の隠○里」という推理小説を思い出した雪りんごですw

    ルカさん…怖いww
    ミクさんたちもルカさんが……想像しただけで恐ろしいw

    最後の部分、Bad ∞ End ∞ Nightみたいですね。
    最後の語り手が誰か気になってます

    2012/02/14 16:54:31

    • ゆるりー

      ゆるりー

      よく聞く話だと思うのですが。
      そしてその推理小説がわからない・・・orz

      ルカさんも壊れてきましt((

      そんな気はなかったんですけどねw
      最後の語り手はですね、過去の「trick or treat――?」と「禁断の遊び」の語り手と同一人物…の予定。
      そしてボカロのキャラではないです、一応。
      Bad ∞ End ∞ Nightはたぶん皆様の想像とは違う方向に行くかなー…と。

      メッセありがとうござました!

      2012/02/14 17:16:49

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