《ガー、ガー、ガー……》





カラスの声が響き渡っている。大分日が傾いたからだろうか。因みにハシブトガラスは「カー」なんだけどハシボソガラスはちょっと濁った『ガー』らしい。byTurndog。


「ねぇ、二人とも、今夜も泊まっていく?」


ちょっぴり淡い期待を抱きながら、先生とルカちゃんに話しかけるが……。


「いや、明日は大罪ギャグの撮影とかもあるからな……さすがにもう一日泊まるわけにはいかないんだ」

「すみません……あれはいつもうちのボーカロイド八割方総出演なので休むわけにはいかなくて……」

「そ、そう……」


と言うか総出演とか何とかに関わらずあんたら二人は割と主人公&ヒロイン率高いんじゃないの?

この二人は私に負けず劣らず忙しそうだ。……今度手伝いに行ってあげようか。


『……ちっ』

「ロシアン?」


ロシアンが不機嫌そうな顔で舌打ちをしていた。


『結局勝ち逃げか、神威』

「何言ってんだ、あれは俺の負けだよ」

『吾輩にとっては後ろを取られた時点で負けだ。事実貴様があと一瞬速くチョークを撃っていれば、吾輩の頭蓋骨と肋骨は砕かれていた。あんなもの勝ちに入らん』

「強情な奴だな、全く……」

『強情だと思うなら今すぐこの場で勝負しr』

「黙ローシアン」

『グガガガガガガルカ貴様何をする!! 『サイコ・サウンド』で頭を締め付けるのはやめんkギャアアアアアオオオオオオオオオオオ!!』


もみ込むようにロシアンの脳を締め上げる。この戦闘狂は本当に私が手綱を握ってやらないとすぐ暴れたがる。





本当に……まったくもう。私がいてやんないと、ダメなんだから。





「……そっか。帰っちゃうか。じゃあさ、せめて夜までいてくれない? 最後に面白いもの魅せてあげるから!」

「面白いもの……ですか?」

「もう並大抵のことでは驚かないぞ、この二日間で散々衝撃体験したからな」

『確かにな。この体験をTurndogやゆるりーに放したら、ネタにしてちょっとした小説でも書いてしまうのではないかな?』


くくくと笑うロシアン。うーん、ありそう……。


「てーか驚かすものじゃなくてさ、感動させてあげるから! 目ん玉飛び出るぐらいにね!!」

「ほほぉ」

「並大抵のことでは感動もしないかもしれませんよ?」

「いやそれはないだろう……」


真顔で応える先生。そういやツッコミ担当って渾名もあるとか聞いたことあったような。


……並大抵のことでは感動すらしないかも、か。



本気で言ってるんだろうけど、まず私たちに「並大抵」を期待すること自体が間違いだ。



私は『ボーカル・アンドロイド』。そして最強の神獣『猫又』もいるのだ。



常に常識外れな世界を歩く私たちに――――――――――





『普通』とか『並』とか、そんな常識的なものが通用すると思わないでほしいものね。










ロシアンと打ち合わせをしたり、ネルに依頼したものを取りに行っているうちに―――――


いつの間にやら時間がたち、夜になっていた。


空は朝昼の快晴が嘘のようにどんよりと曇っていた。空は真っ暗である。


「……真っ暗ですね」

「いったい何をするっていうんだ?」

「ふふ、まぁもう数分お待ちなさい」

『……???』


頭の上に『?』をたっぷり浮かべている。



―――――そろそろ『アレ』がいい位置まで昇って来る頃だ。



「……よっし、行くよ!」

『へ?』

「二人とも力抜いて―、はい!」


状況を理解できないまま、二人は体の力を抜いた。


さぁ、行くよ。





『仮想(バーチャル)の私達』から『現実(リアル)の私達』へと送る、ナイト・イリュージョン。





『サイコ・サウンド全開!!!』


一瞬で全身の発音装置の『ギア』を入れ替える。二人の顔が一瞬驚きに包まれたのは、私を包む空気が変わったこと、あと私の眼が水色から桃色へと変化したからだろう。

そして―――――――――――――――



『……うわっ!!?』



その力で―――――――――――二人の体を浮かばせた。


『二人とも、気をしっかり持っててね!! ……飛ぶよ!!!!!』

「え? ……きゃ!!?」


ルカちゃんが聞き返すよりも速く―――――私たち三人の体は高速で空に向かって飛び上がった。


加速。加速。ぐんぐん加速していく。

そして厚い雲の中へと突入。ルカちゃんはあまりの高速飛行に目を瞑ってしまっている。対して先生は向かっていく先を真っ直ぐに見据えていた。狼狽えすらもしないとかあんたホント何者よ。


やがて―――――分厚い雲を抜け、再び澄んだ空気の中へと飛び出した。


『……ルカちゃん、目ぇ開けてみなさいよ』

「え……あ……ぅわあ……!!」


うっすらと目を開けたルカちゃんは、思わず感嘆の声を漏らしていた。





私達の目の前に広がっていたのは―――――果てしなく広がる雲海と、満天の星空、そして白く輝く大きな満月だった。


「お……おおっ……!?」

「……すごい……!!」


2人の眼が真ん丸に見開かれている。

ヴォカロ町は朝が遅いのに対し夜は早い。街灯はいつまでもついておらず、日没と同時に殆どが明かりを消してしまう。

それ故満天の星空が見られるのだが―――――今日は運よく満月と分厚く広がった雲が重なってくれた。



これなら――――――――――『あいつ』も美しく際立つというものだ。





《コォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!》





急に響いた鋭い咆哮。それと同時に―――――何かが雲を突き破って飛び出した。


『うわあ!!?』


2人の見張られた視線の先にいたのは――――――――――










《ギィィィォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッっ!!!!!》










―――――――――――――――碧い、碧い龍。天翔ける碧い焔の大龍が、月を背に踊り狂っていた。


「……綺麗……!」

「何と言う……」


舞い踊る大龍。ひとしきり空を駆けた後、急に身を翻して私たちの前へとやってきた。

その眼には―――――『生物』の光が宿っている。


《……こい。こっちだ》


「えっ!?」

「……ってまさかお前……!」


2人がその声に驚く間もなく、焔の龍は一気に地上へと駆け下りていく。


「二人とも! 行くわよ!」


その龍の後を追って、私も二人を引きずるように急降下。

再び雲を貫いて、地上へと一直線。

隕石のようなスピードで地面に激突―――――する寸前で急ブレーキ。二人をそっと降ろした。

ちょっとした町はずれ。だがしかし―――――二人はそこがどこだか覚えていたようだ。


『ここは……』

「そ。昨日二人と出会った場所よ」


そんな私たちの隣では、大龍が形を崩して―――――巨大な『碧命焔』の塊へと姿を変えていた。

その碧命焔の塊は、徐々に小さく収縮。そして―――――『猫又』の形をとった。


「……ロシアン、やっぱりあんただったのか……」


思わず先生が呟くと、灰色の猫又は小さく息を吐いた。


『……この姿は正直巨大化よりも疲れる。己の身に莫大な量の碧命焔を巻き付かせることになるからな。本来戦闘用の技だが……相当な強さの相手にしか使わん技だ。……こんな見世物のためには、普段の吾輩なら使う気になどならんものさ』


そう言って―――――二人に嗤い掛けた。その笑顔は―――――ロシアンとは思えぬほどに鮮やかで、まるでひたすらに遊び回った後の子供のような笑顔だった。


『……この二日間で、なかなか面白いものを見せてもらった礼だ。人間にしては楽しませてもらったぞ』

「あ……!」


ルカちゃんの顔に笑顔が溢れる。

このプライドの高い猫又が―――――人間を認めるだなんて。


『また遊びに来るといい。貴様らであれば、特別に歓迎してやろう』

「……荒っぽい歓迎はナシだぞ?」

『吾輩のことを言えた性質か、チョーク野郎が』

「チョーク野郎って何だよ」


先生は苦笑いだ。この二人は本当に似た者同士だ。


「……あの、ルカさん」

「ん?」


ルカちゃんが近寄ってきて、左手に握りしめた何かを私に差し出した。

受け取ってみると……手作り感満載の小さな巾着袋。


「これって……もしかして夕べ作ってた?」

「はい。まぁその、質素なもので申し訳ないんですけど……安全祈願のお守り?みたいな感じです」

「安全祈願……」


この二日間の私の大暴走っぷりを見て、何か思うところがあったんだろう。

ずっとこんな生活だからだいぶ感覚がマヒしちゃってるけど、普通のVOCALOIDの感覚からしたら遥かに危険な生活だもんね……。


「中には……昨日土産店周り中にルカさんと一緒に撮った写真が入っています。この町と……ルカさんが、いつまでもいつまでも、幸せであってほしいと……」


徐々に声が震えてきた。そして耐えられなくなったのか、そっと私にしがみついてきた。

年上のはずなんだけど、その背丈は私よりほんのちょっぴりだけ小さい。


「……また……遊びに来ますから……! その時まで、お元気で……!」

「……ルカちゃん……」


誰もが私の強さを知っているから。誰もが家族の強さを知っているから。誰もが『猫又』の常識外れを知っているから。誰にも心配されることなく生きて来たけど。


『心配される』ってのが、こんなにも心地よいものだったなんて思わなかった。『想われる』ことが、ここまで幸せなことだなんて。


「……あのバカdogには感謝しないとね……」

「え?」

「なんでもないわ。それよりルカちゃん、手ぇ出して」

「はい?」


言われるがままに差し出してきた手に、ネルから受け取った依頼品を渡す。

その形状には彼女も見覚えがあるはずだ。なんせ―――――『巡音ルカ』なんだから。


「これって、公式衣装の胸飾り……ですよね?」

「ええ。でもただの胸飾りじゃないの。そいつは『心透視笛』。私の音波術『心透視(こころみ)』を通して、どんなに離れたところにいても会話することのできる便利アイテムよ。ロシアンにも昔同じもの渡したんだけど……今度の奴は時空すらも超える改良バージョン。どうしても私の事が心配になったら、これで呼んでみなさい。必ず応えるから」

「……ルカさん……」

「……時空を超えたメル友って、なんかロマンチックじゃない?」

「……ふふっ」


思わず吹き出すルカちゃんに釣られて、私もつい笑みを浮かべた。


「それと……たまには恋の相談もしたいし……ね?」

「あー……あはは……そんな相談されるほどの器でもないですけど……」

「何言ってんのよ、さっきは結構なカリスマしてたじゃない」

「何のことでしょう(目そらし)」

「ふふふ……」


ひとしきり二人で笑った後、しっかりと彼女の眼を見据えて。


「……じゃあね。また会いましょう」

「はい!」


そう言ってルカちゃんは先生の元へと駆け寄っていった。


「別れは終わったのか」

「そんな永遠の別れってわけじゃないですから」

「そんな雰囲気出てたけどな」

「え、えええ演技です」

「めっちゃ声震えてるし本当にそうだとしたら世紀最大級の無礼だな」


全くですよ照れ隠しにしては今の物悲しい雰囲気ぶち壊しですよ(棒)


「……さ、ロシアン。ゲート開いてあげて」

『うむ』


ひゅるり、と飛んだロシアンが、岩壁に向かって碧命焔を投げつける。

壁に当たって弾けた碧命焔が薄く円盤状に広がり―――――中心部の焔が消えると、そこには深い深い空間の穴が開いていた。


「これをくぐればTurndogの部屋に戻れるわ。もう夜の七時過ぎてるけど、一応Turndogとゆるりーさん、後管理人的意味でしるるさんにも連絡済みだから多少煩くしても怒られない……と思うわよ」

「……何となく思ってたけど、やっぱりあんたTurndogさんにどことなく似てるな」

「想い違いね(きっぱり)」


この期に及んで一体何の冗談よ。





「……それじゃ、元気で!」

『面白き人間たちよ、また会おう』




「ああ、刑事さんもロシアンも元気でな」

「ルカさん、ロシアンさん! お元気で!」





2人の姿は―――――あっという間にワームホールの中へと消えていった。


「……行っちゃったね」

『ああ、そうだな。これでまた退屈な日々が始まる』

「また私と手合わせすればいいじゃない」

『飽きた』

「こら」

『たまにはメイコあたりと拳の付き合いをしたいものだな。奴の怪力と焔拳をぶつけてみたいものだ』

「周りが大変になっちゃうでしょ―――――がっ!!!!」


ロシアンと危ない会話をしていると―――――



「……随分と楽しそうじゃない……!!!」

「え? ……あ」

『……お前、いたのか……どっぐ』



私達の後ろでは、目を真っ赤に腫らしたどっぐちゃんが肩を震わせていた。


「あたしも二人とずっと話したかったのに……!! あんたたちがあまりにも楽しげなおかげで入るタイミング見失ったじゃないっ!!」

「えちょ、それやつあたr」

「うるさい煩い五月蠅―――――い!! うわあああああああああん!! ズルいのよ馬鹿馬鹿バカバカばかばかあああああああああ!!!!! うわあああああああああああん!!!」


大泣きしながらバタバタとその場で地団太を踏むどっぐちゃん。あ、あの気づいていないのでしょうが、どっぐちゃんのパワーで地団太踏まれるとマグニチュード5ぐらいの地震と同じだけの揺れがですねうわわわわわわ揺れるぅぅぅぅぅぅ。


「うわあああああああああああん!! 今からあの二人追いかけて仲良くしてやるんだからああああああああああああああああ!!!!!!」


そういうなり岩壁にゲートを開いて飛んで行ってしまった。


『……なんなんだあいつは』

「うーん……」


まぁどっぐちゃんらしいと言えばらしいかもしれない。





「……楽しかったよ。もう一人の『私』」


またいつか。機会があれば。










ヴォカロ町に、遊びに来てね。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ヴォカロ町に遊びに行こう 14【コラボ・d】

“そろそろ お別れの時間だね”

“楽しかったよ もう一人の私”

“バイバイ またいつか 機会があれば”


“この交差点で――――――――――”
                (South North Storyより)

こんにちはTurndogです。

旅の終わりはいつだって寂しいものですが、それを良しとしないのがヴォカロ町クオリティ。
神獣の力を湯水のように惜しげなく使って大スケールなナイトイリュージョンを披露。
ゆるりーさんのルカちゃんをかわいい担当とするならばうちのルカさんは美とイケウーメン担当です。
第 1 3 話 の く っ そ か わ い い ル カ さ ん は 永 久 保 存 版 だ が な!!!!!(おい

そしてロシアンが二人を認めるという奇跡。
多分この先本編を描いていく中でも、ロシアンが人間を認めるなど絶対にないであろう奇跡ですね。
これもある意味永久保存版ですよ皆さん←

あとどっぐちゃんはきっとファンクラブ会長のゆるりーさんがきっと救ってくれる(おい飼い主

何かしらの番外編とか無ければ、きっと次が最終回。私はこれで最後になると思います。
初めてのリレー形式コラボでしたが、いやー途中で失踪しなくてよかった(いろいろ疾走はしたけどな
ゆるりーさんに感謝ですw

第13話:http://piapro.jp/t/ek5-
第15話:俺、このリレーが終わったらヴォカロ町完結させるんだ……

閲覧数:253

投稿日:2014/09/07 18:06:46

文字数:5,981文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

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  • ゆるりー

    ゆるりー

    その他

    うちのルカさんはどこまでも一般人ですね!(かわいい)
    うちの先生はどこまでも一般人じゃありませんね!(おかしい)
    そしてロシアンが人間を認めるなんて空からグングニルが降るんでしょうかね!(懐かしい)
    先生のツッコミも安定ですね!

    チョーwwwwwwwクwwwwwやwwwwろwwwwwwwwwうwwwwwwwwww(予想外すぎてどツボり)
    多分ロシアンの「人間にしては楽しませてもらった」は99%先生のことですね!
    うちのルカさんは多分、褒めてもらったとき「ぱああああ」みたいな顔してたんでしょうね!

    そしてどっぐちゃん…仕方ないね。

    South North Story!本当に大好きです!
    ただここで言えることは、ヴォカロ町ルカさんと我が家のルカさんはこっそりと入れ替わっちゃってもわからないはずがないということですね…w

    すごく楽しかったです!!!!!!!

    ターンドッグさんそれフラグや。

    ポイントは今度考えます。

    2014/09/12 18:51:44

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      うちのルカさんはホント超能力者ですね!(おかしい)
      うちのロシアンはホント化け物ですね!(当り前)
      きっとグングニルどころかたこルカが流星群で降ってきますね!(たこルカとは何だったのか)
      流石まんじゅう(おい

      想定外のツボに思わず私も噴き出すという←
      いや多分98%が先生で1.5%ぐらいがミクさんでしょう(誰か足りない
      きっとうちの人と違ってすごく純真な笑顔なんだろうnうわっルカさんごめんなさうわあああああああああああああああ(ドグチャアアア)

      助けてあげてください(丸投げイクナイ

      ホントイイ曲ですよね! 
      あとカラオケで二人のリンを歌い分けるのが楽しいですね!(それはお前だけ
      どう考えてもモロバレです本当に(ry

      またやりましょう(次回作フラグ建設

      こんなところにいたくない!あたし部屋に戻る!(死亡☆フラグ!

      2014/09/13 23:14:42

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