《ビビーッ!ビビーッ!ビビーッ!ビビーッ!ビビーッ!》
鳴り響くアラーム。警告灯で赤く染まる操舵室内。
それはどう解釈しても―――――退艦警告。今すぐの退艦を命じる警告音だった。
「な……何なの……!?これはいったい……!?」
困惑するルカ。完全に油断していたことが、その焦燥に拍車をかけていく。
周囲を見回すルカの耳に、突然『ハハハハハ』という薄汚い笑い声が飛び込んできた。
「ハハッ、ハハハハハッ!!よくやった、よくやってくれたぞ久留須!!」
「あっはは……できることならやりたくはなかったけどね。でもこのまま彼女たちに捕まるのは真っ平ごめんだしね」
対する久留須は少し悔しげで、少し憎らしげで、しかしどことなくやり切った表情。それは少なくとも、目的を達することが出来ずに捕まろうとしている人間のそれではなかった。
それがあまりにも苛立たしかった―――――ルカが田村と久留須の首根っこを掴み、荒々しく引き上げた。
「あんたっ……何を、何をしたっ!!」
怒りに荒ぶる声に、田村はあくまで冷静に、しかし嘲りをいっぱいに含んだ声を返す。
それも、山ほどの絶望を内包して。
「……簡単に言えば、『自爆スイッチ』という奴だ」
「な……!?」
「巡音ルカよ、貴様覚えているな?貴様が動力炉と勘違いして破壊した、『量産型VOCALOID用エネルギー生成装置』―――――あれには、『破壊者』の最後の兵器が搭載してあった。それこそが、この船の自爆装置―――――」
「馬鹿な、だとしたらその自爆装置は既に破壊されて……!」
心の奥底に忍び寄る、ヘドロの様にまとわりつく嫌な予感を振り払うように、語気を強めたルカが田村の言葉を退けようとする。
だが、田村の言葉は止まらない。その男の浮かべる、嘲るような笑みも止まらない。
「ああ、確かに破壊されたさ……『SF-A2 開発コードmiki』のエネルギーを転換し、量産型に適した性質へと変換するための『20本のアーム』はな」
「なんですって……?」
「原子構造すらも崩壊させて取り出したエネルギー……そんなものが、バイオメカにそのまま適合するとでも思っていたのか?それを生体エネルギーへと変換するのがあの回転アームだ。……だが、エネルギーを放出していたのはアームではない。『その真下』に存在した」
背筋をひたすらに悪寒が走る。心をひたすらおぞましい職種になめられるかのような不快感が満たす。
それ以上喋るなと叫びたくも、その現実を認めないと、大変なことになってしまうかもしれない。その恐怖感が、ルカの声を縛る。
「エネルギー放出装置……そいつは真上のエネルギー変換装置がダウンし、機能停止した時、『SF-A2 開発コードmiki』より供給されるエネルギーを蓄積し、いざという時にはそのエネルギーを開放することにより超火力の爆弾として機能するようプログラミングされている」
そしていやらしい嘲笑は絶望的な一言を告げる。皆の心を、絶望へと叩き落とす言葉を。
「貴様が変換装置を破壊してから、エネルギー供給が途絶えるまでの約13分間……それだけで恐らく、水爆1発分くらいのエネルギーはたまっただろうな」
「あ……あぁっ!!?」
「そんな……!?」
唖然とした声があがる。
水爆1発分。実際に水爆を経験したことなどないルカ達にはどれほどのエネルギーかは検討もつかなかったが、ただ一つ分かることがある。
それだけのエネルギーがあれば―――――まず間違いなく、ヴォカロ町ぐらい簡単に消し飛んでしまうであろうこと。
「心残りとしては、我々に今逃げる時間など残されていないことだが―――――まぁ、貴様らを道連れに地獄へ行けるのならばそれもまた一興。あのジジイ共の前で高笑いをかましてやる楽しみができたと考えれば、これ以上愉快なことはないしな!くく……ハハハハッ!!ハハハハハハハハッ!!」
田村の嗤う醜い声だけが響く。
それにやれやれと言ったため息をつきつつも、勝ち誇ったような表情で、久留須がルカに向かって声を投げかけた。
「……爆発まで、恐らくあと1分程度。さぁ、この事件、どう解決して見せる?『疾風刑事ルカ』さん……?」
挑発的な言葉、その声に、一気に全身の血が沸騰したような感覚を覚えたルカ。
次の瞬間、その眼は桃色に輝いた。しかしそれは、血走った桃色。苦しみ、悲しみ、怒り、恨み、様々な感情が混ざりあって生まれた絶望の桃色。
『TA&KU』を縛り上げた鞭を投げ出し、その対象を目に映す。
≪飛んでいけっ!!!≫
シンクロ率100%の『サイコ・サウンド』が起動し、にわかに『破壊者』が震え出す。
だが―――――震えるだけだった。船体は遥か空へ飛んでいくことはなかった。それどころか、浮かび上がりもしなかった。
シンクロ率100%『サイコ・サウンド』はAIに酷く負担をかける技。1日に幾度も使用出来る技ではない。
故に、今のルカに、巨大な空中戦艦を空の彼方へ投げ飛ばすほどの『サイコ・サウンド』を使うことはできなかった。
だが、それでも―――――
「ルカ姉!?」
「ルカ!!あんたっ……!?」
ミクの声も耳に入らない。メイコの叫びも理解できない。
だが、ただ一つ理解できること。
この身を燃やしてでも、この爆弾をどこかへ飛ばさねばならない事。
町を――――――――――守ること。
ルカの脳内を占めるのはそれただ一つ。
その為ならば、その体がスパークを放ち、焼き切れようとしてもなお、『サイコ・サウンド』を以て事を遂行する。
誰もが止めようとしても、なお、『サイコ・サウンド』を叩きつける。
『絶対に……絶対にっ!!この町は……壊させないんだから……あああああああああああああっ……!!』
叫びが、悲痛な絶叫が響き渡る。
唯一人で闘おうとしながらも、どこか助けを求めるようなその叫び。
――――――――――果たして、その声に応え得る存在がいた。
『ルカ!!』
飛び込んできたその影は、灰色のしなやかな毛並みと2本の揺蕩う尾。
そして、躍る碧い焔。
その姿に、ルカは思わず目を見張った。
『ロシアン……ちゃんっ!!?』
ちらりと視線を合わせるロシアン。その眼には、僅かな覚悟が宿っている。
そして小さく、その口が動く―――――
「―――――『 』―――――」
その言葉を聞いた瞬間、ルカの眼は更に大きく見開かれた。
次の瞬間―――――ロシアンの体を焔が覆い尽くす。
膨れ上がった焔―――――それを裂いて、巨大化したロシアンが飛び出した。
うねる尾は見る見るうちに伸長し、チェーンの如く『破壊者』に巻き付いていく。
バチンッ!という音と共に2本の尾が先端を船に突き刺すと、同時に船が轟音を立てて浮かび上がり始めた。
『待ってっ!!ロシアンちゃんっ!!』
悲痛な表情で手を伸ばすが、ロシアンは一気に加速して空へと舞い上がる。
ようやくそこで、他の面々も理解した。ロシアンが何をしようとしているのか。
「まさか……あいつ!!」
レンが愕然とした表情で、その正解を口にした。
「あの爆発をっ……抑え込む気か!!?」
――――――――――――――大したものだ。
まさかこれほど強大な戦艦を墜としてしまうとは……吾輩の予想はあくまで、『できるかもしれない』という希望的観測に近いものだったのだがな。
お前たちは素晴らしい―――――どんな人間よりも、強く、逞しく、そして心強き者だ。
そしてそんなお前たちを育んだこの街―――――吾輩に『自分』というものを取り戻させてくれた、この街もまた素晴らしい。
そんな街を、簡単に壊させやせんよ。
なんだお前ら、そんな悲劇的な貌をして。
心配するなどまだまだ早い。吾輩を何と心得る。齢300年の猫又ぞ?
この程度のエネルギー、この焔で喰らい尽くして―――――――――――――――
≪――――――――――――――――――――ドッッッ!!!!!!≫
――――――――――――――爆炎が、空を覆った。爆音が、街の大気を揺るがした。
「――――――ロ、シアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッ!!!!!!」
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ご意見・ご感想
ゆるりー
ご意見・ご感想
なんというか、どこまでも「TA&KU」の科学者は性根が真っ黒ですね!
ルカさんのサイコサウンド、絶対の命令ができるかわりにやっぱり負担が大きいんですね(´・ω・`)
前回投稿から2年…だと…
我が家の本編も何年も止まっているので、果たしてルカさんはいつ卒業できるのでしょうか()
ロシアン先生の次回作にご期待ください!
2018/06/18 21:28:55
Turndog~ターンドッグ~
典型的なクソ野郎を忠実に描くのめっちゃ楽しいです(畜生
一切合切のデメリットがない能力はないってことですね。
世界は法則に囚われているのだ!
信じられるでしょうか、私このシリーズ作り始めた時高校二年生だったんですよ・・・
本来なら社会人2年目の歳にまでなっちゃって、ねえ?(滝汗)
大丈夫2年半ワームホールの中にいたから休学扱いになってr(メタ
ロ『吾輩の戦いはこれからだ!』
2018/06/22 11:36:06