ほろほろと流れ落ちる涙を拭おうとした少女の手から、食べかけのりんご飴がころりと転がり落ちた。
もったいない。と少年は立ち上がり、屋根の上をころころと転がるりんご飴を追いかけて拾い上げた。しかし屋根の上を転がってしまった飴は塵がついて食べられたものではない。べっとりとその赤い表面に枯葉がへばりついているのを見て、少年は顔をしかめながら、ぽい、とそれを放り投げた。
もったいない事するなよ。そう少年が少女の前に戻って言うと、だって。と少女はすんすんと鼻を鳴らしながら言った。
少女の長い耳がへたりと情けなく垂れ下がり、細い肩は心細げにふるふると揺れている。先ほどから際限なく流れ落ちる涙の粒を、少女は押しとどめようと手のひらで目元をごしごしとこする。けれど、本格的に流れ出した涙はそんなものでは止まらない。
「カミサマが急にどこかに行っちゃうのは、いつもの事じゃないか。」
そう言って少年は、泣きじゃくる少女を慰めるようにその頭をぐりぐりと撫でた。
ずっとこの雨の中屋根の上にいたのだから、少女の髪はしっとりと濡れていた。髪だけでない。少女全体がしっとりと雨に染まっていた。
いつもの事だけれど。まったくもって困った奴だ。と少年はその濡れた頭を撫でながら、思った。
「今回も、カミサマが帰ってくるまでここで待つのか?」
そう少年が問い掛けると、少女はこくん。と頷いた。
いつもそうだ。こいつはカミサマが帰ってくるのが一番最初にわかる、この場所でびしょ濡れになりながらいつもずっと待っている。
しょうがないな。と少年は呟いて、首元で結んでいた紺碧の風呂敷を解いた。そうして、ばさり、と翻して。
瞬間。少女の視界がまるで夏の青空のような色彩に覆われた。
少年はふわりと自分のマントにしていた風呂敷を、少女の上にかぶせた。
「それお気に入りなんだから、ちゃんと返してもらうからな。」
そう言いながら、落ちないように布の端を少女のあごの下で結んでやる。こんなものでは大した雨よけにはならないけれど。無いよりはましだろう。と、少年はぽんぽん。と風呂敷でほっかむりにした少女の頭を叩くように撫でる。
「カミサマが帰ってくるまで貸してやるよ。」
そう言って、にし。と笑う少年に、少女はふにゃりと、涙をこぼしながら笑顔を見せた。
カミサマはある日どこかに行ってしまった。
カミサマのいなくなった町は狂い、雨が降り出し降り続き。そして、この町に暮らしていたモノたちは、少しずつ人の形に成っていく。
蛇のような鳥のような魚のような。決してヒトでないモノたちが少しずつ少しずつ、人に成っていく。巨大な牙も美しい鱗も研ぎ澄まされた爪も強い翼も、少しずつ無くなって消えて、ひょろりとした手足にのっぺりとした肌に不安定な位置の頭に、少しずつ成っていく。
人の体は重く脆弱で面倒で。なによりも皆、今までの姿の方が好きだったから。
しっとりと雨が降りしきる、この町で。異形のモノたちは雨に濡れながらため息をこぼしながら、空を見上げながら。カミサマの帰りを待っていた。
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6.
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【これは彼の昔のお話】
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