6.あの時何が起こったか ~トラボルタ視点~
今日は二人が倒れていたあの丘の近くで私はキャンプを張っていた。
急にまばゆい閃光と共に爆発音が聞こえ、現場の近くまで行ってみた。
そこはまさに地獄絵図だった。黒い雷を放つ人らしきモノが多くの異国の兵士を惨殺していた。
いや、正確にはそのモノは何もしてはいなかった。
自分の身を守るため、あるいは敵を倒すために所持していた数多もの武器が、
あろうことか主人であるはずの兵士たちを襲っていた。
壮絶なる光景を見た私は、岩陰に身をひそめてその一部始終を傍観していた。
やがて全ての兵士がまったく動かなくなると、その黒い雷を放つヒトの目は
私の隠れている岩の方角を見つめた。
慌てて私は岩陰に完全に身をひそめた。
しかし、黒い人影はゆっくりと私の隠れている場所へ近づいてきた。
自らの周囲に血のたっぷり付いた凶気を引き連れながら。
死という言葉が私の脳裏をよぎったが、そのまま黒い雷は私を通り過ぎてしまった。
ふらふらと力なく蛇行しながら、そのヒトは少し先の丘の上に着陸した。
ほっ と胸をなでおろした、次の瞬間。
怪物のような咆哮と共に着陸地点である丘は巨大な黒い嵐で包み込まれてしまった。
その後すぐに今度は赤い雷が巨大な嵐に近づいていった。
私はまるで非日常の光景にその場でただ立ち尽くしていた。
その赤い雷もやはり同様にヒトであるようだった。
なにかを叫んでいるようだったが、
嵐の容赦ない轟音にかき消されて内容までは聞き取れなかった。
それのやり取りはしばらく続いていたようだったが、
やがて赤い雷は嵐の中に飛び込んで行った。
黒い渦の中で赤い光は徐々に頂上に向かっていった。
すると、頂上付近で赤い光は急に消えて見えなくなってしまった。
どうなったのかと考えた瞬間――
真っ赤な雷が黒い渦の中で輝き、そして丘を包んでいた嵐はあっという間に消え去っていった。
嵐の後、丘の頂上に人影が見えた。人影はわずかに上下運動に繰り返している。
傍観者である私は情けないことにいまだに動けないでいた。
再び、強烈な光、そして音。
頂上の人はバタリと倒れてしまった。
はっと我に返った私は自分の中にある、とある使命を思い出した。
丘に向かって、たくさんの残骸を避けながら走り出した。
「そして、君たち姉弟を見つけて、キャンプを張ってたここまで運んで治療したというわけさ」
トラボルタを自分の見たことをありのまま、ベットの上に座っている少女に伝えた。
少し長話だったせいか、彼はふーと息を整えた。
しかし、まだ肝心なことを聞いてないシンデレラは少し慌てた様子で質問する。
「それで、それでロミオは?」
「あ ああ わかってる。これから話すから」
トラボルタは実はまだ少し迷っていた。事実を少女に伝えることを。
しかし、嘘をつける状況ではないこともわかっていた。
その後、君たちを治療した私は二人の傷に驚いた。
特に男の子の体の火傷はひどかった。何より胸の傷は尋常ではなかった。
現状で所持している道具では、治療が不可能だっと判断した私は、
近くの都市までバイクを飛ばして、薬と道具の調達に向かった。
二人の傷はひどいが、手持ちの薬でなんとか消毒だけは済ませてあった。
簡素な小屋ながら、滅菌室は完備していたのでそこに患者を眠らせていた。
しかし、都市に移すために再び雑菌がいる外へ運び出すわけにはいかなかった。
そこで苦渋の決断として、患者を残し一人で都市に向かったのだった。
都市からの帰路、私は落胆していた。
あの二人の患者を助けるために必要な薬の多くは都市にあったが、
戦争の備品ということで、一般人には出回ってはいなかった。
それでも、なんとか頼みこんでようやく手に入れたものは、わずかな薬、消毒、麻酔……
どれも、二人の患者を救うには不十分なものだった。
特に、火傷を負った少年に必要な薬はほとんど揃わなかった。
都市内の病院はどこも、戦傷者たちでいっぱいだった。どうやら、近くで戦闘があったらしい。
医師の救援も不可能だと判断せざるをえなかった。
私には時間もなかった。
早く戻らなければ患者の容態が悪化していてもおかしくない。
仕方なくわずかな薬を持って都市を後にしたのだった。
ようやく戻ってきた頃には、すでに小屋を出てからずいぶん時間が経過していた。
持っていた懐中時計で時間を確認しようとしたが、
時計はぐるぐると逆回転して壊れてしまっていた。
とにかく、治療をするため患者が眠っている部屋に入った私は異様な光景に気がついた。
そこには少女が一人眠っているだけ……。
あり得ないことだった。あの傷で動けるはずはなかった。
外の裏口の方角が少し明るいのに気が付き、外へ飛び出した。
月明かりに照らされる一人の少年の後ろ姿がそこにあった。
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