♪歌を忘れていた
しばらくして、ふと、リンちゃんは悩み始めました。
「このままで良いの?」
またお歌をたくさん歌ってKAITOやミクちゃん、ルカちゃんと遊びたくなりました。
これから、中学生になって新しいお友達ができるのか不安になりました。
ある日、おやつにアイスが出た日にどうしてか、涙がこぼれそうになりました。
「KAITOの好きなアイスだ…」思い出して、胸が苦しくなって、美味しいはずのアイスの味が分からなくなりました。
♪名前を呼ぶ
そして、我慢ができなくなってKAITOに会いに行きました。会いに行くといっても、同じ家の中でのことです。KAITOはリンちゃんを見つけると、わずかにまばたきしたようでした。驚くこともなく、じっとこちらを見ていました。
「KAITO!」
柵を掴んで、空っぽの部屋に叫びました。それから、何度も謝ろうとしました。
しかし、それはされることがありませんでした。
KAITOがわずかに笑いながら歌いだしたからです。
あれから、何もしなかったKAITOがリンちゃんの言葉で、凍って止まってしまっていたかのような体を動かし始めました。唇が震え、頬や喉が動き出します。大きい手もこちらに向けて伸ばしてくれました。
♪同じ温度
リンちゃんは、その曲に覚えがありました。はじめに歌ってもらった曲でした。
それから、胸がきゅっと詰まって、嬉しいはずなのに、何も言えなくなってしまいました。
柵のすき間から、二人は手を繋ぎます。
KAITOの冷たい手は、リンちゃんと同じ温度になっていきました。
♪謝ったのは
「ありがとう、おじょうさん」
そう優しくKAITOはつぶやいて、「僕がいない毎日はどうでしたか?」
そうイタズラっぽく笑いました。
リンちゃんはまた少し怒りたい気持ちもありましたが、何もまた言えませんでした。
すぐに困った顔で、「でも、もう、僕は一緒にはいられないかもしれません。ごめんなさい」そう続けられたからです。
♪ずっと、おじょうさん
「どうして!?もっと良い子になるもん!!だから…」
そう大きな声でリンちゃんは泣き出しました。
KAITOは頭を撫で始め、ずっと幼いころと同じようにしはじめました。
「だから…子ども扱いしないで…」
KAITOはそれでもあやしつづけます。
「僕は、ずっと…「お兄ちゃん」なんですよ?」
「ママが怒るからじゃなくて、おじいちゃんが僕を迎えに来るんだよ」
「僕はちゃんと、良い子にしていたのは知っているよ。ずっと一緒にいたからね」
「…僕はおじいちゃんの代わりだったのかもしれないね?」
KAITOがゆっくりと話していても、リンちゃんの頭には入ってきません。
「どういうこと?」
泣きじゃくったリンちゃんの目元を抑えながら、またKAITOは声を出し始めます。
♪お別れが来ること
「僕よりも、おじいちゃんとお別れするのが早いかもしれないよ?」
「おじいちゃんもね、もっとずっと、みんなと歌って暮らしたかったと思うな」
「だから…僕はずっとおじいちゃんに、リンちゃんは頑張ってますよ、こんなに可愛いんですよ、って教えにいかなくちゃいけないんです」
「動けるのに動かなかった僕と、動けなかったおじいちゃん。似ているけれど、違ったね」
リンちゃんはびっくりしてしまいました。
「そんな…リンもおじいちゃんに会いに行く!」
「KAITOとも遊ぶの!」
♪教えてください
「でも、ずっとはおじいちゃんとは、いられないよ?」
「学校でも、これからも、お友達と楽しく過ごして欲しいって、おじいちゃんも思ってると思うな」
「だから、今度はおじょうさん…リンちゃんの代わりになりに行くんだ」
「それまでの間、たくさんの事を…学校で習った歌、ママやお友達とケンカしたこと、テストの難しいお勉強、新しい遊び方、僕よりもカッコイイ人…」
「何でもいいんです。僕に、教えに来てくれますか?」
♪約束
リンちゃんは、わかった、じゃあ約束ね。と指切りげんまんをしました。
それから、ママともお話をして、時々KAITOに会うことにしました。
だんだん、リンちゃんはKAITOと会う時間が減っていきました。
お人形でないお友達と過ごす時間が増えれば増えるほど、KAITOと会う時間が減っていきます。
KAITOの部屋にはリンちゃんのアルバムや、どうしても捨てられないものが置かれるようになりました。取り出すことは大変です。
でもそれが、KAITOには嬉しそうでした。
KAITOのお誕生日には、植木のお花をあげました。
そのお花も、いつからかどこかへ行ってしましました。
○
○
♪花のある庭
日の当たる部屋に、おじいちゃんが青い眼の大きなお話するお人形といます。
「KAITO」
呼ばれて、洗濯物を干していた青年が答えます。
お人形なのか、ロボットなのか、人間なのか…分からない見た目でしたが、髪が特別な色をしていました。
「何ですか、マスター」
「庭に連れて行ってくれるかい?」
「それから…私の可愛いお嬢さんの話をしておくれ」
「わかりました」
二人とも嬉しそうにして、車椅子を青年が押して外へ出ました。
しかし、おじいちゃんは、お花畑でしおれる花を見て、すぐに悲しそうになってしまいました。
「KAITO。俺がいなくなったら…また、リンのところへ戻りたいかい?」
少し考えてから、KAITOは答えました。
「さあ?すぐには戻りたくないですね…」
「…マスター。シャボン玉で遊びませんか?」
「それと、シールいりませんか?」
おじいちゃんはちょっとだけ元気になりました。
「まるで子どもみたいな遊びだね」
「リンとも、こうしていたのかい?」
KAITOは曖昧に笑います。
「お遊戯やお歌の時間まで、まだありますから」
「それまで、たくさん、僕にお話させてください」
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