21.全てのはじまり(前編)
――しまった!!
慌ててテントの外へ飛び出し、辺りの様子を確認する。
360°赤い点がいたる所で鋭い光を放っている。
テントを中心に見わたす限りに数えきれないライジュウが取り囲んでしまっている。
小型のものから、超大型のやつまで。
「おいおい、これから世界大戦でも始まるのかよ」
もう呆れたという様子でシンデレラの口から思わずため息がこぼれた。
――そんなに特別な力を秘めている子なの? いや、そんなこと関係ない。
この子はもう私にとって何よりも大切な特別な子。守るんだ、守るんだ、今度こそ――
鳴り続ける地鳴り音でとうとうクミが目を覚ましてしまう。
テントの出口に立っているシンデレラを見つけて、声をかける。
「おはよう シンデレ――」
少女の目にシンデレラの向こうに待ち構えているおびただしい数のライジュウが映る。
言葉を失っている少女の頭をシンデレラが優しくなでてやる。その顔は笑っている。
「大丈夫だから、私の強さ知ってんでしょ? 信じろよ。ヨユーってやつさ」
クミはシンデレラの瞳を見つめる。その奥に強く光る何かが見えた気がした。
少女は震えていない。おもむろにテントの中からシンデレラの愛刀を持ってくる。
「当たり前だ。待っててやるから、ちゃちゃっと片づけて戻ってこい」
とびきりの笑顔で手に持っている刀をシンデレラに差し出す。
「へへ、言ってくれるね。こりゃプレッシャーだな……」
クミの差し出した刀を受け取り、少女に背中を見せる。
「それじゃ、行ってくる……」
大きな背中を見せたまま、左手をあげて答える。
「私、ずっと見てるから。信じているから。だから……絶対帰ってこいよ」
クミはシンデレラの背中に向かって親指を上に突き上げて、GOODサインを突き出す。
シンデレラは振り向くことなく、
上にあげたままの左手で同じくGOODサインをつくってみせた。
シンデレラの全身から赤い雷が発される。それはかつてない程の強さの雷。
たった一人の女性を中心に地響きと地鳴りが発生している。
それに伴い右手に握りしめた刀の刀身もかつてないほど赤く光を放つ。
次の瞬間、赤い雷はひとすじの矢となって正面の獣の群れに飛び込んでいく。
強烈な光が辺りを包み、すぐ後にすさまじい音がその場に響き渡る。
クミはどれほどの轟音が鳴り響こうとたじろぎもせず、ただシンデレラの戦いを見続けている。
シンデレラはクミを中心するように、ぐるりと周回しながら獣の群れを次々せん滅していく。
圧倒的な速度・力を前に獣たちは少女に近づくこともできずにいる。
まさに一騎当千。次々とせん滅していく姿はまるで鬼神がごときである。
赤き光の筋がクミの周りを何周、いや何十周した頃だろうか。
後方で控えていた巨大なライジュウたちが満を持して動き出した。
殺戮しか考えていない獣にしては非常に統率がとれている。
いや、これも殺戮しか考えていないが故の本能なのかもしれない。
「いよいよ、メインディッシュのおでましか。前菜はもう飽き飽きしてたとこなんだ」
乱れた髪を整えながら、シンデレラはそう言い放った。
しかしその前菜との戦いでの傷が体中に残っている。
より一層彼女の雷は輝きを増していく。
自分の何十倍はあろうかという巨獣に飛びかかっていく。
腕を切り落とし、胴を殴りつけてふっ飛ばし。
相手がどれだけ巨大でも決してひるむことはない。
その様子は遠くにいるクミにもはっきりと見てとれた。
しかし集団との戦い。
シンデレラは背後から巨大な獣の手に払われ、岩壁に吹き飛ばされてしまう。
崩れさる岩壁。しかし、すぐさま瓦礫の中から爆発がおこり、シンデレラが現れる。
シンデレラは高らかに笑いをあげている。
「へへ、やっと体が温まってきたかな。ここからが本番だ」
飛びかかっては倒し、吹き飛ばされ、またよみがえることを何度も繰り返している。
シンデレラの体は次第にボロボロになっていく。
しかし、それとは反対に倒されるたびにシンデレラの放つ赤い輝きはより強くなっていた。
荒野にシンデレラの掛け声が響き渡る。
遠く離れた所で少女はこぶしを握りしめ、それを聞いている。
「最後の 一匹……」
辛うじてシンデレラは一匹のライジュウを倒した。
シンデレラは地面にひざを立て、刀を地面に突き刺し、なんとかその場に立っている。
「だったら、どんなに良かったことか……」
シンデレラの小さなため息も、辺りに響き渡る強烈な地響きにかき消されてしまった。
シンデレラはゆっくりと体勢を立て直し、天を仰いだ。
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