風澤望はアンダーポイントである。

 ひょんなことからクラスでもマスコット的な存在であるイリーナ・アンダーソンの『お兄ちゃん』になった。
 純日本人の望に対して、イリーナは金髪碧眼の10歳児。もちろん血は繋がっていない。少女に気に入られ、お兄ちゃんになってほしいと頼まれたのだ。

 + + +

 そんな二人が下校している時だった。
 数メートル先を歩いていた女子生徒のスカートが風でめくれた。

(お、ピンク。ラッキー)

 ちょっとうれしかったが、イリーナに気づかれるとまずいので平静をよそおう。

「お兄ちゃん、今、女の人のパンツ見たでしょ?」

 だがバレていた。イリーナは妙にカンが鋭いところがある。
 10歳で飛び級して高校進学を果たす頭脳は伊達ではないのだ。

「いや、そんなことは……」
「うそをついても、お兄ちゃんの顔を見ればイリーナ、すぐにわかっちゃうよ」

 平静をよそおったつもりが、目元がニヤけている。これでは10歳の少女も騙せない。

「ごめん、チラッと見た」
「もお、お兄ちゃんって本当にエッチなんだから」

 妹に叱られ、申し訳なさそうに背中を丸める。
 幼い少女に叱られる男子高校生という状況に情けなくなった。
 それも、パンツが原因である。

 落ち込んでいる望を見て、イリーナが彼を励ます。

「お兄ちゃんがエッチなのは前から知ってたし、もう気にしてない。だからそんな顔しないでよ」

「本当に?」
「本当だよ。でもあんまりエッチだと、イリーナが困っちゃうから、ほどほどにしてね」

 イリーナが彼を見上げる。

「わかった。ほどほどにする」

 ちょっと妙な返答ではあったが、望はもとの明るい表情に戻っていた。
 するとイリーナが、うーん、と小首を傾げて考える。

「ねえ、お兄ちゃん……イリーナのパンツも見たい? お兄ちゃんが見たいならいいよ」

 少女がスカートの裾に手を伸ばす。そして上目遣いで望を見つめた。
 その時の彼は、すごく微妙な表情だった。嬉しいとも嬉しくないともつかない、なんというか家族の裸を見たような、まったく違うような、表現が難しい表情。

「えーっと、それじゃあ、イリーナが大きくなったら見せてもらおうかな、うん」

 望が口にしたのはそんなセリフだった。
 イリーナが残念そうな顔をする。

「お兄ちゃんがロリコンじゃなくて助かっているんだけど……ロリコンでもよかったのになあ、って思う時あるよ。イリーナ、お兄ちゃんならエッチなことをされてもいいよ」

 少女が頬を染める。彼女は10歳の幼い少女だが、立派な女の子なのだ。小さな体に相手に対する熱い思いを秘めている。

 しかし望はイリーナの気持ちが理解できなかったらしく、気の抜けたような声を出してしまう。

「……そうなんだ」

 これにはイリーナも我慢できなかったらしい。
 顔を背けると、両頬をプクーと膨らませる。

「もう、お兄ちゃんのばかッ」

 そして一人で先に行ってしまう。
 望が急いで後を追った。

「そんなあ、イリーナまで僕のこと『バカ』って言うの?」

 本当に何もわかっていないらしい。

「イリーナ、待ってよ」

 望がよびかけても、怒ったイリーナは無視してどんどん歩いていく。
 慌てて少女の隣まで駆け寄った。

「どうしたのイリーナ?」
「お兄ちゃんなんて、もう知らないッ」
「そんなあ、機嫌直してよ」

 妹の態度に、兄はたじたじだった。

 + + +

 風澤望はアンダーポイントである。
 そして、金髪碧眼の幼い美少女、イリーナの大好きな『お兄ちゃん』だ。

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+Cな日々 Day5(イリーナと下校中)

閲覧数:96

投稿日:2013/10/10 21:27:53

文字数:1,509文字

カテゴリ:小説

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