~リンside~
…リン……ごめんね…
寝言で呟いた些細な言葉と、目の前にいる大好きなレンだけが、
私に愛という感情を思い出させてくれた。
「でも、このままでいいのかしら…」
レンは関係ないといったけど、魔女と人魚は相反する者。この関係が知られれば、
レンは禁忌を犯したと永久的に外界には出られなくなる。
「……だけど、真の姉は私だもの。きっとこのまま隠し通せるわ」
私は眠る彼の頬に温かなキスをほどこした。
……
そして数ヶ月間、私とレンは新月の晩だけ、密会をおこなった。
レンと私が唯一逢える幸せな時。
「リン……」
「レン……」
素足に口づけを施し優しく笑うレンに私も微笑み返す。
「…誕生日来月だね」
「そうね……でも確かその日は満月の晩よ。人魚が最も力を活性化させる日」
「でも、2人の誕生日だよ!!リンと祝いたい!!!!リンはどうなの?」
「私だって祝いたいわよ?でも……」
レンは私の言葉を黙って待っていた。
「貴方の姉にバレたら私達は逢えなくなる。私は新月の晩だけでもこうしてレンに逢えて幸せよ?」
その私の言葉を聴いて、レンは笑った。
「嘘つきだね。リンは」
「嘘じゃないわ?」
「だって、ボクが帰るときリンはいつも淋しい表情だよ?」
「それは……」
沈黙は肯定と同じ。
「新月の晩だけじゃ、ボクは満たされない」
「私だって満たされないわ」
お互いに満たされない心を持っていたのだと知り、私はレンに従うことにした。
「じゃあ…次の満月の晩、人魚界と魔女界の境界で待ってるから」
「わかったわ」
そして夜明け前に2人はそれぞれの世界へと帰った。
「姫っ!!!ラヴィア姫様!!!」
「姉さん呼ばれて」
「しーっ!!!!レイチェルっバレちゃうでしょ」
岩陰に隠れる義姉さんとボク。
「今日は人魚族の宴の日なんだから…主役の姉さんが行かなきゃダメなんじゃ……」
「レイチェル王子!!どこにいるのですか~!!!!!!!」
「レイチェルあなたもね」
クスリと笑う義姉さん。
家臣はどうやらボクの事も探しに来たようだ。
そう、ボクら2人は周囲から愛されている時期人魚族の後継者。
容姿のせいもあるのか何故かボクも皆から好かれているようだ。
「見つけたわよ~♪」
「あっ♪ママだ!!!!」
「母上様!!すみません…」
「まぁっ!レイチェルったら!!!ラヴィアと仲良くなれたみたいで良かったわ」
「はい…」
「あっレイチェルが照れてる~♪」
「姉さんっ!からかわないでよ!」
背後から現れた母親に驚きながらも、ボクらは笑い合った。
これはこれで幸せな世界。
でも、ボクはやっぱりリンとも一緒に居たいんだ。
そして満月の晩―
「リン姉様!!!」
「レンっ!!!!!!!」
ボクらは明るい場所で密会をした。
「お誕生日おめでとう!」
そう言ってボクは小さな包みを姉様に渡した。
中身を開けた姉は、手作りの貝殻のネックレスを愛おしそうに身につけた。
「……綺麗な薔薇色。ありがとうレン」
微笑む姉を見て何故か胸が疼いたが、
「どういたしまして」
と笑顔でボクは応えた。
「私からも贈り物があるの」
そう言って姉はボクの手に大きな包みを手渡した。
「オルゴールと短剣…?」
「オルゴールは私達の子守歌を魔法で箱に収めたの。短剣は…これから人魚族の王子として修行を頑張るレンにとって役立つと思ったから…」
照れ笑いする姉。
姉の思いがボクにはとっても嬉しかった。
「ありがとう!!!ボク頑張るよ!!!!!」
「うん…!!」
「2人だけで今夜は祝おう」
「私達、双子の誕生日をね」
優しく微笑み合うボクらを……
唖然とした表情で見つめ、涙を流す少女がいるなんて
ボクはこの時気付けなかったんだ。
――2人だけで祝おう
―双子の誕生日は
私は、レイチェルの姉では無かったの?
あの子の本名はレンというの?
ママやパパはそれを知っていて隠していたの?
突然レイチェルが居なくなり、心配した人魚姫は必死で探し、レイチェルを見つけた。
そして…一つの真実を知ってしまった。
「……なら。私だけが姉になればいい。そうすれば偽りは真実になる。誰か術を知る者は……」
海に昔から伝わる……
海月の洞窟に住む占い師なら何か方法を知っているはず………
そう考えた彼女は岩場を後にし、すぐに満月の日しか見つけられない洞窟へと向かった。
「…海月族の占い師ミクリアよ。頼みがあるのです」
「あら…珍しい客人だこと。わたくしに何のようかしら」
美しい緑髪の少女は、私を見つけると優しく微笑み、椅子に腰掛けるように促した。
「で、頼みとは何でしょう?」
「記憶を消す…事は出来ますか?」
「きおく……ねぇ。記憶はその人にとって大切なもの。消すという概念がわたくしにはわからな……」
突然泣き始めた人魚姫に動揺したミクリアは、何か深い理由があるのだと悟った。
「理由を教えて?」
「実は…私が本当の姉なのに、違う少女を実の姉だと弟が思っているんです……だから」
「その記憶を消してほしいのね」
任せてとばかりにミクリアはおもむろに歌を奏で始めた。
―さぁ…海に宿りし歌たちよ~♪
―彼女の望みを叶えられる者は私の前へ~♪
すると光に包まれた貝殻がミクリアの広げた両手に舞い落ちた。
「この貝殻から聞こえるメロディーを歌えば弟くんの記憶は消えるわ」
「ありがとうございますミクリア様!!」
涙を吹いた人魚姫を優しく抱くミクリア。
「頑張ってね」
「はいっ」
笑顔で去る人魚姫。そして次の新月の晩…
ミクリアは恐ろしい真実を知ることになる。
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