UVーWARS
第三部「紫苑ヨワ編」
第一章「ヨワ、アイドルになる決意をする」

 その1「プロローグ」

 西暦二〇××年、アイドルは滅んだ。
 二千年代初頭に「会いに行ける」をコンセプトに、ファンとの距離を縮めるアイドルが増え、ファン獲得競争が激化し、モラルの低下が物議を醸していた頃、事件が起きた。
 二〇二×年、ライブを終えたデビュー間もない女性アイドルが、ライブハウスの外でファン獲得のため、ビラ配りをしていた。そのアイドルが、数人のファンに拉致され乱暴されたのである。
 主犯格の青年は自首し、芸能レポーターが目の色を変えて飛びつく裁判が始まった。
 ところが、裁判が始まるや、被害者のアイドルは告訴を取り下げ、青年は無罪放免となった。
 同じ頃、インターネットの動画投稿サイトに複数のアイドル動画が投稿された。
 その内容の信憑性はともかく、ほぼ全てのアイドルが何らかの形で、自分たちを売り出すため、大物たちに媚びを売っていたという内容だった。
 大物といっても様々で、テレビのプロデューサーだったり、大会社の重役だったり、国会議員だったり、役人だった。
 プライバシーの侵害を訴えて動画の削除を繰り返したが、一時間もしない内にすべての動画が復活した。
 当然ニュースでも取り上げられた。
 最初は海外ニュースサイトから起こり、動画には一切の編集や加工の跡はないことを断り、動画が放送された。
 現役経産省大臣がトップアイドルと有名ホテルのロビーで待ち合わせ、スイートルームに仲良く入っていくところまでが映っていた。ニュースの取材に対し、ホテル側はノーコメントだったが、近くのコンビニの防犯カメラには大臣の専用車がホテルに入っていくところが映っていた。当初は合成ではないかとも思われたが、肝心の二人にアリバイがなかった。
 政治的な背景は省くが、現役大臣は急病になり、やがて大臣を辞任した。
 当のアイドルは、長期療養のため渡米し、そのまま消息不明になった。
 ゴシップ誌がビデオの検証を開始するまでに三つのアイドルグループが解散し、二人のアイドルが引退した。
 ゴシップ誌の発売とともにアイドルは、マイナーな地方アイドルを除き、全てテレビから姿を消した。
 その後、何度かアイドル再生を試みるものが現れたが、スキャンダルによって悉く一年を待たずに消えていった。
 その後の十数年、テレビには実力派歌手とバーチャルアイドル以外の女性歌手は映らなくなった。
 長期に渡るアイドル不在の期間は後に「アイドル氷河期」と名付けられ、その発端となった暴行事件は「S事件」と呼ばれた。
 氷河期は十数年続いた。

         〇

 十数年のときを経て復活したアイドルは、人間離れしていた。
 まず体力が常人では考えられないほどだった。一人で二十四時間歌い踊り続けることができた。もしかするともっと長時間歌うことが可能だったかもしれないが、見ている者の体力の方が続かなかった。
 さらに演技力も持っていた。一人の中に複数の人格を持つ多重人格者を思わせるほどだった。
 そして、仕事の選り好みをしなかった。「仕事が選べない」と言い換えることもできた。
 極めつけは、一切のプライバシーがないことだった。彼女たちには常にカメラが付きまとい、一挙手一投足が二十四時間、SNSで中継されていた。例外はトイレと入浴の時間だけだった。
 常人には耐えられない状況を涼しげに楽しんでいる姿に、いつしか人は畏敬の念を抱き、憧れるようになった。
 人々は、好意をもって、人間離れした彼女たちをこう呼んだ。歌を歌う機械人間、「ボーカロイド」と。

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UV-WARS・ヨワ編#001「プロローグ」 

構想だけは壮大な小説(もどき)の投稿を開始しました。
 シリーズ名を『UV-WARS』と言います。
 これは、「紫苑ヨワ」の物語。

 他に、「初音ミク」「重音テト」「歌幡メイジ」の物語があります。

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投稿日:2017/12/02 09:46:17

文字数:1,516文字

カテゴリ:小説

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