小説 『創世記』


発想元・歌詞引用:U-ta/ウタP様 『創世記』

   

si! yara tufary tereya
スィ ヤーラ トゥファリ ティレヤ
“謳え 創世の詩を”

cety durtia lofida
セティ ダルティア ロフィダ
“与えられた命”

shenna sado passe rosaty ya!
シェナ サドゥ パッセ ロサティ ヤ
“熱き想いと共に燃やして”

tir asce tu arreta sutyfan amole
ティル アッセ トゥ アレータ サティファン アモーレ
“我等を包む全てに愛を奏でよう”

aa- miseley oh- san affara ha-
アァ ミゼレィ オゥ サン アファーラ ハー
“嗚呼 祈れよ 光あれ”

* *

「サナファーラ! 」

 初夏の風の吹き抜ける田園に、鋭い叱責の声が響いた。

間髪おかずに、高い悲鳴と、何かがぬかるみに落ちる音が続き、泣き声が抜けるような青空に突き上がった。

「まったく! いつもあんたは、なんてことをしてくれるんだ!」

 あぜ道には、田植えのために必要な苗が散らばっている。
 あぜ道の脇の低い斜面を転げ落ち、泥の中でサナファーラと呼ばれた子供がうずくまって泣いていた。
どうやら、苗を田に運ぶ途中に落とし、叱責されてあぜを転げ落ちたらしい。遠くで、同年代の幼い子供たちが、にやにやと笑いながら面白そうにその様子をのぞいている。

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 泥の中に座り込んで泣く子供は、黄土色の髪の毛にはねた泥を泥だらけの手でこすり落とす。肩のあたりではねていた明るい色の髪が、泥を擦り付けられて、首筋にぺたりと張り付いた。

「これくらいの苗、落とす重さじゃないだろう!」
「だって……ティルたちが、もっと持てって……だから、受け取ろうとしたら」
「言い訳するんじゃない!」

 サナファーラがひいっと再び高く泣き声を上げ、泥まみれの手で涙をぬぐう。他の者よりも色の濃い、小麦色の肌に田の灰色の泥が擦り付けられ、そこにまた涙が伝った。

「いつまでも座ってないで、とっとと上がってきな! 根がだめになる前に苗を拾え!」

 ひぃぃん、と泣きながら、はいつくばってサナファーラが土手を上ってくる。

「手伝いも満足に出来ないで、すぐ泣いて! まったく、どうしてこんな『開拓者(パイオニア)』魂の無い子が、この星に生まれてきたんだろうねぇ!」

 サナファーラが、やっと道の上に這い上がった。
 じりじりと高く迫っていく太陽の下、稲の苗を拾い上げた。
 自分の背丈のほぼ倍はある、稲の苗を。

             *          *

 広がり続ける宇宙、あまたの銀河。
 そのとあるひとつの片隅に、奇跡の恒星系があった。

 太陽系と呼ばれるその星たちの中に、地球と呼ばれる星があった。
 複雑な物質循環の形態を作り出し、その流れの中に、生き物が存在した星だ。

 生き物の中でも、人間と呼ばれた種類の生き物は、とりわけ自己保存欲が強く、とにかくよく増えた。
 湿った蒸し暑い熱帯からマイナス40℃の世界の寒帯まで、人間はありとあらゆる場所で生きるすべを得た。地球と呼ばれる星が彼らにまんべんなく覆われたころ、人間たちは、ある考えに至った

「生きたい。増えたい。けれどこのままでは、人間以外の生き物を食らい尽くしてしまう」
「地球に住む場所が無くなってしまう」

 それは、生き物として自然な行動だ。
 生きること。そして増えること。そのために他のものを吸収すること。自分の周りを、自分が快適に生きられるよう、作りかえること。

 それは、地球上のどの生き物もしていることだ。
 そして人間は、どこまでも生き物として行動することを選んだ。

 宇宙へ。

 生きる場所を、貪欲に求めて、ふるさとの地球を旅立ったのだ。
 生きたい。増えたい。気持ちよく過ごしたい。
 単純で力強い、生き物としての切なる願いを旗印にして。

 人間が新しい住処に選ぶ星は、まず固体であることが望ましい。
 燃えさかる星はダメ。気体の星もダメ。
 個体であり、温度が適度であり、大きさ、つまり重力が適度であることが絶対の条件だ。

 宇宙は広い。あまたの星のなかから、そのような星を見つけることは困難に思われた。
 しかし、人間は、見つけてしまったのだ。しかもあちこちで、かなりの量。

 住みかにするために星を探していた人間は、見つけた星に対して、生き物としてふるまった。

 その星を、ふるさとの地球のように作り変える。

 テラフォーミングである。

 そして、生きるすべを得た。その生き物としての特性を生かした、多少、残酷な方法で。

 人間は、自分たちが生き物として「強い」ことを知っていた。
 宇宙のあちこちに散らばった星を探す者たちは、まず星を見つけたら、その星に住める環境を育てる。土壌と、気温と、光と、水。
 発見した星に、ある程度の条件が整った時、人間が住む環境づくりの総仕上げとして、星に、あるものを投下するのである。

 それが『開拓者(パイオニア)』と呼ばれる、生き物だ。

 この生き物は、人間にそっくりな外見をしている。
 それもその筈、人間は、自分たちの遺伝子から、この『パイオニア』を作り上げたのだ。
 パイオニアが人間と違うのは、ただ二つ。

 伸長が15センチから20センチほどしかないこと。
 そして、寿命が5年ほど、と短いことだ。

 しかし、それ以外の性質は、人間とそっくりだった。
 生きることに貪欲で、よく増える。
 寿命の短いパイオニアたちは、よく働き、よく増えた。

 新しい星に、人間たちはこの『パイオニア』と投下して、自分たちが住むための環境の下準備に利用したのだ。
 人間が生きるためにまず必要な、自然を扱う農業を教え込み、投下し、土や環境の準備をさせる。
 人間と同じ、強い生への欲求で、その星の表面を瞬く間に『ヒトの住める空間』に整えていくのだ。

 住める環境が整ったかどうか、検査をするのに、自分たちと同じ性質を持った『パイオニア』ほど便利な生き物はいない。
人間は、星のあちこちでコロニーを作るパイオニアたちの長と連絡をとり、星の状態を知りながら、『パイオニア』たちに次の行動を教えていくのである。

 そして、星全体の環境が整った暁には、この小さな分身たちを、すべて排除し、本当の人間がその大地に降り立つのだ。

 残酷だが、自らの分身といえるパイオニアが地上に残れば、人間にとって強力な競争相手となる。自分たちの住み家を確保するために、多大な労力を費やした人間にとって、パイオニアの住み家のために、自分たちの住む場所が減ることは、本末転倒なのである。

 もちろん、このことはパイオニアたちには知らされていない。

 いくつかの星でこの方法が実行された。

 そのすべての星で、この方法による人間の移住は成功した。

 自らをうつした生き物を造り、それを操る。
 それはまさに、神の所業だった。

 『パイオニア』たちは、投下された星で、人間の言うことをよくきき、よく働いた。

 生きたい。増えたい。気持ちよく過ごしたい。

 単純で力強い、生き物としての切なる願いを旗印にして。


         
……続く。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

小説 『創世記』 1

発想元・歌詞引用:U-ta/ウタP様 『創世記』
 音楽 http://piapro.jp/content/mmzgcv7qti6yupue
 歌詞 http://piapro.jp/content/58ik6xlzzaj07euj

閲覧数:427

投稿日:2010/04/07 20:06:13

文字数:3,093文字

カテゴリ:小説

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