*
鹿野君は、三階の休憩室まで走って止まった。
「ど、どうしたの?」
息切れしながら喋る私に、鹿野君は答える。
「わ、わかんない……」
鹿野君は肩で息をしながらそう言った。
「何でか、体が動いてた。エノヒロと……加治屋さんが一緒にいるのがダメな気がした」
鹿野君はそう言って大きく息を吸った。
理不尽だ。鹿野君が理不尽すぎる
「なんで、理由もわからないのに私をここに連れてくるのよ……」
鹿野君の表情は悲しそうで何か言いたげだ。
でも、私の怒りは止まらない。
「私、せっかく勇気が出たからエノヒロ君に想いを伝えようとしたのに……。なんで邪魔するのよ……」
私がそう言い切ると、なぜか胸の辺りがスースーして。涙が出てくる。
「いや……。違う……かじ……」
「大っ嫌い」
私はそう鹿野君に言い捨て、休憩室を出た。
涙が止まらないまま、自分の部屋に戻った。
*
加治屋さんが去った休憩室には、虚しさと僕の心配が残った。
これからどうするか。
見ていた人がいたらどう理由をつけようか。
これからまた、加治屋さんと仲良くできるだろうか。
エノヒロは怒ってないだろうか。
明日、どんな顔で加治屋さんに会えばいいだろうか。
なんでこんなことをしたのだろうか。
色んなことを考えているうちに、目から涙がほろりと落ちてくる。
こんなはずじゃなかった。
なぜか、体が言うことを聴かなかった。
エノヒロと加治屋さんが喋っているだけで胸が熱いのに。
告白となったらどうなるところだっただろうか。
僕は、気付かぬうちに加治屋さんを好きになっていたのだろうか。
そうだ。そうしかありえない。
でも、嫌われた。
これからどうしよう……。
心の奥に隠していた心配性の亜心の魔が顔を出す。
「ははっ。参ったなぁ」
僕はいつもの笑顔を独りでに浮かべる。
いつも、これが良薬だったのだが、今となっては効かない。涙が止まらないのだ。
僕は休憩室の椅子に座り、声を殺して泣いた。
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