あれから八ヶ月がたった。それでもぼくと君の距離は全く変わっていなかった。相変わらずぼくは君に話しかけることも出来ず、気づけば二学期が終わってしまっていた。それでもぼくは、ぼくが君を知っているだけで幸せだった。例え、これ以上近づけなくとも…

タッタータター、タッタータター、タッタータタータ、タタタタター…

ぼくはピアノを弾きながら、長いようで短かった四月から今までを思い返した。

五月に新入生研修会という遠足のようなものがあった。この研修会は基本五人で作られた班で行動する。班決めのときにぼくはなんとか君と同じ班になりたくて、君に近づいていった。しかし、明るく快活な君の周りにはあのレオン君はじめ数人の友達が既に出来ていて、まるでぼくを阻んでいる様だった。結局ぼくは余ってしまい君と同じ班にはなれなかった。

七月のテスト明けに、クラスで一学期お疲れ様会的なことをやろうという話になった、ぼくははじめ参加しようかどうしようか悩んでいたが、幹事のレオン君に参加するつもりと言っていた君を見て、参加することに決めた。お疲れ様会前日。こういう打ち上げ的なものには一切縁の無かったぼくは緊張してあまり眠れなかった。それが災いしたのだろうか?翌日ぼくは熱を出してしまい、結局お疲れ様会には参加できなかった。

八月には地元の神社のお祭りがあった。毎年、夏休みのほとんどを外に出ずにピアノばかり弾いて過ごすぼくだけど、小さい頃母さんが連れて行ってくれたこのお祭りだけは必ず見に行くようにしている。ぼくは屋台でチョコバナナを買い、自分の町内が上げる仕掛け花火を見たあと、そろそろ帰ろうかと足を帰り道に向けた。そこでぼくは見てしまった。境内の裏に座りりんご飴を舐める君…とレオン君?その二人の姿はまるでカップルでぼくはその光景から急いで目を離して、走って帰った。

九月に桜崎中学は文化祭がある。その頃には君とレオン君が付き合っているという噂はかなり広まっていた。意気消沈していたぼくは唐突に先輩から文化祭のステージ発表でピアノの伴奏をしてくれないかと頼まれた。人前に出ると上がってしまうぼく。普段なら絶対に断る話…でも投げやりになっていたぼくはなぜかこれを受けてしまった。なんとか無事に演奏を終え、先輩達と一礼する。頭を上げると、偶然ぼくの眼が君を捕らえた。君は微笑んで拍手をしてくれている。なんだかぼくはとても幸せだった。

十月、体育大会があるのは全国共通なのだろうか?ぼくは運動が苦手だ。それなのにクラスで大会の選手を決めているときになぜかぼくはリレーの補欠になってしまったのだ。そして当日。こういうときに限ってリレーの選手が骨折で走れなくなってしまう。仕方なく走ったぼくは三人に抜かれた上、バトンパス直前で盛大に転んでしまったのだ。仕方ないと言いつつも悔しそうな顔をするクラスメート、当然ぼくは君の顔なんて見れなかった。

タタタタタタタタタタタン、タタタタタタタタンタンタタタン、タタタタタ、タン、タン、タン、タタタタタタタタータタン…



そして今、十二月…冬休み真っ只中だ。ぼくは不意にピアノを弾く手を止めると、立ち上がりコートに袖を通した。毎日ピアノばかり弾いていて気づかなかったが、ふとピアノに立てかけている母さんの写真を見たときに思い出した。

…今日は十二月二十七日だった…

ぼくは今近くのケーキ屋に向かった。十二月二十七日、それはぼくの誕生日だった。去年は母さんがこのケーキ屋でぼくにケーキを買ってくれたのだった。急にその味が懐かしくなったぼくは去年の物と全く同じケーキを買ってその店を後にした。しかし、ケーキ屋を一歩出たところでぼくの足は止まった。目の前に一週間ほど見ていない顔があったからだ。ぼくは一気に緊張して、口をもごもごさせなんとか「久しぶり」と言おうとした。でもぼくの顎が動く前に、君は直ぐに後ろを振り返ると、

「もう、レオン遅いよ!」
君がそう言うのと同時に息を切らしたレオン君が曲がり角を曲がって現れた。

「リンが早すぎるんだよ!!そんなに今日発売の新作のケーキが食べたいのかい?」

「当たり前じゃない!みかんを生地に練りこんで、オレンジとデコポンのソースをかけて、ポンカンが乗ってるのよ!!」

「…」
これにはレオン君だけじゃなくぼくも言葉を失った。何だその柑橘類だらけのケーキは…

「とにかく、遅れたんだから今日はレオンのおごりね!!」

「オイ、リン…マジかよ~…」
そう言うと、未だにもごもご口を動かしていたぼくの前を君たちは通り抜けて店へと入って行った。その場に一人残されたぼく…四ヶ月も前に分かっていたことだった…三ヶ月前には確信もしていた…でも、やっぱり間近で見るとキツイよ…
ぼくは、その日家に帰るとケーキを机に置き、譜面台の前に立った。そこには君にいつか聞いてもらおうと思って書き溜めた歌や詩があった。口ずさんだだけの曲もあったけどぼくにとってはそれはとても大切なものだった。ぼくはそれらをびりびりに破いた。破れないものはくしゃくしゃに丸めた。全部、全部ゴミ箱に捨ててしまった。最後にそれらを書いてきた指に馴染んだペンを、ピアノに叩きつけて折ろうとしたが、ペンが頑丈なのか、ぼくが手加減してしまっているのか、それは出来なかった。ぼくはペンを静かに譜面台に戻して、その日はベットに潜り早めに寝てしまった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

犯人の物語―episode1 ぼくにピアノを弾かせて②―

ひなた春花さん(http://piapro.jp/haruhana)のぼくにピアノを弾かせて(http://piapro.jp/t/Trb-)を小説にさせて頂きました。
一時期プロフィールにも書いたことなのですが、実はこの第2話は二回書いています。キーボードの押し間違いで、書いたのが全部飛んじゃったんですよね(泣)
意外と早く復活できましたが(笑)
ただ、当然そっくりそのままではないですからどっちのがいいのかはわからないですがね…もちろん確認する術はありませんが…
「答えが1つとは限らない それを確認する術ももうじき消えてなくなる」ですから!既に消えてるけど(笑)


今回のレンの不幸は実は作者もいくつか経験があります。班決めであぶれたり、体育大会で走る羽目になってクラスをビリに導いたり…
今回のレンは完全に引きこもり&うつですね…
でもご心配なく、後のナゾトキではしっかりイケレンになってもらいますよ!!


続きはこちら(http://piapro.jp/t/NyL0

閲覧数:266

投稿日:2011/05/11 17:09:43

文字数:2,233文字

カテゴリ:小説

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