※この作品は、ほぼ日ｐ様の楽曲『メシがまずい』（http://piapro.jp/t/A4q5）をもとにした二次創作です。

原曲『メシがまずい』
作詞：ほぼ日P
作曲：ほぼ日P
編曲：ほぼ日P
唄：初音ミク


『翻案・メシがまずい』日枝学


　一日の仕事が終わった。
　さて、突然だが、私は現在とてつもなく憂鬱である。
　世の憂鬱という憂鬱を集めたらこうなるのであろう、という程の憂鬱オーラを、今の私は辺り一面に無料で存分に垂れ流している。
　原因は何か？　勿論、あれが原因である。
　メ　シ　が　ま　ず　い　。

　現在私が付き合っている彼は、とても魅力的な男性だった。
　私との性格も相性が良さそうだし、今まで付き合ってきた他の男性と比べ、ここまで一緒にいたいと思えるのは彼が初めてだった。
　彼となら、上手くやっていける。

　そう思った当時の私は、手の付けようのない大馬鹿者だったと言えるだろう。

　人間が生きていく上で必要なものは、最低限、二つある。
　一つは睡眠。人間は四日以上睡眠を取らないと発狂することが、どこかの学者たちの実験で分かっているし、それ以前に睡眠は快適だ。彼との同棲生活で、こちらの方は問題なかった。
　問題は、もう一つの必要なもの、食事だ。
　誰もが知っている通り、人間は食事をして栄養をとらなければ死ぬ。それだけでも人間にとって必要不可欠なものだというのに、喜ばしいことに、いや今回の場合は悲しいことに、食事をすることは、一日の楽しみのうち、かなり大きいものなのだ。
　食事を取ることで私達は栄養を取り、ついでに精神的充足をも得る。
　しかし。だがしかし、だ。
　彼の作る料理は、まずい。とてもまずい。あんなもので精神的充足感などは得られない。果たしてあれは一度でも味見をして作っているのだろうか。
　言っちゃ悪いが、あんなものを食べるぐらいなら、まだ虫でも食べたほうがマシだという程まずい。元々食べることの出来るはずだったものが、信じ難いことに、彼の手にかかるだけで、食べることの出来ないものへと変化する。あんなものでは食事を楽しむなど、遥か遠い夢物語だ。

　更にたちが悪いのは、彼には善意しかないということだ。
　彼は決して、悪意があってあの酷い味の食事を作っているわけではない。あくまでも、仕事が忙しい私を気遣って、食事を作っているらしいのだ。
　私は強く、心の底から思う。気持ちだけで充分だった。
　人の好意を「いえいえお気持だけで充分です」などと言って遠慮する人がいるが、そういうレベルで言っているのではない。本当に、気持ちだけで充分だったのだ。むしろ気持ちだけに留めておいて欲しかった。
　しかし、彼の純粋な善意を見ると、この気持ちを訴えることことが出来なくなる。これは私の悪い癖だ。与えてくれる善意を、わざわざこちらから否定するのは、申し訳ないような気がしてならない。
　せめて私が彼よりも早く仕事が終われば、先に私が家に着いて、彼が戻るまでに夕飯を作ることが出来るのだが、残念ながら、毎日必ず、彼の方が先に家に帰っている。つまり手のうちようがない。
「はあ……」
　私はため息をつく。今日も、家に帰るとまずい夕飯と善意に満ち溢れた彼が待っているのだろう。
「別れるか……それか専業主婦にでもなるか……」
　そんな独り言を呟きながら、今日も私は家路につく。




※あとがき
　食　事　は　大　切　で　す　
　ほぼ日ｐのあの作品を作る早さは何をどうしたら出来るのだろうか……