煙突からたなびく煙。



自分たちの着ている黒い服。




彼女はもう、ここにいないのだと、改めて実感した。





**********




「ミク姉ぇ」



「なぁにリンちゃん」



「ミク姉」



「なぁにレンくん」




黄色い双子は私を腫れぼったい目で見上げた。


目の周りは赤くなっていた。私もきっと同様だろう。





「…なんでもない、よ」




少し枯れた声でそう答えたリンちゃんはすこし離れたところにある桜の木の下に行ってしまった。




「こんな季節にいっちゃうマスターは馬鹿だ、バカ…」



「そんなこと言うんじゃない、レン」




滅多と聞かないカイト兄さんの声音に空気が凍る。




「カイトっ、あんたちょ…」




メイコ姉さんが反論しようとして、やめた。




「ね?」




カイト兄さんはいつもと同じように、でも目だけは悲しみを湛えて笑ってレンくんの頭を優しく撫でていた。




「確かに」




今まで口を開かなかったルカ姉さんがぽつりと言った。




「折角桜、きれいなのにね」





再び、私たちの間に沈黙が走る。




いつも明るいメイコ姉さんだって。




いつも穏やかな笑顔を浮かべているカイト兄さんだって。




ルカ姉さんだって、リンちゃんだってレンくんだって。




私、だって。









みんな、悲しみに沈んでいた。









彼女は出会いの季節に私たちを置いていってしまった。







「ミク姉ぇ、コレ」




いつの間にか隣にたたずんでいたリンちゃんが手に持っていたものを目の前に差し出してきた。




「どうしたの、この花」




それは一輪の赤い花。




「マスター、お花好きだったから」




持って行ってあげようと思って、とつぶやいた。




「そっか」




花を持ってうつむく妹を見て、私はとある曲を思い出した。









それは私たちがマスターのところへ来てから間もないころ。





*********





『マスター、何聞いてるんですか?』



PCの前に座り込んで画面を見つめているマスターが気になって話しかけた。



『んー、ほかのお家のミクの歌。ほらあたし初心者だし参考にならないかなーとか思ってさ』



『なるほど!マスターは努力家なんですね!』



私のその言葉にマスターはなぜか目をそらしながらバツが悪そうに、



『いやぁ、なんていうか勢いだけで君ら買っちゃったからそれに見合うことしなきゃいいけないでしょ』



『勢いだけって…』



今の、メイコ姉さんやルカ姉さんが聞いてたら暴力沙汰ものだ。



『あっ、でも絶対アンインストールだけはしないから!』



『頼みますよ…それで、なんていう曲なんですか?』



『んとね、曲名は―――――






**********






“むこうはどんな所なんだろうね?―――――”





「ミク…?」




いきなり歌いだした私をみんなが不思議そうに見てくる。



でも私は歌うのをやめない。



これは彼女に贈る歌だから。





“―――無事に着いたら便りでも欲しいよ――――”




カイト兄さんの声が、メロディに乗る。




“――扉を開いて―――”




メイコ姉さん、ルカ姉さん。




“―彼方へと向かうあなたへ――”



リンちゃん、レンくん。



“この歌声と祈りが―”







               届けばいいな









あなたが向かう、最果てへ。











曲の終盤に差し掛かると、もうメロディは消えかかっていた。



音符が。歌詞が。声が。



あふれ出してくる涙で潰れていく。






“―――――さよなら”






彼女に届いたかどうか確かめるすべは、ない。





「行きましょ、」




一番最初に言葉を発したのはメイコ姉さんだった。




それをきっかけに建物の中に戻りだす。




煙はもう消えていた。





ふと、リンちゃんが花を取ってきた場所を見やると私は目を見開いた。




「待ってみんな!ここに来て早く!」



何事かと戻ってくる兄弟たち。



「どうしたのよミク」



「ほらみてメイコ姉さん!あそこ!」







黒いアスファルトの上に。






〔ウタ アリガト〕





桜の花びらで綴ったメッセージ。






「届いたんだ、僕らの歌…!」





カイト兄さんの感極まったような声。




「信じらんない………!」



リンちゃんとレンくんが肩を抱き合ってそれを見つめる。




「でも、後ろにまだ続きがあったみたい」



ほら、とルカ姉さんが指差した先には規則正しく並んだ花びらが風によって舞い上がっていた。



「…続き、見たかったなぁ」



そう私がこぼした瞬間。






ごうっ!





「な、何なの?!」





突然吹き荒れる突風。




沢山の花びらが舞い上がっていく。そのなかに。



「あっ、お花!」



リンちゃんが摘んだ赤い花も一緒に舞っていた。




それはもう手の届かないところまで舞い上がってしまって。



「マスターにあげようと思ったのに…」



さびしそうに見上げる妹の頭を撫でようとして、違和感。



手を伸ばした瞬間、何かに、あたった。



まるで今、誰かが撫でているような。





「花、もらってくわ」






聞こえるはずのない、あの人の声が頭上から降ってきた。




「!っマス」




顔を上げると、一瞬だけ。


たった一瞬だけ、笑った彼女が見えた。




なはは、と彼女独特の笑い声が抜けるような青空に響いた気がした。





「、ははっ」




誰が先に笑ったんだろう。


それを皮切りに私たちの間に小さな笑いが伝染した。




「ほら、早く中に入りましょう」



メイコ姉さんがみんなに声をかけて先に進んでいく。

その足取りはここに来たときと違って軽い。



「待ってよメイコ姉さん!」



置いていかれないよう早足で追いかける。






マスター、ありがとうございます。

これならきっと明日も明後日もずっとずっと。

変わらず過ごせます。







さよなら、マスター。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

最果て

サイハテを聞いて。


あまりの駄文に眩暈がしますがあえて投稿します。

改行がとんでもなく多いです。読みにくくてすいません・・・

何か問題がありましたら削除いたします。

閲覧数:960

投稿日:2009/03/13 18:01:29

文字数:2,723文字

カテゴリ:小説

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  • 赤闇

    赤闇

    ご意見・ご感想

    初めまして、文才皆無の赤闇です。

    何だこの異常な鳥肌は…!
    悲しすぎて涙がぼろぼろと…(´;ω;`)
    氷灰様の文才が羨ましいです←
    最後で本格的なる涙腺崩壊…うぐううう(ry

    素晴らしいサイハテをありがとうございました!

    2009/10/29 16:12:01

  • 氷雨=*Fortuna†

    氷雨=*Fortuna†

    ご意見・ご感想

    初めまして、氷灰さん!フォルトゥーナといいます。

    文章を読み進めていく内に涙が出てきました……。
    うぅ……悲しいけど、良かったよぅ……!

    2009/04/03 14:59:23

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