明日になったらマスターはいつものように笑顔で、おはよう。と言うのだろう。そして、いつものように私たちにいろんな音を与えてくれるのだろう。
 明日になったら自分はいつものように皆のおねえちゃんで、マスターの音に乗せて歌を歌って、分担の家事をこなして、ミクやリンとお喋りしたり、レンを茶化したり、カイトに小言を言ったりするのだろう。
 そうやって、いつも、をいくつも重ねたら。いつかきっと又、マスターは悲しかった出来事や寂しかった感情を伝えてくれるかもしれない。そのときのために自分は、いつも、の合間にその痛みを分かち合えるような強さを培っていこう。そんなことをずんずんと歩きながら、メイコは思った。
 前を向いて進む道のりを、電子の星がきらきらと横切ってゆく。お星様じゃないからこれに願っても無駄かもしれないけど。
 それまでは、マスターが笑ってくれることを願って。私はマスターが笑ってくれるために素敵な歌を、歌おう。そうメイコは前を向いた。
「あ。」
ふと、思い出したことがあってメイコは思わず声を上げて足を止めた。
 突然立ち止まったメイコに驚いて、どうしたの。と背後から声をかけてきたカイトに振り返り、メイコは忘れてた。とその目前に指を突き立てた。
「そういえば。カイトは自分に与えられた曲のアレンジが私のと違うことに、不満を感じているの?」
そうおもむろに問いかけてきたメイコに、面食らった様子を見せつつも、カイトは首を横に振った。
「おれ、あのアレンジ好きだよ。もの悲しいけど優しい音だから、歌っていて切なくなる。」
だけど、切なくなって弱い音になるんだ。
 やっぱりメーちゃんみたいに強い音は出せない。と俯いてしまったカイトに、顔を上げなさい。とメイコはその丸くなった背中を再び叩いた。
「好きならばもっと堂々と歌いなさい。切ないと思うならばそれでいいじゃない。」
そう力強くメイコは言い、自分よりも少し上にあるその青い瞳を見上げた。
「違っていいの。カイトはカイトでいいの。私と同じに歌って、どうするつもりよ。私になるつもり?歌うたいがモノマネなんかしてどうするのよ。」
あきれた様にそう言ってメイコは、に。と挑むように笑った。
「私、カイトの歌うあの曲、好きよ。素敵過ぎて悔しくなるくらい。」
これはちょっと甘やかしすぎかな。と思いながらも言ったメイコの言葉に、カイトの瞳が瞬いた。情けない様子でふるえていた眼差しに、ひかりが宿る。
「おれの歌、好き?」
そう確認するように問うカイトに、メイコは大きく頷いた。ひかりが柔らかなものとなり、くすぐったそうに揺れた。
「ありがとう。」
照れたように恥ずかしそうに、カイトは笑んだ。今までびくついていた子犬が鼻面を擦り付けてきたような、飴玉をほお張った子供みたいなその笑顔に、メイコも柔らかく表情をほころばせた。
 こんな笑顔を見られるならば甘い言葉をかけたくなる。もっと甘やかしたくなる。なんて、甘やかしてばかりじゃ本人のためにならないけど。と、メイコは自分の長女気質にくすりと、笑った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

糖質ゼロの甘さ・5

たとえば、の話。を書きおえて。

ボカロたちの日常も見たいな。というのと、
ばあちゃんはなんかへこんでた気がするんだけど誰か気がついてよ。というのと、
ちょっと恋愛養分が私、欲しいよ。というのがあって。

この話を思いついてしまったのです。
糖質ゼロなくせに甘い飲み物。というものを目指してみたのですが、いまいち甘くない。というのが私らしいですね。

カイメイは大好きですが、まだ恋が始まっていない普通の姉弟なカイメイ(でも恋に発展する前提で)ていうのも好物です。

閲覧数:224

投稿日:2010/04/28 22:08:25

文字数:1,276文字

カテゴリ:小説

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  • wanita

    wanita

    ご意見・ご感想

    たとえば、の話からここまで、どきどきしながらあっという間に進んでしまいました。

    sunny_mさまがこの作品を想像し、創造するまで、どんな経験を辿ってたどり着いたんだろう、と想像し、少し気の遠くなるような不思議な気分を味わいました。

    おばあちゃんシリーズ、好きです。こんな明るい歳の取り方をしたいです(^-^)

    2010/05/09 21:23:55

    • sunny_m

      sunny_m

      >wanitaさん
      読んでいただきありがとうございます!!
      おばあちゃんシリーズ、喜んでいただけて嬉しいです☆
      ばあちゃん、明るいなぁ。と書いてて自分でも思います。

      私が書くものは、ほぼすべて妄想なのですが(笑)
      でも読み返してみると、言いたかった言葉だったり見たい映像だったり、そういう自分の願望がてんこ盛りだったりして、なかなか笑えますね。

      それでは!

      2010/05/09 21:57:31

  • 時給310円

    時給310円

    ご意見・ご感想

    こんばんは、おはようございます、こんにちは。「たとえば、の話」から通して読ませて頂きました。
    いやはや、上手な方だということは知っていましたが、これはすごい。俺ってすごい人からコメもらってたんだなぁ……と、今さらながらgkbrですw

    特に「たとえば、の話」の第4話、リンとレンが歌うシーンの描写はすごかったです。まるで宮沢賢治の童話みたいに、素朴で不思議で、それでいて鮮明な描写でした。「すげぇ……」とアホみたいに口開けて読んでしまいましたw
    話の中核におばあちゃんが居るからでしょうか。何かこう、派手さは無いけど味わい深いお話でした。ハリウッド映画じゃなくて邦画、食べ物に例えるなら筑前煮。ダシのよく染みたゴボウやレンコンを噛み締めた時みたいな……って、何言ってるのか分かりませんね (^ω^;)
    「糖質ゼロの甘さ」の方も、何かこうジンワリとした暖かさがあってですね。暖房で急速にガーッと暖めるんじゃなくて、布団の中に湯たんぽを入れたみたいでですね。今夜はよく眠れそうだと……って、やっぱり何言ってるのか分かりませんね orz
    ううむ、人様の作品にコメするのって難しいぞ。変なコメになってしまってスイマセン。
    ともかく! クオリティの高い、良いお話だったと思います。また何か書かれましたら、読ませて頂きます。今度はもう少しマシなコメつけますので!w それではっ!

    2010/05/08 03:12:17

    • sunny_m

      sunny_m

      >時給310円さん

      読んでいただきありがとうございます!!
      どうしよう、褒められてるよ、どうしよう!!とあわあわしています。
      上手とか、言っていただけて本当に嬉しいです!!

      はい。私、宮沢賢治好きです。筑前煮も好きで味のよく染みた干ししいたけとか好物だし、邦画が大好きでよく観るし、冷え性なので湯たんぽは必需品です。
      変なコメントどころか的をつかれすぎて、吃驚です!
      なんだろう、私生活が話の中ににじみ出てしまっているのか(笑)

      おばあちゃんマスターの話は音楽の描写を頑張りたい。と思っているので、喜んでいただけて本当に嬉しいです!
      それでは、読んでいただきありがとうございました☆

      2010/05/08 11:56:46

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