-道(地面:土)-
アリス「まだ街にはつかないの?」
チェシャ猫「もう少しかかるんじゃないかな」
アリス「わかった。ありがとう」
帽子屋「ずいぶんと遅いじゃないか」
チェシャ猫「えっ、ぼ、帽子屋!? 何でここに! 屋敷は!? お茶会は!?」
帽子屋「私がここにいるのだから屋敷には三月兎のみ、お茶会はしていないに決まっているだろう?」
チェシャ猫「来ないって言ってたじゃないか!」
帽子屋「気が変わったんだ。ほら、よく言うじゃないか。猫は気まぐれって。お前だって気が変わりやすいだろう?」
アリス「帽子屋も来てくれるの?」
帽子屋「ああ、嬉しいか?」
アリス「うん、嬉しい」
帽子屋「……行くぞ」
チェシャ猫「帽子屋」
<数秒 間を空ける>
チェシャ猫「ちょっと! 無視しないでよ!」
帽子屋「そうだ。三月兎も連れてこよう。うるさくなりそうだ」
チェシャ猫「早く行こう? アリス。早くしないと日が暮れちゃうよ!」
アリス「え、急にどうしたのチェシャ猫」
帽子屋「止まれ、チェシャ猫」
<ぴたりと立ち止まる音>
チェシャ猫「何?」
帽子屋「街だ。今頃トランプ兵がアリスを探しまわっているだろう」
チェシャ猫「だから? ここまで来て尻尾巻いて逃げ出せって?」
帽子屋「尻尾を巻けるのはお前しかいないだろう」
チェシャ猫「言葉の綾ってのもわかんないわけ?」
アリス「よくわからないけど、二人とも喧嘩しないで」
チェシャ猫「別の道を探すなんて面倒なことしないよね、帽子屋?」
帽子屋「特に気をつけるんだな。女王は何をしでかすかわからないからな」
アリス「白兎を見つけたら、すぐに帰る。それでいいでしょう? ほら、行こう」
帽子屋「アリス」
<アリスの腕を掴む>
アリス「何?」
帽子屋「もし双子の片割れと二人になることがあれば、これを渡せ」
アリス「ポケットに閉まっておくね。何が書いてあるの?」
帽子屋「知りたいか?」
アリス「いや、いい。やめとく」
帽子屋「それが良いだろうな」
チェシャ猫「ちょっと。何してんのさ。早くしてよ!」
-街(地面:タイル)-
アリス「わっ、すごい! キラキラしてる!」
チェシャ猫「確かにキラキラだけど、僕には悪趣味にしか思えないね」
アリス「どうして?」
チェシャ猫「どうしてって、こーんな赤ばっかり」
アリス「確かに、言われてみれば赤い色が多いかも」
帽子屋「ぐずぐずするな」
アリス「あ、待って帽子屋!」
<しばらく人混み>
チェシャ猫「ねえ、アリス」
アリス「わっ」
<小さく、慌てる>
帽子屋「チェシャ猫? どうし」
チェシャ猫「いた! アリスだ! ダムと一緒だ!」
ダム「いいから走ってくれ、アリス」
アリス「待って! ねえ、待ってダム! 何が、何があったの!?」
ダム「ここにいてはだめだ。殺される。あいつらは、君を帰す気などない」
<ざわざわで次第に声は聞こえなくなる>
アリス「何!?何て言ったの!?」
チェシャ猫「で、何でわざとアリスを逃がしちゃったわけ?」
帽子屋「わざと? 私は別にアリスを逃がす気はなかったが」
チェシャ猫「笑顔で手ぇ振っちゃって」
帽子屋「ゲームの始まりだ」
チェシャ猫「ゲーム? ゲームってまさか」
帽子屋「白兎からゲームのお誘いだ」
チェシャ猫「ああ、だから先回りして待ってたのか」
帽子屋「逃げ場などどこにもない」
チェシャ猫「ゲームが終わる頃、ダムはアリスの隣にはいられないね」
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