「…えぇ。はい。じゃあ、お願いしますね」


部屋を出てケータイを手に取る。
それから、メールの新規作成画面を立ち上げ、二人へ一斉送信する。
一斉送信機能って便利だよね。
だがしかし、私はほとんどこの機能を使ったことがないぜ!

そして、約一時間後。


「…あの、ゆるりーさん。お客さんなんですが…」


私の部屋、202号室の扉を開けて、しるるさんが顔を覗かせた。
かなりあ荘の管理人であるしるるさん。
彼女にかかれば、鍵なんて簡単に開けることができるのである(そもそも管理人なんだから、全部の部屋のマスターキーぐらい持ってるよね)。
ピッキングみたいな真似をする私のような人間には、決してなってはいけないぜ。


「がっくんとルカさんが来たのですが。なんか様子がおかしいんですよ」


しるるさんがそう思うのも、無理はない。
かなりあ荘に遊びにくるボカロは、ほとんどがターンドッグさんのヴォカロ町メンバーである。
以前ちずさんのロリルカちゃんが来たりしたが、このような例は極まれである。

そして今日やってきたがっくんとルカさんは、そもそも『ヴォカロ町のボーカロイド』ではない。
そもそもヴォカロ町のがっくんは、かなりあ荘に来るはずはない。
ならば、やってきたのはターンドッグさん以外の家のボカロということになるのだが。


「大丈夫です。私の部屋に通してください」
「はぁ…いいんですか?」
「はい。すみません、そのがっくんとルカさん…我が家のです」
「え…ええええ!?」



*



「いやあ、すみません。突然押しかけたりして」
「メールをもらって、すぐこちらへ来たものですから…」


私としるるさんの向かい側に座るのは、我が家のがっくんとルカさん。
大抵はどこの家のボカロも公式衣装を着ているものだが、我が家のボカロはデフォルトがおかしいのである。

がっくんは長く書いているシリーズの影響で、白衣にスーツズボンにワイシャツ、そして緩めに結んだネクタイという、化学教師のような格好をしている。
ルカさんはレース素材の白いワンピースに、ベージュのカーディガンを羽織っている。今日はネックレスなどはとくにしていないらしい。


「…あの、ゆるりーさんのがっくんは、仕事帰りなんですか?」
「…なんともいえない感じです」


「ジトー<●><●>」という効果音が似合いそうな目で私を見るがっくん。
うん。私が悪かった。だからそのジト目はやめてくれ。


「あのですね、しるるさん。今回ちょっとあることをするために、二人を呼んだのですよ」
「はぁ…なんでしょう?」
「えっとですね、ターンドッグさんのヴォカロ町n」


そこまで言ったとき、扉がノックされる。
そして、


「ゆるりーさん。こちらの準備はOKですよ」


ターンドッグさんがやってきた。

がっくんとルカさんにメールを送る前に、201号室でターンドッグさんといろいろ話していたのだ。
世間話やらネルちゃんやら。ほとんどはヴォカロ町について。
…本当はネルちゃんに改造依頼した話もあるのだが、それについてはまた後日。


「あ、はい。じゃあがっくん、ルカさん、行くよー」
「着いて早々か…ったく、ちょっとぐらい休ませてくれよ…」
「あっちでゆっくりしてくればいいじゃない」
「ゆっくりできないと思うが…」
「あのー…つまり、どういうことなの?(´・ω・`)」


がっくんがっくん、地が出てるよ。
そしてなんのことだか、よくわかっていないしるるさん。
そりゃそうだよね。全然事情説明できてないもんね。


「えっとですね。つまり我が家の二人が、ヴォカロ町に遊びに行くんですよ」
「あ、うん。成る程?」


しるるさんは「ダイジョウブカナー?」みたいな顔をしている。
そうだよね。ヴォカロ町って危ないもんね、いろいろ。


「しるるさん、いつもマスターがお世話になっています。これ、つまらないものですが…」


ルカさんがしるるさんに差し出したのは、ポッキーとパ○の実。
いやいやいや、さすがにそれで喜ぶしるるさんじゃないでしょ。
あとそこは菓子折りとかじゃないか?と思ったのだが、


「ふあああ!?あ、ありがとうございます!さっそく食べます!」


しるるさんは満足そうに受け取った。
しるるさんの中で、「ゆるりーさん家のルカさんは、いい人」という構図ができあがっているのだろうか。
…完全に餌付けされてるだけじゃ…。

ちなみに、私が買ってくるお菓子をがめつく狙うしるるさんは先日、私のポッキーをとった。
お菓子好きのしるるさんは体型維持などは気にしていないらしいが、つかさ君さんに「しるねえさん!」とお願いされたら、素直に聞き入れると思う。


嬉しそうにリビングへ戻っていったしるるさんを横目に、私達は隣の201号室、ターンドッグさんの部屋に移った。


「ヴォカロ町への案内は、うちのロシアンがやってくれる…と思うよ!」
「そこ断定してくださいよ」


ロシアン、不機嫌になってそうだけど。


「ターンドッグさん。あなた達には、ヴォカロ町という世界に入ると、『常人パワーアップ補正』というものが適用されるんですよね?」
「ん?あぁ、そりゃあされるよ。されなかったら死んじまうからな、あの世界だと。おっそろしいぜ?」
「そうですか、すごく怖い。で、それって…俺たち二人にも適用されるんですか?」


がっくんが訊ねると、ターンドッグさんは考え込んだ。

ヴォカロ町がある『世界』では、日本国憲法第9条が失われている。
なので、ヴォカロ町を一歩出ると、そこではあちこちの国や地域が戦争をしていて、血で血を洗い、憎しみが憎しみを呼ぶ混沌とした世界がある。
その世界の創造主であり、物語の書き手であるターンドッグさんが死んでしまうと、その世界の『時』が止まってしまい、秩序が崩壊し、世界そのものの基盤が崩れてしまう。
それを避けるため、必要最低限自分の命を守ることのできる力、『常人パワーアップ補正』というものが、ヴォカロ町では適用される。
補正はターンドッグさんだけでなく、どっぐちゃん、かなりあ荘の面々にも適用されるようなのだが…。


「ちょっとわかんねえなあ…。他の誰かの家のボカロが、うちの町には来たことないからな。うちのボカロ町メンバーと、名前・容姿が似ている存在が時空を転移した場合、時空転移用PCに蓄積されてるヴォカロ町のデータが、『二人はヴォカロ町のボカロと同じ』と認識・バグを起こし、適用されないかもしれねえ…」
「そうですか…。まぁ、その時はその時ですよ。俺がなんとかしますから」
「いや、あんたの力でなんとかできたら、それはもう神の所業だぜ?第一、ゆるりーさんとこのがっくんは、チョークアタックとマシンガントークしか使えないだろう?」
「完全に丸腰じゃないですか。もうただの教師ですよそれは」
「いや、ただの教師は、あんな凄まじいチョークアタックを習得してないと思うよ?」


二人によって見事なコントが行われていた。
ターンドッグさんが、(かなりあ荘で)ヴォカロ町のカイト以外の男性と喋っているのを初めて見たぜ。
これからはちょくちょくがっくん連れてこようかな。


「でもターンドッグさん。俺、拳銃と投げナイフ扱えますよ?」
「そこおかしいよね!扱えるところがおかしいよね!モデルガンもなかったかな!?」
「大体拳銃と同じじゃないですか」
「そりゃそうだけどよ!普通扱えるほうがおかしいという俺の見解が間違ってるのかな!?あ、○○風味のgiftとかは?」
「それはミク限定です。そもそも俺は調合できません」
「デスヨネー」


結構続くねコント!
もうコンビ組んでればいいんじゃないかな!?
というか、我が家のがっくんの敬語もレアだよね。
まぁ、私を男にしたら、こんな感じの口調と性格になるんだろうけど。


「…あの、神威さん。そろそろ行きません?」


ごめんねルカさん。今日ほとんど黙らせちゃって本当ごめんね。


「…あぁ。ターンドッグさん、いろいろすみません」
「いや、気にすんな」
「いろいろ迷惑かけました。じゃ、俺たちはそろそろ行きます」
「あ、その前に…」


ルカさんががっくんの白衣の裾をくいっと引いて止める。
可愛いことをするなあ。多分私にはしてくれないんだろうなあ。
…無理だな。我が家の鏡音と同い年の私にはしないだろう。
いくらマスターといえど、ルカさんより数センチ身長が高くても、やってくれないよね。


「ターンドッグさん。私たちはボーカロイドですが、生身の人間ですので、多分大丈夫だと思いますよ」


ターンドッグさんに、優しく伝えるルカさん。

我が家のボカロと、ターンドッグさん家のボカロの最大の違い。
ヴォカロ町メンバーは「非常に高性能のロボット(忘れがちだけど)」であるが、我が家のメンバーは「普通の人間」である。
だから、補正が適用される。多分そういうことだと思う。


「ルカさん…」
「だから、心配いりませんよ」


ね、と笑いかけるルカさん。
ターンドッグさんは少し戸惑いつつも、こくりと頷いた。
いつもどSなルカさんと接触(物理的に)していたターンドッグさんは、うちの清楚なルカさんが新鮮なのだろう。
多分、うちのルカさんに「踏んでください!(スライディング土下座)」とお願いしたら、「えっ!?ふ、踏むって、そそそそんな凄く失礼なことできないです!」と涙目になると思うよ。
うん、いい子いい子。純粋すぎてアレだけど。


「じゃあ、行ってきますね」


ルカさんは「行ってきー」と手を振るがっくんと共に、二人で時空転移用PCに触れ、向こうへ行った。


「行ってらっしゃーい」


ニコニコで手を振る私。
実は今、風邪をひいて頭ガンガンなのだが、それでもニコニコしてるよ。


「…何もなければ、いいんですがねえ……」


私とは対照的に、心配そうなターンドッグさんであった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ヴォカロ町へ遊びに行こう 1【コラボ・ゆ】

念願の「ゆるりー’sボカロinヴォカロ町」ですよ!
どうも、ゆるりーです。

受験生になったころ(2013年4月頃)から、ずっとやってみたかったことです。
我が家のボカロが生き延びられるか心配ですがw

ちなみにタイトルの「ゆ」は、ゆるりーの「ゆ」ですww
次回は多分「T]か「タ」になってると思いますよwww

リレー式でございますよ。
次回はターンドッグさんです!
Next→2話:http://piapro.jp/t/0Ms8


追記
書き忘れていましたが、我が家のボカロの年齢。
公式の年齢設定より一つ年上なのですよ。
つまり、ミクさん→17 鏡音→15 ルカさん→21。
ちなみにがっくんは24です。最年長。
不思議ですね。うちのルカさん、ターンドッグさんのルカさんより一つ上なんですよw

閲覧数:305

投稿日:2014/03/23 20:55:15

文字数:4,116文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • しるる

    しるる

    その他

    ほお?コラボだと?!
    ゆるりー×ターンドッグで、ゆるタンですね←
    涙目になるルカさんいいですねーw

    私、じっと見届けていますw

    2014/03/21 19:36:28

    • ゆるりー

      ゆるりー

      ずっとやってみたかったので。
      その表記は誤解を招きそうな…w
      ゆるタンって…喰い○ンとか、牛タンとか、そっちを思い出しますw

      2014/03/21 20:52:06

  • Turndog~ターンドッグ~

    Turndog~ターンドッグ~

    ご意見・ご感想

    ヴォカロ町の設定に対する理解度が大変高くて感動で少しだけ泣きそうになっているTurndogですw
    自分以外でここまでしっかり書いてくれたのはあんたが初めてだぜゆるりーさん……惚れていいですか(おまわりさんこいつです

    そして素晴らしいコント合戦ww
    おまけに途中途中に入る知ってる人なら思わず吹き出すネタがw
    なに、ゆるりー'sミクさんデフォルトでgift調合できるようになってんの?
    そしてルカさんが清楚すぎて泣けるw
    個人的に2人のルカさんを色で例えるとゆるりー'sルカさんが薄緑って感じでうちのルカさんが鮮紅色に近いピンクって感じです←
    なんで鮮紅色に近いかって?……鮮血の色は鮮紅しょk(ばちーん

    スターシルルスコープの話書き終えてから2話取り掛かるか……w

    2014/03/21 19:10:12

    • ゆるりー

      ゆるりー

      今日書くために、いろいろ読み返しましたw
      とくに補正の部分。イズミさんとの試合や、どっぐちゃんvsめーちゃんの話とかww
      でも、しるるさんやイズミさんたちのほうが、もっと理解してると思いますよw
      俺様の美技に酔いな(もちゅーん)

      いやー私のターンだから、コメディーぐらい入れなきゃいけないなーと思いましてw
      なんたって得意分野ですからね(自分でいうか
      もうデフォルトで調合できますねw我が家のボカロは所々おかしい。
      我が家のルカさんはSっ気が微塵もございませんw
      鮮紅色…あっ(察し)

      なんかいろいろすみません…w

      2014/03/21 20:47:52

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