「…ふう」
 席にどっかり座る雅彦。雅彦も会場についてから着替えており、今は今回のバースデーライブの公式の物販で入手可能なTシャツとはっぴという格好でライブ会場内にいた。ただし、先ほどの三人とは全く違う区画である。雅彦のいるエリアだけ、物々しい雰囲気である。雅彦がいるのは要人席の最前列中央である。ワンオフのミクたちのライブを見たい要人向けに用意された区画で、各国の様々な分野の要人が集まっている。雅彦はその区画にいる要人たちにワンオフのミクからのメッセージを代理で伝え、逆にメッセージを受け取る役割を自ら課していた。喉が渇いたので、ペットボトル飲料を飲みながらライブ会場を見回す。普段通りのライブ前の雰囲気である。
 (今回も色々な方が来場されていたな)
 先ほど挨拶に回っていた時の要人の顔を思い出しながら雅彦は思う。ワンオフのボーカロイドのバースデーライブに参加する要人のリストは防犯上雅彦は知らされていないが、雅彦が有する広範な知識などを持ってすれば、誰が参加するか分からなくともその場で即興で話題を引き出すことは容易である。
 (ただ、まだ来そうだな)
 先ほど回っていた時には、まだ要人席には空席がいくつかあった。そうなると、まだ来ていない要人がいると判断しなければならない。ペットボトルをしまった後、持ってきたペンライトを出し、ライトがつくかなどの動作チェックを行う。ペンライトは出発前、各公演前にもチェックしており、さらに今の所ペンライトの調子が悪くなった様子はないが、念のためである。万が一このタイミングでペンライトの調子が悪くなっても、持ってきた予備に差し替えるか、その予備もだめなら物販で買ってくれば良い。ちなみに今回のワンオフミクのバースデーライブの雅彦の席は全て同じ位置である。
 (…ちょっと緊張してきたね)
 雅彦自身がライブに出るわけではないが、毎回緊張してしまう。とはいえ、雅彦からすると、今の緊張は雅彦自身にとってはプラスに働く。ワンオフのミクの恋人として公の場に出ている以上、下手なことは許されない。特に今は周囲にいる要人の社会的影響力を考えればなおさらである。とはいえ、何をすれば良いのか、そして何をすべきでないかはしっかりと頭に入っている上、突発で何か起きた場合の対処も慣れている。
 (…ライブ、楽しみだな)
 緊張が過ぎ去ると、今度は好奇心がわいてきた。すでに千秋楽の公演なので、雅彦はすでにライブの全容を知っているが、それでもライブ前には好奇心がわき上がってくる。そうやっていると、声をかけられる雅彦。
 「…安田教授、よろしいですか?」
 雅彦の隣の席の要人が雅彦の声をかけてくる。雅彦と比べると見た目はかなり年配である。
 「どうされました?」
 「今お勧めのミクさんの曲を知りたいのですが…、娘が好きで、よく話題にするのですが、どういった曲を聴けば良いのか分からなくて…」
 恥ずかしそうに言う要人。要人席に来る観客は、ボーカロイドに関する知識などにはかなりの差がある。しばらく考える雅彦。
 「…分かりました。どういった切り口で紹介すればよろしいでしょうか?例えば、今はやっている曲なのか、定番の曲なのか、といった所でもかなり違ってきますから」
 その雅彦の返事にしばらく考える要人。
 「…今はやっている曲をお願いできますか?定番の曲はある程度知っていますが、最近の曲が追えていないので…」
 「分かりました。それでは…」
 そういって、その要人に今はやっているミクの曲についての情報を話す雅彦だった。

ライセンス

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初音ミクとリンクする世界 初音ミク編 1章25節

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投稿日:2017/04/11 23:57:16

文字数:1,481文字

カテゴリ:小説

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