注意;実体化VOCALOIDが出てきます。
オリジナルのマスターが出張っています。
カイメイ風味です。
苦手な方はご注意くださいませ。
「メイ姉呼んできたよーっ」
「皆、おはよう。遅くなってごめんね」
リンちゃんがメイコさんを連れて居間に戻ってきた時には、僕の涙も何とか落ち着いていた。とはいえ、ハンカチを持っている僕を見て、メイコさんが眉根をひそめる。
栗色の髪に紅茶色の瞳、赤いタンクトップにミニスカート。白い肌の上にそれらが映えていて、僕の目を奪う。
「おはようございますお姉ちゃんっ」
「Good Morning,MEIKO」
「おはよう、メイコさん」
出来るだけ明るい声を出したけれど、僕の返答の後で、メイコさんがかすかに息を吐き出したのが分かった。…ああ、呆れてるのかな。
ケーキを置いたテーブルの周りに集まっている僕らの方へ、メイコさんとリンちゃんも近付いてくる。テーブルを挟んで僕の向かいに立ったメイコさんが、僕の右隣のミクちゃんに目線を向けた。
「ミク。ちょっとやりすぎ」
ざっくりと突っ込まれたミクちゃんが恐縮したように肩をすくめる。
「う、お姉ちゃん、ごめんなさい…」
「ミクもカイトの誕生日を祝いたかっただけだ。そう言ってやるな」
僕の左側から、ルカちゃんが苦笑交じりにとりなして、メイコさんも小さく笑って答えた。
「責めたかったわけじゃないの。…単に、この甘ったるそうなの、早く食べないと溶けるのかと思うとね…」
「あ、それなら、分解すれば冷凍庫入りますから、一気に全部食べ切らなくても大丈夫ですよ」
「一応味も色々と分けてあるしな」
「そうなの?」
思わず反応してしまう。見た目は真っ白な六段だから気付かなかった。メイコさんの左隣を陣取ったリンちゃんが嬉しそうに頷いた。
「キレーだったよー。全部美味しかったし!」
「リンは全部味見してましたからね」
「生クリームで覆ってしまったから見えないが、上から、バニラ、キャラメル、抹茶、ミックスベリー、チョコ、バニラ、だ」
「一番上の段のバニラにはラムレーズンを混ぜてあるんですよ」
「それにしても、飾ってる時も思ったけどさー、ウェディングケーキみたいだよねー」
真っ白な六段のケーキ。確かにそうかも。
「ならいっそ、メイコとカイトでケーキ入刀でもするか?」
さらりと告げたルカちゃんの言葉にメイコさんが驚いて、うわずった声を上げる。
「ちょっ、ルカ何言ってるの?!」
「カイトにとっては最高のBirthday presentになると思うが」
…それなら真っ白のワンピースとか着て欲しいなあ、なんて贅沢なことを思いつつ、メイコさんを見続けていると、メイコさんが僕を見てきた。目線が合わさった時点で顔を真っ赤にして背けられる。
「ぷ、プレゼントはちゃんと用意してあるし! とりあえず何処から食べるか決めなさいよ!」
「あ、切り分けるナイフ取って来ますねー」
ミクちゃんが台所に駆けていくのを見送ってから、僕はケーキと向き合う。…って、ちょっと待って。
「メイコさん」
「な、なによ」
呼びかけると目線を返してくれるのが律儀で可愛い。まだ顔赤いままだなあ。
「プレゼント、って?」
さっきちらっと聞いた単語を繰り返すと、ぼっ、と火がついたようにメイコさんの顔の色が更に赤くなる。
「なるほど、これは可愛いな」
「メイ姉顔真っ赤ー」
ルカちゃんの呟きと、リンちゃんのからかいに、僕が思わず返答していた。
「可愛いでしょ?」
「何であんたが自慢げなのよ?!」
メイコさんがテーブルに身を乗り出して詰め寄ってくる。距離が縮まったのが嬉しくて、顔が緩むのが分かった。
「なんとなく?」
「勝手に私のことで返答してんじゃない!」
「え、でも、メイコさんが可愛いのは自明の理でしょ?」
「それを、なんで、あんたが自慢げに言うの?!」
僕を睨みつけてくるけど、…それすらも嬉しい僕はおかしいのかもしれない。メイコさんの瞳に僕が映ってる、そのことが嬉しくて仕方ない。
「可愛い、ってことは否定しないんだね」
「っ、い、今の論点はそこじゃないでしょっ!」
本当メイコさん可愛い。触れたくなって手を伸べる。びくっと縮こまるように反応するメイコさんを見て、逆に手が止まった。
「…ごめんね」
「あ、や」
手を下ろした僕の謝罪にメイコさんがうろたえる。ああもう今日は本当に、色んな意味でダメだなあ…。
「どうかしたのか?」
「ううん、何でもないよ、ルカちゃん」
心配そうに問いかけてくるルカちゃんに笑って答える。
「あ、カイ兄っ」
居間の入り口から声が聞こえて、レンくんが僕の方へと駆け寄ってきた。リンちゃんが目をぱちくりとさせる。
「あれー? レン、マスター呼びに行ったんじゃなかったっけ?」
「それがさあ…」
戸惑ったようにレンくんが僕を見てくる。…あ、なるほど。
「先に食べてなさい、って?」
「え? あ、うん…」
僕の言葉にしょぼくれた顔になるレンくん。…そういえば、メイコさんの誕生日の時には、僕がそうやって篭ってたんだっけ。あの時もレンくんが呼びに来てくれたなあ…。
「うん、ありがとう、レンくん。ミクちゃん戻って来たら、マスター抜きで、上から三段、食べよっか」
「え、でも」
今朝の僕の言葉を覚えているレンくんが食い下がってくるけど、その髪を軽く撫でてあげる。じっと見上げてくる困惑の瞳に、笑顔を向けて、唇に人差し指を当ててみせた。ちらっとメイコさんに目線をやって、…予想通り不安そうな顔で見てきていたその姿にも笑いかける。
「お待たせしましたーっ」
ぱたぱたっと軽快に駆け込んでくるのはナイフを胸に抱え込んだミクちゃん。
「待ってましたっ!」
リンちゃんが歓声を上げて、ルカちゃんもほっとしたように表情を緩める。メイコさんにもう一度笑いかけて、レンくんの頭をぽんぽんと撫でるように叩いてから、僕はミクちゃんに向き直る。
「ありがとうミクちゃん。上三段、食べようと思うんだ」
「そうですか? なら、残り三段はしまってきちゃいますね!」
「うん、お願いするね」
「はぁいっ」
ミクちゃんはナイフを器用に扱って、上三段をそのまま外し、崩れないように別のお皿に移す。ナイフの刃の部分を持って、柄をルカちゃんに差し出した。
「私はこちらをしまってきますので、ルカ、切り分けておいてくれますか?」
ルカちゃんが頷いてナイフを受け取る。ミクちゃんは下の三段を載せたお皿を持ってそのまま改めて台所へと。
「…八等分で良いか」
『はち?』
ルカちゃんの言葉にリンちゃんとレンくんがきょとんと返す。あ、良かった、レンくんもちょっと調子戻ったみたい。喉の奥で笑ったルカちゃんが僕に告げてきた。
「八分の三くらい食べないと物足りないだろう?」
「あー、そうだね」
「約半分じゃないの…」
呆れ返ったメイコさんの声。うーん、でも。
「多分全部だって食べれるよ?」
「…ああそうだったわねあんたは」
メイコさんのその言葉に、…マスターに伝えなくてはいけないことが沸きあがってきた。僕の中のメイコさんの影響力に笑ってしまう。こんな些細なことでも大切な場所に響いてくる。
ルカちゃんが綺麗に切り分けてお皿に分けていくのを眺めながら、食べ終えたらマスターの部屋を訪ねようと決意を固めた。
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『すっとキ...【VanaN'Ice】背徳の記憶~The Lost Memory~ 1【自己解釈】
ゆるりー
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