転移された先でまず見たものは、ごく普通の町並みだった。
わけではなく。


「…ここ、どこだ?」


町外れの、寂れた…町?
いや、町かな。うん。


「誰もいませんね」


キョロキョロと回りを見回す。
確かマスターとターンドッグさんの話では、「ルカさんとロシアンを迎えに行かせるからよろしく☆」だっけな。
…うん、いないね。

私に似てる人…というか、『ヴォカロ町のルカは殺気放ってるからわかりやすいよー』って言われたんだけど、そんな人間(ロボット?)がいたら大事件だよね。
ま、『ルカ』の姿を探せばいいみたいだし。


「自分を探すというのも、変な話ですね」


神威さんは、無言で頷いた。
探す自分がドッペルゲンガーだったら命がけだが、こちらの場合戦闘狂(ロシアン)を探すようなものなので、ある意味命がけである。

さて。まずは『ヴォカロ町のルカ』と『猫又ロシアン』を探すべきなのだが。
はじめて来る場所では、どこがどこだか全くわからないので、探しようがない。


「…通行人に聞くか」
「それが一番でしょうね」


少なくともこの町の人間なら、目立つ建物ぐらい知ってるだろうし(あちらこちらに、マイクを模したオブジェがあるが)。
文字通り住む世界が違う私たちは、何一つ知らない。
この町を一歩出たら、命の危険が溢れているということしか。

少し歩き、人もぼちぼち多くなってきたところで、聞き込みという何かを開始。


「ルカさん?今日は見てないなー」
「えぇ?あぁ、警察署じゃない?いなかったら…わかんねえな」
「あのルカさんを知りたい?いいだろうルカ廃を誇る俺の『ルカさんなう』、受け止めてみろォ!…え?別にいいって?そっか…(´・ω・`)」


……一名、見覚えのある『ような』人物がいたが、気にしないでいこう。


「すいません、ルカさんってどこにいるかわかります?」


根気良く聞いていく神威さん。
私はなんとなく聞きづらいから、とても助かる。


「え?あの人、町の人気者だからな…。それよりあんたの近くにいるの、ルカさんに似てないかい?」


ギクっ。


「それにあんた、前に来たサムライによく似てるな」


それは多分、この世界の神威さんだ。


「いや、気のせいじゃないですか?俺たちはただの観光客ですよ。初めて来たので、いろいろ見て回ろうと思って」
「そういやそうだな。悪かった。…ま、あの人は事件があれば駆けつけるから、事件を探せば早いと思うぜ?」
「そうですか。ありがとうございました」


事件を探せ、ね…。
いやいくらなんでも、事件なんてホイホイと都合良く起きるものじゃないからね。


『うおらあああああああああ!!!お前らどけええええええええええええ!!!!』


うん、嫌な予感がするね。

奇声が聞こえたほうへ視線を向ければ、明らかに様子がおかしいキチガイが一名。
おかしいね。目はどこ見てるんだろうね。
片手に包丁を握ってて肩は震えてて、もう完全に不審者初心者だね。
熟練でも困るけど。

と、不審者の目がこちらを捉えた瞬間。


「てめーら何見てんだ!」


いや明らかにお前が原因だよ、という小言が聞こえる。
あ、これ神威さんの本音ですね。駄々漏れですかそうですか。


「丁度いい、金を出せ!持ってるモン全部だァ!」


小遣い目当てですか、そうですかそうですか。
…この世界でも、普通の日本円って使えるの?

不審者というか確実に事件に直面しているのに、不思議と頭が冷静なのは、きっとこの男がバカみたいだからですね。
だってあの目、明らかに刃物の扱い慣れてないよ?
うちのミクちゃんのほうが絶対慣れてるよ?不審者対策で慣れてるよ?(異常)
あ、刃物を受け流すレベルでね。お巡りさんこの人ですってほどじゃないよ。


痺れを切らしたのか、男は二本目の包丁を召還して、襲い掛かってきた。
襲うというか、両手をめちゃくちゃに振り回してるだけ。
でたらめだ。

私を庇うように神威さんが一歩前に出て、胸ポケットから何かを取り出した。
何の変哲もない、ただのボールペンである。

右手にボールペンを構え、男の包丁を軽く受け流していく。
あえて避けないのは、周りへの被害を抑えるためだろうけど…。
目が語ってるよ、『うわ何こいつへぼい』って。
そんな正直な。

様子を見始め早数分。
そろそろ面倒になってきたっぽい。
何か目を引き付けられたらいいけど。



「ここは一発、鞭で眠らせますか…」


そんな物騒な台詞が耳に入り、声のしたほうへ一瞬目をやる男。




《キンッ!!》




と同時に、神威さんが学習しない包丁をボールペンで強く弾き、開いている左手で素早くチョークを構え――




《ばきゃっ!!》




男の額へと、華麗な腺を描いて投げつけた。
――豪速球を投げるスピードで、あっさりとした手つきで。


男がアスファルトへ仰向けで撃沈するのに0.1秒。
砕けると同時に、まだ残っていたチョークが跳ね返ってにゃんこを吹き飛ばすのに0.4秒。

ん?吹き飛ばす?



『ギャンッ!?』



吹っ飛ばされたその猫は、珍しいロシアンブルーのきれいな毛並み。
慌てて駆け寄る、桃色の髪の女性。
振り返ると、神威さんは『やっべー』といった表情で立っている。

いや、いくら神威さんでも、軽く投げただけで『あの』チョークアタックはできない。
もしかしたら、普段の神威さんの本気と並ぶくらいの威力かもしれない。
そもそも、チョークは跳ね返ったりしない。

これはおそらく…『ヴォカロ町の常人パワーアップ補正』が、効いている?
そう思ったとき。




「い……今のこれ、あなたが――――――――――」



私と同じ声――僅かに違う声のトーンを聞き。



「うおっ!?」



先ほどのロシアンブルーの猫が、神威さんに飛び掛った。
うん。さすがに驚くね!
というか、驚きの連続!日本って怖いね!



『てめえ……人間の分際でいーい度胸じゃねえか……オオ!?』


待って!この世界の猫って喋るの!?


「いや、ちょっと待ってくr」

『焔槍で全身爆破されるのと焔拳で首を720°回されるのとどっちがいいか選べやゴルァ!?』

「どっちも嫌だな! というか俺殺される前提なんですか!?」


その突っ込みはもっともだ!


『つべこべ言ってねーでさっさと選びやがれええええ!! この俺にチョーク叩き込んでおいて生きて帰れると思うんじゃねーぞアア!?』

「あああもうやっぱりゆっくりできないじゃねえか!! マスター帰ったらチョークだくそっ!!」


わざとじゃない上に、謝ろうとしてこれである。
ゆっくりする暇がない。
あとマスターは悪くないと思いますよ!


「か、神威さん……っ」



さすがの私も慌てるよ。
どうしよう。予想外すぎる展開で、おろおろすることしかできない。解せぬ。

どうしよう。それしか頭にないこの状況で、



『……サイコ・サウンド!!』

『ぎにゃーおぅっ!!?』



猫の動きが急に止まった。
その猫を抱え、喋りかける桃髪の女性。



『な……何すんだルカっ……今この無礼者に天誅をだなぁっ……!!』

「落ち着きなさいよ。ほらよく見て、お客人よ例の」

『……あ?』



状況が落ち着いたところで、私達はお互いをマジマジと見る。
というか、先ほどの一連の流れで、おおよその見当はつく。



「……あ」



喋って戦う、『ロシアンブルーの猫』。

音波を操る、私に良く似た『桃色の髪の女性』。



『ルカを探すには事件を探せ』
成る程、確かにその通りだ。

傍らの神威さんも、同じような結論に至ったのだろう。
そしておそらくは、向こう側も。


確認の意味を込め、問いかけた。




「私にそっくり……ということは、あなたが?」

「ええ。ゆるりーさんのうちの方ですね?」



世界には、自分と同じ顔の人間が3人ぐらいいるらしい。

ボーカロイドに関しては、それこそたくさんいるわけだけど。

実際に会ってみると、感動よりも驚愕が返ってくる。





「私がこの町の『巡音ルカ』です。ようこそヴォカロ町へ、ルカちゃんに先生」




彼女が、『ターンドッグ』さんの、巡音ルカ。




「はじめまして。ゆるりー家の『巡音ルカ』です。以後、お見知りおきを」

「同じく、ゆるりー家の『神威がくぽ』です。今日一日、お世話になります」



多分、私も神威さんも思っただろう。


『やっぱり認識は先生なんだ』と。

まぁ、そうなるよね。

神威さん一応、教育免許持ってるからね。

そっちの印象強いもんね。




「「「今日一日、どうぞよろしくお願いします」」」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ヴォカロ町へ遊びに行こう 3【コラボ・ゆ】

はい、こちらもルカ視点です。
どうも、ゆるりーです。

「ゆるりー’sボカロinヴォカロ町」、奇数話は私ゆるりーが担当しております。
ギャグとイチャラブ担当と評されましたが、カオス担当ですのでご心配なく。

イチャラブといえば。
「カップル」より「夫婦」のような気がすrおっとチョークが。

第2話:http://piapro.jp/t/0Ms8
next→第4話:http://piapro.jp/t/SDRF

どうでもいい話ですが、この夫婦あまりイチャイチャしませんね。
「友達以上、恋人未満」の関係ですかね。
あっ夫婦って言ったら、赤くなった先生にしばかれますな。

閲覧数:455

投稿日:2014/03/28 23:41:00

文字数:3,644文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

  • 関連動画0

  • しるる

    しるる

    その他

    ゆるりーさん、前々からオールラウンダーだと思っていたけど、想像以上だったw

    かなりあ荘において、唯一といってもいいくらい、ツッコミとボケ、両方担当できるっていう面でもオールラウンダー

    2014/03/26 23:58:07

    • ゆるりー

      ゆるりー

      ようするに、gdgdでめちゃくちゃな人間w←
      ツッコミとボケの両方ができるのは昔からです。
      よくてぃあちゃんにも言われますw

      2014/03/28 22:09:39

  • Turndog~ターンドッグ~

    Turndog~ターンドッグ~

    ご意見・ご感想

    コメディチックバトルならわちきに引けを取らないじゃないですかやだー!←
    しかもがっくんの戦闘センスが高……いやこれはいつものことだったな((

    そりゃーまぁ驚きの連続でしょうなぁw
    いきなり不審者(素人)に襲われて
    チョーク投げたら破壊力増してて
    巻き添え喰った猫に襲われて
    しかもその猫がごっつい口調で脅迫してきたらそらぁもう一般人なら頭パンクするわw

    多分ルカさんは事前に2人の個人情報を得ていたんだと思いますwだから先生と呼んだのでしょう。
    だって敏腕刑事だもの。
    何?個人情報を抜き取るのは犯罪者の仕事?
    一歩間違えれば警察と犯罪者は表裏一体なんだからいいんだよ(おい
    それに約一名ルカさんの鞭で再起不能になった黒猫組暗殺屋がいるし(そういう問題じゃない

    2014/03/26 23:28:38

    • ゆるりー

      ゆるりー

      ナンノコトデショウ?←
      いつものことですねw

      一般人じゃないので、かろうじて認識できてる程度ですなw

      でも先生以外だと、『ヴェノさん』になりますね…w
      え?警察ってそういうもんじゃないですか?
      あーそんなことありましたねー((

      2014/03/28 22:08:28

オススメ作品

クリップボードにコピーしました