一条ひなたは、執行部のエースである。
織戸神那子は、最重要能力者。
そして、イリーナ・アンダーソンは第二世代能力者だ。
+ + +
ある日の休み時間。
三人は、おしゃべりに興じていた。
「ねえねえ、ひなた。これってなに?」
イリーナは、ひなたが鞄から取り出したチューブを興味深そうに見つめた。
「お化粧品?」
チューブは、黄色とオレンジのラインで縁取られており、所々に星型や花びらのマークがついている。
イリーナの言う通り、化粧品のパッケージに見えた。
「違う違う、これは日焼け止めクリーム」
「そうなんだあ、かわいい」
「アムス、UVプロテクト7……ひなたさんは、これを使っているんですね」
織戸も、ひなたの日焼け止めクリームに興味があるらしい。
手に取ると、裏の説明文に目を通した。
「持続型のようですね。それも一番強いタイプです。べた付きませんか?」
「ほら、あたしの仕事って主に外じゃない? だからすぐに落ちちゃう日焼け止めは使えないのよね。ちょっとべた付く感じはあるけど、あんまり肌焼きたくないし、それに日焼けするとすぐ皮剥けちゃうから」
「日焼けは、私も苦手です。体が火照って、頭がボーっとしてしまいます」
「日本最南端の高度政令都市に住む女子にとって、この強い日差しは天敵。充分、注意しなきゃ」
二人の話を聞いて、イリーナがつぶやくいた。
「イリーナも日焼け止め欲しいなあ」
「持っていないんですか?」
「だめだよ、イリーナ。ここで生活するんだったら絶対に日焼け止めは持ってなきゃ。こんなに白くてきれいな肌が真っ赤になっちゃうわよ」
「日焼けは、火傷の一種です。痛みが出ることもあります」
「痛いの? イリーナ、日焼けしたくないッ!!」
二人に力説されて、イリーナが不安そうな声で言った。
すると、話を聞きつけた同級生の女子生徒たちが集まってくる。
「イリーナちゃん、日焼け止め持っていないって、ほんとう?」
「うそ、ダメだよ。せっかくのスベスベお肌なのにぃ」
彼女たちも、イリーナが日焼け止めを持っていないことに驚いたようだ。
「そうだ、みんなが使っている物も見せてあげたら? 日焼け止めって、色々種類があるから」
ひなたの提案で、日焼け止めの品評会が始まった。
「これ、マーメイドスキンじゃん。これ使っているんだ」
「やっぱり、ウチはローションタイプかな」
「とりあえず、無香料を選んじゃう」
「ほら、これかわいいでしょ? それに値段も安くて私のお気に入りなんだ」
「新商品。つい、手が出ちゃうんだあ」
机の上に、何種類もの日焼け止めが並ぶ。
カラフルなパッケージは、見ているだけで飽きない。
と、ひなたが、ある商品に目を止めた。
それは、小さな小瓶の形をしていて、いかにも高級そうだ。
「この日焼け止めは……織戸さんの?」
「はい、数年前に親しい方から進められたんです。詳しくは知らないのですが、それからずっと愛用している物なんです」
「イリーナ、この形が一番好き」
すると女子生徒が、織戸の日焼け止めを手に取り、目を丸くした。
「アジュール? え、あのAZUREなの? 超高級ブランドじゃん。織戸さんこれ使っているの?」
彼女の発言で周囲の女子生徒たちも驚いた。
全員が、織戸の日焼け止めを見つめる。
「どうぞ、試してみてください」
織戸が勧めで、ひなたも含めた、全員がブランド物の日焼け止めを試す。
「すごい、ぜんぜんべた付かないし、塗った感じもしない。それにスベスベになる。でも任務中は使えないんだろうなあ……あ、しまった。イリーナの日焼け止め、って話をしていたんだ」
「そうだった。そうだった。イリーナちゃんの日焼け止め」
「今、ちょっと思ったんだけど、アメリカ人のイリーナちゃんが日本人用の日焼け止め、って使っていいのかな?」
ある女子生徒の言葉に、あー、と周囲から声が漏れた。
「それじゃあ、ミオとかソフィに聞いてみたら?」
名前が上がった二人は、イリーナと同じ交換留学生だ。
結波中央学園は、アメリカからの交換留学生を多数受け入れており、クラスに二人か三人はアメリカ国籍の生徒がいる。
ちょうど、二人が教室にいたので、話の輪に加わってもらった。
「使っている日焼け止めですか? そんなことを聞かれても……それですよ」
ミオが指さしたのは、どこにでも売っている一般的な日焼け止めだった。
「ワタシはこれです。安くてカワイイですよね。とくに肌が荒れたとかはないですよ? むしろ日本の日焼け止めは良質だと思う。その辺は気にする必要はないよ」
二人の話を聞いて、へー、と女子生徒たちが関心した。
「もし心配なら、ちゃんとしたお店に行ってみるといいよ。近くにアクアリウム系列のドラッグストアがあったはず」
「あー、あったね『ドラッグアクア』の店員さんに聞けば安心だよね」
それを聞いて、イリーナがひなたに話かけた。
「ひなた、一緒に行こう? もしかして今日はお仕事?」
「ううん、非番。それじゃあ、買いに行こうか」
自然にそう答えていた。
ついこの前まで、放課後にクラスメイトと買い物に行くなんて、考えられなかった。
ひなたも、少しづつ変わってきているのだろう。
そして織戸に、こう話かけるのだ。
「織戸さんも来るでしょ?」
「私は……はい、そうですね。あまり長い時間は無理ですが」
「よし、決まりね。みんなもどう?」
「もちろん」
「ちょうど、新しいのが欲しかったし」
「うん、行く」
休み時間の教室は、今日もにぎやかだった。
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一条ひなたは、執行部のエースである。
そして1年C組の女子は、みんな仲良しだった。
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