「...んっ、うぅ...」
晴れていればうっとおしいくらいの日差しが頭を強制起動させるのに、今日のはなぜか霞がかっていた。
起床時間はいつもと大して変わらない。天気予報でも別に天気が崩れるとかいうこともなく、むしろ雲ひとつない快晴を堂々と宣言されてちょっといらっとしたほどだ。
横になったまま首を傾ける。多少和らいでいても、日差しはやっぱり目に痛いものだ。
「...あー、霧か...」
寝起きではやはり思考が回らず、多少の時間を要して結論に至る。
もっとも、目が醒めてしまうと二度寝をするわけにはいかないし、昔から二度寝しないよう鍛えてきたこともあり、起きる以外の選択肢は元より存在しない。
枕元に置かれたメガネを手探りで探す。
メガネをかけて、アクビとともに伸びをするのもいつものルーティンだ。
ベッドから起きればもういつもと同じで、外に霧がかかっている以外はなにも変わらない。せいぜい、朝の話題に上がる程度だろう。
いつもよりちょっと暗い階段をゆっくり降りる。
「あ、おはよう」
「...おはよう」
ドアを開けて、この短いやり取りを済ませるだけで、いつもの日常だ。雷が鳴っていようと雪が降っていようと、霧が出ていようと。
椅子にすわって、用意された牛乳を飲み干す。いつもそこから始めようと決めていた。でも。
「...なぁ。散歩、いかないか?」
なんでこんな言葉出てきたんだろうと、今になって思う。
「...え?」
「いや、えっとな、その...あれだ、お腹の子にもいいだろうし、な?」
とっさに出てきた口実。
すこし間をおいて、加える。
「それに、霧が出ているところ散歩するなんて機会そうないだろうし、きっと気持ちいいし...さ」
目線の先には包丁を持ったまま固まる妊婦さんがいた。6ヶ月、だそうだ。
「...そうだね、たまには、そういうのもいいかもね」
「んじゃ、早速行こう」

玄関を開けると、ひんやりとした空気が体を包み込む。でも、湿度が高く動きづらいのとは違う。ふんわりとした、霧。
「うわぁ...」
こういう普段体験しないことは、いつの時代も心踊るものだ。お腹の子にもきっといい影響を及ぼしてくれることだろう。
「んじゃ、町内一周くらいしてくるか」
寝間着のままというのもみっともない話ではあるが、別に大丈夫だろう。隣にはエプロン姿の、まるで保育士みたいな人もいる。
前を見れば、ぼんやりとした太陽が影を伸ばそうとして、霧に掻き消される。
慣れ親しんだ土地も、こうやってみると違うものに感じた。
鳥のさえずりは聞こえるが、姿は見えない。
一歩一歩踏み出す度に、回りの水滴が躍り乱れるのが楽しい。
隣の妊婦さんも楽しそうにしていた。
家につくまで、どれくらい時間がたったかは分からない。5分と言われても、1時間と言われても納得できる気がした。

「あー、楽しかった」
家に帰るなり、そういう隣の妊婦さんを見て、心が和まされる。
こういうのもいいかも知れないな。
玄関で霧に濡れたメガネを拭きながら、そんなことを思った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

霧(ダンチョーとは関係ないかもしれないかもしれない。)

消せ!今すぐ!って言われたら消します。
なんか唐突に思い付いたのでおいとこうと思いまして。

閲覧数:72

投稿日:2015/09/13 23:32:28

文字数:1,264文字

カテゴリ:小説

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