クリスタル・メロディ
Chapter1
淡く淡くどこまでも透明な空。
はるか彼方まで埋め尽くすように咲く白い花達。
まるで、神様の優しいこころでつくられたみたいな世界の中心に誰かが立っていた。
丈の長い不思議な衣装を着ていて、顔は羽のように柔らかそうな真っ白なヴェールに覆われている。かすかに覗く桃色の唇には優しい微笑みが浮かぶ。
その後ろにも沢山の誰かの影。顔は朧だけれどみんな笑っているようだ。
何故だろう。胸が締め付けられて泣きたくなる。
懐かしくてあたたかくて、鼓動が高まる。
そっと手を伸ばしふれようとした。
もう少しで手が届く…
*
「まもなく終点。ホテルエーデルシュタイン前。ご乗車の皆様ありがとうございます」
バスからアナウンス用の電子音が鳴り響き、ミクはぱっちりと目を開けた。
「ふおおぉんわぁぁ〜」
大きくあくびをしながら目を擦ると、友人達が顔を覗き込んでいた。
「ミクちゃん着いたわよ」
パステルピンクのロングヘアをふわりと揺らし、ルカが優しく微笑みながら言った。
ミクは「ほあようごじゃりまひゅ」と舌足らずな口調で言った。
「何言ってんですかあなたは…」
「まあまあ、でもとっても幸せそうだったよね!!いい夢でも見た?」
お揃いのオレンジがかった金髪の二人組のうち、癖っ毛の子レンがため息をつき呆れたような表情を浮かべる中、頭に大きな白いリボンをつけた子リンが瞳を輝かせる。
「うん、あんま内容覚えてないけどなんか天国にいるみたいだった〜」
まだ寝ぼけ気味なのか口をむにゃむにゃさせながら、ミクはのんびりとした口調で言った。
「あんた達、さっさと降りるわよ」
前の座席の方から、メイコの声。すでに荷台から真っ赤なキャリーケースを降ろしている。そのすぐ後ろではカイトがにこにこしながら鼻歌を歌っている。
「カイト…あんたなんかやけにウキウキしてるわね」
メイコが首を傾げた。
「えーだって、ここのホテルのビュッフェ、今アイスとジェラートのフェアやってるんだもん!!」
カイトが右手に持っていたホテルのパンフレットをどどーんと広げた。
そのページには、ホテルのビュッフェの夏期限定アイス・ジェラート特集がこれでもかとデカデカと載っている。
「カイトさん行く前から楽しみにしていたものね」
ルカがうふふっと笑った。カイトも、えへへっと可愛らしい笑顔を浮かべる。
「アイスにジェラートかぁ…。わたしもたくさん食べるぞ〜!!」
ミクが食欲に瞳を輝かせながら、ガッツポーズ。リンも真似して「おいしいものはりょこーに欠かせないんだから!!」と気合いを入れる。
賑やかな一行は各々荷物を持ち、バスから降りて行った。
*
「ほへ〜!!」
ミクはバスから降り立つと周囲を見回した。
真夏の太陽に照らされて遠くできらめく海も、鮮やかな色の木々や花もみんな宝石のよう。
雲ひとつない空はどこまでも透明で優しい。
「すっごいきれいだね!!レン!!」
「うん。来れて良かったな」
リンとレンが手を繋ぎながら降り立つ。相変わらずの仲の良さだ。
続いてルカが降り立ち、ハート型のミニマムフォンのスクリーンをタップして何かを確認すると、カイトとメイコの方に近づいていった。
「リリィ達ももうすぐ着くってメッセージがあったわ」
「あら、ほんと。送迎バスの予約いっぱいだったせいで、さっきは一気にみんなでとはいかなかったものね」
「ここのホテル大人気だもん。それにぼくたち10人もいるし」
「早くあの子達も来ないかしら。さっさとチェックインして、ゆっくりしたいわ」
朝早かったもの、とメイコが伸びをする。
そんな会話を小耳に挟みつつ、ミクはしばらくその場を適当にぶらつきながら歩いた。
(リリィちゃん達まだかなあ)
くるっと一回転して空を仰ぐ。
太陽の光に照らされて、天空も大地も何もかもが煌めいている。
あまりにも眩しい景色に思わず駆け出したくなって、山々の方へさっと走っていくとすうっと息を吸い込む。そのままミクは大声で呼びかけた。
「やまさーん!!こんにちはー!!」
こんにちはー、こんにちはー、と響くこだま。
「旅行の間お世話になります」
「!?」
深く響く透き通ったハスキーボイスと誰かの気配。
ミクはぱあっと顔を上げた。
「リリィちゃん!!」
すらりと背が高く、太陽の光のように眩い金色の髪のひとがミクの隣に立っていた。
今日の空の色と同じ、いや、より澄み渡った色彩の瞳が淡く輝く。
「リリィちゃんもお山にあいさつ?」
「ああ。これからしばらくの間共に過ごすからな。それと…ミク落としていたぞ」
「え?」
リリィが何かを持った左手を前に出す。
手のひらには、ミクの髪の色と同じミントグリーンの装飾や宝石があちこちについたコンパクト。
「あっありがとー!!」
「うん」
リリィが頷く。
このコンパクトはミクが赤ん坊の時からずっとあった宝物だ。
鍵がかかっているのか、今まで一度も中を見たことはない。
だけど不思議とお守りのようなあたたかい雰囲気を感じるので、普段から身につけて持ち歩いているのだ。
先ほど山に向かって駆けている時にショルダーバッグの外ポケットから落ちたのだろう。
ふと何者かがリリィの背後からちょいちょいとブラウスの裾を引っ張った。
リリィとミクがそちらに目を向けると、新雪のような白銀色の髪の少女がじーっとリリィを見つめていた。その後ろには若草色の髪をボブカットにした優しげな少女と、藤色の長髪を頭の高い位置で結い上げた真面目そうな長身の青年。
「イアちゃん!グミちゃん!がくぽさん!」
ミクが明るい顔で名前を口にすると、白銀色の少女ーイアは「ういっ」と一言返事をして無表情のままVサインをした。グミと呼ばれた若草色の少女も柔らかな笑みを浮かべ、藤色の青年がくぽもかすかに頭を下げる。
「リリィおねーさん、ミクちゃん、メイコおねーさんが呼んでるの」
「まだお取り込み中だったかな?」グミがかすかに首を傾げる。
ミクはふるふる首を振り「だいじょーぶ!」とにかっと笑った。
「ミクの言う通り。そうだな…ようやく全員揃ったことだしそろそろチェックインに向かわないと。知らせてくれてありがとな3人とも」
リリィのお礼。イアのマンボウの如き無表情な口元が一ミリほど上に上がり「にゅ…」と嬉しそうな声。
グミは両手で頬を包み込みながら「はわわわ…」と真っ赤になって恥ずかしそうにしている。
がくぽの方も一瞬ほぅっとリリィを見つめていたものの、短く咳払いすると「お気になさらず」と穏やかに微笑んだ。
ミク達はメイコ達と合流し、話しながらホテルの入り口へと歩みを進めていった。
*
「うっひょおおお!!」
チェックインを済ませ、ホテルの部屋に入るとミクは歓声を上げた。
前にリンとルカと一緒に見にいった映画に出てきたお城の部屋みたいに、美しく広々とした一室だ。
ふかふかのソファにガラスのテーブルなど優雅なデザインの家具が並び、窓からは海や森が見える。
ぱち、ぱちちっ
リンが興奮しながらしきりにカメラのシャッターを切っている。
「いや〜ほんっとここすごいよね!!景色はいいし、お部屋も超可愛いし、テニスコートとかゲーセンもあるし屋上にプールも…!!」
リンがカメラの手を止めて顔中にぴかぴかの笑顔を浮かべた。
「さてと荷物も置いたし自由行動にしましょうか。わたし2階のカフェに行ってくるわ」
ルカが手早く荷物をまとめ終えると、髪色と同じパステルピンクのハンドバッグを手に取り軽やかな足取りで部屋を出ていった。
「あたしはしばらく部屋にいるわ。朝早かったからちょっと休みたいのよね」
ふわぁとメイコはあくびをしながらソファに寝っ転がった。数秒で寝息が聞こえてくる。
「じゃあわたしもお散歩行こうっと。リンちゃん一緒に行く?」
「ごめーん、ミクちゃん。実はレンとプール行く約束してて…!!」
リンが財布の中から『プール学割』と印刷された紙を取り出しながら言った。
仲良しさんだなあと微笑ましく思いながらミクは頷いた。
「楽しんできてね!!」
「ミクちゃんも!!」
ミクはショルダーバッグを抱え帽子をかぶると、リンと昼寝中のメイコに手を振りながら部屋を後にした。
もちろんあの宝物のコンパクトも一緒に持って。
*
ホテルを出てしばらく歩いたところにある森の中は緑の香りが漂う。
地面には木漏れ日と木々の葉の影が曼荼羅のように絵を描いている。
ミクはその中をとことこと歩いていた。
耳を澄ませばセミの合唱に混じって小鳥達の鳴き声や葉っぱの囁きが聞こえてくる。
優しくて、心地いいメロディ 。
「いい音…あっ、かわいいな〜」
ミクは大きなカブトムシが木の蜜を吸ってるのを見かけにっこりした。
ふと目の端で何かが白く光ったのを感じて顔をそちらへ向けた。
何か白いものが点々と見える。
ミクはくるりと向きを変え、その白い点々の方へ向かった。近づくにつれ点々はどんどん増えていき、形もしっかりとしてくる。
ミクは森を抜けて日の下へと出ていった。
「わあっ…」
夏の太陽の金色の光に照らされていたのは、今朝夢の中で出てきたような白百合の咲くお花畑だ。風にのってふわりと甘い香りが漂う。
「きれい…」
ミクはゆっくりと花畑の中を進んでいった。
すうっと息を吸い込む。
身体中を花の匂いと透明な空気が巡る心地が気持ちいい。
まるで透き通った存在に生まれ変わっていくみたいだ。
ーしあわせだなあ
と想いが巡る。
大好きな人たちとこんなに綺麗なところにこられて、明日も海に行ったり、お祭りに行ったり旅行のあとも楽しいことが目白押しだ。
毎日が本当に楽しくてミクは自分が宇宙で一番幸せだなぁと思う。
「ずっとずっとこのまんまたのしいのがいいなぁ」
呟いたその瞬間
ゴォオオオン
突然鼓膜が破れるのではないかと思うほどの轟音が響いてミクは「ぎょええ!!」と叫んだ。さっきまで透き通った色をしていた空が瞬時に黒い雲に覆われ、夏だというのに震えるような冷気があたりに漂い始める。
「あれ…?どうして」
雨でも降るのだろうか。あんなにいい天気だったのに。
しかしこの冷たさは?夏だというのに寒すぎやしないだろうか。
ミクは思わず両腕で身体を抱くようにしてさすった。
ふとなんだかお腹をぎゅうっと締め付けられるような気配を背後から感じて、背筋がぞわわっとする。
ー誰かに見られている?
がばあっと勢いよく後ろを振り返る。
ミクのミントグリーンの瞳が大きく見開かれた。
To be continued…。
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S
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A
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