~次の新月の晩~
「現れない…もう時間は大分経っているのに」
リンはレンに何かあったのではと心配になり、探しに出かけた。
―――ララッラーララララララララー♪
聞こえたのは美しすぎる歌声。
聞こえたのは狂わしいメロディー。
のぞき見ると、美しい人魚が弟を抱きながら歌を奏でていた。
この曲……メイ様が言っていた占い師ミクリアの呪曲?
――これでレンは私のモノ。姉は私なんだから
「貴方の本当の姉は?」
「ラヴィア姉さんだよ…」
そう言って人魚姫に微笑む弟。
全てを知った私は……
必死で結界を叩きながら叫んだ。
「レンっ!!!私よっ!!!!」
だが、やはりレンは虚ろな目で私を見つめて
「君は誰?」
と応え、人魚と共に去っていこうとした。
「なら……人魚の記憶も消してやるわ」
リンは指を鳴らし、
ただただ狂ったように笑った後……
「…そこにいるのでしょう。ミクリア」
岩場に怯え隠れた女性に笑い問うた。
「何故わたくしがいると…」
ミクリアが岩陰から姿を現すと、リンは静かに応えた。
「メイ様から気配を感じ取る黒魔術を教えてもらっていたのよ」
「メイ……貴女まさか」
リンは狂ったように笑い、
「そうよ私は次期黒魔女…そして……あの少年の実の双子の姉」
「…………!!!!!」
ミクリアはただ黙ってリンを唖然と見つめた。
「驚いて言葉も出ないようね。なら…」
「ごめんなさい!!!!まさかあの少年が貴女の弟だなんて知らなか」
「知らなかったら許されると?」
ミクリアの顔を覗き込みながら問い詰めるリン。
「それは…」
「私は黒魔女メイの姪っ子。そんな甘ちゃんじゃないの」
「………貴女はどうするつもりなの?」
リンはしばらく考えて述べた。
「人魚の記憶を消した今、私の存在は彼らにはない。童話の人魚姫でも再現してあげましょうか……クスッ」
「そんな……」
「まぁレンを取り戻せれば私は良いんだけどね?だから……」
「なに…?」
「私の復讐を邪魔するならあんたも消す」
「――――!!」
そしてリンはミクリアの反応をイエスと受け取り、ハイヒールの音を高らかに立て去っていった。
―――レン…。
必ず思い出させてあげるからね――
――aquatopia~魔女の屋敷~
「只今戻りました」
「お帰りリン。で新月の晩の密会は?」
「……!?……いやメイ様にはお見通しでしたか」
苦笑するリンをメイは淋しく見つめる。
「その表情からして何かあったようね」
リンは無言で俯き、代わりに黒魔術―VOCALIA―を使いメイに話しかけた。
「……ねぇ。メイ様?」
「何、リン?」
「私に…貴女が知っているありったけの黒魔術を教えてもらえませんか?」
「…いいわよ。但し………訓練の際、泣き言を言わないこと」
「………わかりました」
リンは強く決意し、メイはリンを正式な後継者として迎え入れた。
「もっと早く!!!」
「くっ……」
「もっと強く!!!」
「きゃっ……」
「もっと執念を燃やすの!!!!!」
「はぁ――――!!!!!」
リンが杖から黒魔術の力を引き出そうとすると、杖はリンを嘲笑うかのように電撃を放ちリンを自らの力で弾き飛ばした。
「立ちなさいリン……」
「ハァ…ハァ……はいメイ様……」
――――ドサッ
「立ちなさい」
「………」
―――スッ
黒魔術の反動でボロボロになりながらもリンは無言で立ち上がる。
「黒魔術の反動に負けず、全てを自分の力に変えなくてはいけない……ですよね」
「リン……」
「まだ…やれます。メイ様続きを……」
「今日はもう……これ以上はリンの身体がもたな」
「レンを1日でも早く取り戻したい。それには私が黒魔術を身につけるしかない」
「だけど……もうあんた限界じゃない―」
メイがリンに近付こうとした瞬間―
―メイだけの時間が止まった―
『黒魔女見習いリンよ。お主の想い…確かに強い』
「杖が話しかけてきた…?」
リンはメイを見るがメイには聞こえていないようだ。
『だが貴様は……我が力を全て飲み込むことが出来る器かな?』
「何ですって!!!飲み込めるわよたかが杖の力位!!!」
『確かめてみよう』
すると杖から黒いオーラの精が現れ、
リンの身体に腹からグッと捻り入り込んだ。
「………!?…なにこれ…………」
『そんなものだろうな貴様の覚悟なんて』
杖が苦笑するとメイの止まっていた時間が再び動き出し、
「リン…?リン!!!!!」
リンの異変に気付いたメイは必死で杖をリンから離そうとした。
「やめて…メイ様……」
「リンっ!!このままじゃあんた死ぬわよ!!!」
「――私はレンさえ取り戻せるならたとえ地獄のような痛みでも耐えられるの」
「………!!!」
「……か…はっ……ぐっ……」
無言でリンを見つめるメイ。
黒いオーラが全てリンに入りきり、身体の中からリンへと声がした。
『この幼女……まさかこれほどの器とは』
「…私を認めて……くれるわよね」
『あぁ……黒魔女の後継者―リン=フォルティス』
「杖の力を……手にするなんて…今の私には容易いモノよ……ねぇ…レ」
リンは前のめりに崩れ倒れた。
「リンっ!!!!!!」
――嘘吐き人魚への恨みがリンをここまで動かすの?
メイはリンを抱き起こし、目から零れ落ちる涙を優しく拭うと、小さくか細い声が響いた。
「レ…ン……。待っててね……」
――それほどあんたは…レンを愛してんだね…。
メイは静かに天蓋付きのベッドにリンを寝かせ、部屋を後にした。
~リンの部屋~
「リン……」
あれから3日。まったく目を覚まさないリンを心配に思うメイは、ベッドの隣で手を握っていた。
「メイ…様………?」
虚ろな目を開けて、メイを見つめるリン。
「リン…!!良かった…」
思わず本音がこぼれ落ちたメイは、すぐにいつもの自分を思いだそうとした。
「あんた。物凄い量のオーラをあんだけくらっといて、よく耐えたわね」
「…ありがとうございます」
「……?誉めてないわよ!?」
メイはフンっとそっぽを向くと、リンはクスクス笑った。
「じゃあ…訓練に戻るわよ」
「はいっ」
~訓練場~
「まず、あの岩を壊しなさい」
そう言ってメイはリンに杖を渡そうとすると、リンは首を横に振った。
「杖なんて要らないわ…………」
リンが無言で岩に向かって手を向けると
「……?…………!!!!!!!」
岩は粉々に砕けた。
「杖の力が身体中にみなぎってくるの」
「………素晴らしいわリン!!正式な後継者として選ばれたのね!!!」
メイはリンを抱きしめるとリンは少し甘えた声で
「メイ様のお陰よ」
と囁き今までに見せたことのない可愛らしい笑顔を見せた。
「何か望むことはない?」
リンと目線を合わせるとメイに対し、リンは微笑み言葉を紡いだ。
「では…私に分身の作り方と強大な力を扱う術を教えていただけますか?」
「それだけでいいの?」
リンは少し考え、続けた。
「ではもう一つだけ…黒魔女の後継者であることを時が来たら人魚姫に囁いてくれませんか?」
メイはすべてを悟ったが、可愛い娘のようなリン。リンが本気で弟を取り戻したいならと
「わかったわ」
とリンに応えた。
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