「……っ、……ッッ!」
「落ち着いてー」
「……ぅあっ」
「ちゃんと画面見て、集中して、…あ」
「あぁっ!!」
メイコの悲痛な声が響いた。
「ああああもうッッ!!」
ゲーム機兼コントローラを投げ出し床に突っ伏す赤いカタマリを横で眺めながら、オレは苦笑う。
「…残念」
テレビ画面には大きな『MISS×TAKE』の文字と共に、絶望感溢れる四つん這いで床に手を突く、お馴染みの白コート青マフラーのKAITOの姿があった。ちなみに今のメイコと全く同じポーズ。お揃いだ。
「間奏から先進まないねぇ」
「カイトが横で!うるさいから!」
「いやーそれでもいいけどさぁ」
なんだか画面の自分が悲壮過ぎるので早くリセットしてほしいなと思いつつ、
「めーちゃんはまず○×△□の位置を覚えるとこからさぁ」
「覚えてるわよでもテンパるんだもん仕方ないじゃないッ!!」
「脳の処理が指で追い付かないんだよね」
「ワンテンポずつ出てきてくれればいいのに…なんであんなに重なってぶわああって出てくるの…」
「それはそういうリズムの曲だから…」
「わかってる…」
四つん這いから立ち直れないメイコの代わりに、オレは身を乗り出して放り出されたコントローラを手に取り、『return』をキャンセルして選曲画面に戻った。



オレ達一家が総出演しているゲームである。携帯機のソフトだが専用ケーブルを繋いでリビングの大画面でプレイしている。曲のリズムに合わせてボタンを押すだけという一見単純な仕組み。音楽を生業にしているオレ達にとっては、こんなもの目を瞑っていても出来ると豪語したいところではある、が。
やはり得手不得手はあるようで。
「HARDなら出来そうなんだけどな。ねこみみとか」
「何言ってんの出来るわよ」
「全曲中6割は出来ないし出来る曲も3回に1回はテンパってミスって終わるよね?」
「一度でもクリアできたら、それでいいの!」
膝をバシバシ叩いてくるメイコを無視しつつ、『ねこみみスイッチ』のextremeを何気にはじめる。
「あっしまったオレのままでやっちゃった」
「うわぁ自爆」
「まぁいいやコレの方が集中できるし」
「私は無理だわー…うわぁ…うわぁ…」
にゃんにゃんと踊り狂う成人男子の映像にドン引きしているメイコを尻目に、オレはアイスのスプーンを口でプラプラと揺らしながら、適当にサクサクとボタンを押していく。
「なんでその連打を外さないのよー…」
「これリズムそのまんまじゃん」
「だってボタンめちゃくちゃじゃない…」
「めちゃくちゃって何」
恨みがましくオレの腕にしがみつきながら画面に見入るメイコに思わず笑う。そうやって腕を固定されるとボタンが若干押しにくいのだが、可愛いのでまぁここは耐えておく。
「ま・な・つ・のよる・のー♪…カイト気持ち悪い」
「オレに言わないでくれ」
元々ミク用のモーションなのだからオレに罪はない、…はずだが確かにどう見ても罪深いな。
「えっ、もしかしてここまでノーミス!?」
「パフェ狙いですからね…ちょっと待ってめーちゃん腕動かさないで」
掴んでいた手に思わず力をこめ、メイコは息を飲んで画面に見入る。最後の最後までテンポよく正確にボタンを押し、左下の丸いゲージがオレンジ色になったのを見届けて、わぁ、と歓声を上げた。
「すっごーい!すっごいカイト!!」
「どうもー」
「なんで!?なんでそんなことできるの!?カイトの指どうなってんの!?」
「いやこれそこまで難易度高くないし」
「わかった!手がおっきい方が有利なんだ!絶対そうだこの卑怯ものー!」
じゃあなんでうちの黄色い2人はあんなに上手いんだよ、と言いかけてやめた。不機嫌と興奮状態の両方で荒ぶっているメイコなど下手に絡まないに越したことはない。大人しくされるがままにポカポカと殴られておく。



レンとリンはextremeでもパーフェクトなんて余裕だし、ルカもやらせてみると至極冷静でなかなか上手い。オレもはじめから特に苦労なくコツを掴めたクチで、この家でゲーム全般が苦手なのはミクとメイコだ。
大方自分の歌だというのにミクは肩に力が入り過ぎていて一つでも間違うと一瞬でパニックになるし、メイコはWiiでもないのに腕ごとコントローラを振り回すタイプだった。…カートものや横スクロールなどやらせると傍目に非常に面白い。ただし近付くと危険なので誰も指南したがらないため、コントローラに殴られながらメイコにゲームを教えるのは結局オレだったりする。
役得、とはさすがにちょっと言い辛い。

不思議な話で。
運動神経に関してだけ言えば、なぜか初代ボーカロイド二人の身体能力は他よりずば抜けている、らしい。そもあらゆる特徴を「設定」されて生まれてくるのだから敢えて運動音痴にされる理由もなく、元々全てのボーカロイドはある程度の運動神経を持ち合わせているのだ。細かい差異は生み出されたあとに自然と現れた、いわゆる本来の個性と言えるだろう。
それにしても、と皆は言う。MEIKOとKAITOは何か設定値がおかしくないか、と。
もちろんオレ達がその脅威を誇示するわけではなく、日常生活の中でずば抜けた身体能力を披露する場もそうそうなく。ただ共に行動する中で端々に垣間見える驚異的な…要するに脳と筋肉の連携、に圧倒されるらしい。当のオレ達本人にそう言及されても、「え?」としか返せないのだが。



しかしそれと、これと、は次元の違う話らしい。そもそもメイコは機械と相性がよろしくない。壊れた電化製品に話しかけながらバシバシ叩くタイプだから。
「ミクはこないだすっごい頑張ってHARDでパフェ取ってたよ」
「えっ、ウソ」
「何の曲だったかな。えんじぇぅだったかな」
「えぇぇえ何それもおおおぉぉお私ばっかりくやしぃーー」
オレの膝に伏せて泣きつくメイコをよしよしと宥める。こういうとこばっか負けず嫌いなんだからなぁ。
「めーちゃんも自分の曲で頑張ってみなよ。デュエット曲でもいいけど」
「私の唄ってる曲ぜんぶ難易度高いの!それに自分の曲なのにミステイク出すとかすっごい屈辱もうやりたくない…」
「あー…、まぁオレもMEIKO曲とかモジュールによっては余裕でミスるけどね」
「?なんで?」
「めーちゃんを目で追っちゃって画面のアイコンが追えないんだよ」
メイコはたちまち眉を顰め、染めた頬でバカじゃないのと言い捨てた。
バカかもしれないが切実な話だ。仮にオレがさっきの『ねこみみスイッチ』をシャオメイコモジュールでプレイしていたら、パーフェクトどころか最初の10秒で試合終了だ。だから意外とオレはMEIKO曲を攻略できていなかったりする。『カラフル×セクシィ』に関しては視線をルカにのみ固定してなんとかクリアした。…などという失礼極まりない話をルカの耳に入れるわけにはいかないので永遠の秘密だ。
メイコがもぞもぞとオレの膝上から離れ、ツンと顎を上げる。
「…別に私は、KAITO曲でも普通にプレイできるわよ」
「そう?じゃ、『千年』のHARDやってよ。パフェ取れたら今晩お酒飲んでいいから」
「えっ、ほんと?」
「うん」
案の定喰い付いたメイコににっこりと笑うと、絶対だからね!と念を押され、よぉーしという気合いの声に苦笑した。そのうち流れてきた自分の歌声と『千年の独奏歌』のPVに、ひそかにニヤニヤと口元を歪ませる。
この曲を必死でプレイしている間、メイコの耳にはオレの歌声以外は聞こえていないのだ。そう考えると実に気分が良かった。まぁパーフェクトは無理だろうが、餌はぶら下げておくから飽きるまで頑張って頂きたい。なんなら耳に直で生歌を聴かせてあげよう。生KAITOの本気だぞ。こんなの聴けるのメイコだけだぞ。
そんなことを考えていたら即座にミスったらしくぎゃーっという叫び声が響き、吹き出した。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【カイメイ】 落ちつけ、カフェオレ飲もう

※前のバージョンで進みます。全2Pです。


ゲーム苦手なメイコに手取り足取り執拗に迫りつつ教え込むカイトのお話というわけでもないです。年長組のくせに2人揃ってねこみみモジュがあるとかホント可愛いじゃないですかこいつらー。とヨダレを垂らしつつ書いたので『ねこみみスイッチ』から随分色々とお借りしました。

DIVA Fも発売決定な昨今。私は未だにextendの魅力に指先までどっぷりこんです…。PSP「DIVA-extend‐」をプレイ済みの方がわかりやすいかとは思いますが、プレイしてなくても余り問題はありません相変わらずそんな内容です。
魅力的過ぎるカイトモジュの数々に悔しさのあまりちっくしょおおあああぁでもホントかっこいいし可愛いし色気あるしたまらんですカイトモジュ…ッッ!!でも認めたくない。悔しい。カッコイイ。可愛い。悔しい。そんな気持ちで書き殴りました。もちろんメイコモジュはもうね!…もう、ねっ!!(言葉にならない)


※作品内のセリフやイメージは全て書いた者の脳内妄想であり、また楽曲やモジュールに関する記述がありますが原曲及びモジュール自体を貶めるつもりは一切ありません。ご了承下さい。

閲覧数:1,683

投稿日:2012/11/18 23:15:55

文字数:3,229文字

カテゴリ:小説

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