ライトノベル、それは宝石のような。ようこそ、終わりの世界へ、という最近発行された文庫本を彼は手に取る。右手は頬に当てられ、思案顔だ。十中八九、購入如何に思惟を割いているのだろう。苦悶に表情が苦くなっている。
「ふーん、まあ在り来たりだよな」
ライトノベルにはこれといった定義が示されておらず、時によってそうではないと書店のさじ加減でコーナーを分類される。
彼が小脇に挟んでいる「ようこそ、終わりの世界へ」は誰がみても(ラノベを知っている、もっと誇大にするなら知悉)ライトノベルであり、この店の角に平に並べられている。
彼が財布と商談しているうちにこのラノベの粗筋を紹介しよう。
 作品は、西暦2200年核戦争後の世界を描いている。目に映る全てが退廃した世界で若き少年が生き抜くという内容だ。物語は少年をかいして展開され、悲壮に抗い世界を再建しようと奮闘する。そこで出会う温厚、冷徹、険呑気質な人々と会話の応酬を繰り返し、置かれた立場を改善しようと折り合いをつけていく。必要とあればたとえ不本意であっても少年は武力を行使する。あったかくて、幸せでみんな楽しく暮らせる世界なんて絵空事だと未熟ながらに見通しているからだ。最後は、まあ言わないでおこう。野暮というものだ。
 ここで一つ、蛇足だが作者は今幅を利かせている新人作家である。
 ということを当然少年は知る由もなく、逡巡しているのだ。面白い、面白くないかは人次第だ。一任するまでもなく、レジをくぐるかは彼次第だ。
「あらすじはまあまあだな。イラストは俺好み。見た感じ、いいっぽいし買うか」
ほころぶ彼は実に満足そうである。即座に会計へと移った。店員さんの身のこなしはなかなか奇妙であり、彼女を次巻の参考にしようと私は心に決めたのであった。
記憶の深淵で決壊したものに感化され、木漏れ日の下私は郷愁に浸っている。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

light novel

ツイッターに流したのをコピペ。

閲覧数:61

投稿日:2016/05/04 17:45:02

文字数:781文字

カテゴリ:小説

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