あの人はいつだって突然で。こっちの都合なんかお構いなし。
今日だって、ずっと前から約束してたのに。「こないだの商談が上手くいきそうだから」なんて……。しかも、メールで。

「仕事と私、どっちが大事なのよ…」

呟いて、自己嫌悪。最低だ。
こんな事、彼には絶対に言っちゃいけない。
わかってはいるんだけど、涙が出そう……。

----はぁっ

大きくため息をついて、出そうになる涙を乾かす。
手で目に風でも送れば、乾くかな?
今日は、あの人と付き合い始めてちょうど三年目。
正直、そんなお祝いなんて馬鹿らしいとも思ったけど。
そんな理由でもつけなければ、仕事が軌道に乗って忙しいあの人と一緒に夕飯なんて……。

----はぁぁっ

目の前にある、冷めるだけの料理を見て思わず長い溜息。
あの人が好きなビーフシチュー。ちょっと奮発して、タンシチューにしたんだよな。昨日から仕込んで、柔らかくなるように何時間も煮て。冷蔵庫には、簡単だけど気に入ってくれたガトーショコラも冷えてるんだよな。
それに合うよなワインとシャンパンも用意して。

「……馬鹿」

全部、空回りだ。
そう思ったら、止まらなくなった。
握った手の上と横にぽつぽつと雫が落ちる。

『人間て、三年もすると飽きが来るらしいよ。
 だから浮気とかすんだって----』

あの人に限って、それはない。
ないけど……私より、仕事のが好きなんだとは思う。
比べるようなもんじゃないっていうことは、頭の中ではわかってる。
わかってはいるけど、納得はできない。

「仕事は毎日、会えるじゃんかぁ」

何かもう、自分でも思考が破綻してるって思う。
ひとしきり泣いて、ふと時計を見る。
結構泣いていた気がするけど、15分くらいしか経ってなかった。
涙を手の甲で拭って、立ち上がる。
次からは、用意するのはやめよう……。後片付けとか、考えないといけないし。さて、この料理達はどうしよっかなぁ……。

ヴヴ…ヴヴッヴ……

あの人からのメール。
一瞬、気づかなかった振りをしてやろうかと意地悪を思う。
でも、まぁ…見るだけなら、ね。

『寒い日にごめん。後10分くらいで着くから、チャイム鳴らしたら出てきてもらっていい?』

喜びと疑心。今日は来ないって……。
料理中に来ていた、彼のメールを読み返す。

『ごめん!こないだの商談がまとまりそうなんだ!
 約束、無理っぽい。また後でメールするね。』

時間は二時間も前。サラダに慣れない飾り切りなんてしていて、気付かなかったメール。何度も、今来たメールと読み比べて……返信ボタンを押した。

『商談、まとまったの?』

意地悪、だよな…嫌味に思われちゃうかな。ていうか、最悪さっきのメールが私宛じゃなくて……。

ヴヴ…ヴヴッヴ……

『後で話す』

ちょっとだけ、肩の力が抜けた。ごめん、他に女がいて、そっちと今日約束してて……なんて、ちょっとだけ疑った。ごめん。
携帯電話に手を合わせて謝る。
それと同時にうきうきしてきた。単純すぎるな、私も。
ご飯、ちょっとでも食べてくれるかな…温め直しは後でいいか。
……あ!

「ちょ、ファンデ。ファンデ・・・マスカラは落ちてない、と!」

Prrrrrr…

泣いた跡がないことを確認すると同時に、チャイムが鳴る。
慌ててドアフォンで彼と確認。
声が何だか聞き取りにくい上にがさがさと雑音入ってたけど、間違えない。
守れない約束は時間だったんだな、後でちょっとむくれてみよう。
なんて思いながら、玄関でワンクッション。深呼吸。

「いらっっs……」

ドアを開けたら、目の前に花束。
笑顔も笑顔のままで固まっちゃって。

「遅くなってごめん、今日の記念日にプレゼント」

真面目な顔で気障なことを言うあなた。
がさがさの雑音はこれか、なんて変に納得しながら…両手に余るような花束を受け取って。あなたがこれを持って街中を歩いてきたことを想像したら、笑えちゃって。

「ありがとう。花束って、何だか恥ずかしいけど嬉しいね」

まぁ、花は嫌いじゃないし?
香りを楽しもうと顔を埋めようとしたら……鼻先が、何か違うものにあたった。

「……箱?」
「それは!……ぁ、ごめん。俺が開ける」

ひょいっと、小さな箱を摘み上げて私に向けてパカッと開く。
目の前に鎮座する小さな輪っかが何なのか、素直に頭に入ってこない。

「こんな玄関先でなんなんだけどっ。本当は中で開けてもらいたかったんだけどっ」

馬鹿みたいにぽかんと口を開けている私。
真っ赤になって言い続けるあなた。
あぁ……何となく、飲み込めてきたぞっと……
意識したとたん、私も耳まで熱を持つほど赤くなる。

「お…僕と、結婚してくださいっ」

さっきまでの不安も、少し疑ったことも、全部無意味だった。
いじけてた気持ちも、泣いてしまったことも。
いっぱい泣いていた気がしたのに、どんどんどんどん、涙が出てきて。
大声あげて泣いてしまいそうなのを我慢して、花束に顔を埋めて。
本当の馬鹿は私だよって、思いながら。

この人はいつだって突然で。私の都合なんかお構いなし。
いつの日か、とは思っていたけど。それが今日だなんて考えてなかったんだから。
「はい」ってもう少しは言えそうにないけど、ちゃんと言うから。
そんなに慌てていないで、私の涙が止まるまで……待っていて?

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

だから、待ってて?

ルカ姉さん、今日が誕生日なのですね。
おめでとうございます。

イメージ的にルカ姉さんで便乗小説。
前に投稿した詞の女性視点。
独白形式は書いてて楽。読む人にとってはつらいだろうけどw

あぁ、きざい…… ←

閲覧数:74

投稿日:2014/01/30 23:17:01

文字数:2,225文字

カテゴリ:小説

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