そして、大山北大学でも、前期の授業が始まった。ここは大学の教室。教室の前方に立っているのは雅彦。今回は、雅彦の受け持つ授業の初回である。教室は、学生で一杯だった。
 「…さて、今日は僕の授業の一回目だ。本来なら、授業の初回は、その授業の概要を説明するのが相場と決まっているし、すでに僕の授業を受けた学生なら、その流れに沿っていることは知っていると思う。だけど、今日は、その前に、少しここに集まった君たちにやってもらいたいことがある。…といっても、君たちが構える必要は全く無い。単にアンケートに答えてもらうだけだからね」
 いったん言葉を切る雅彦。学生は、興味深げな表情で雅彦を見ている。
 「…昨年度に、僕が刺されてしばらく入院を余儀無くされたことはここにいる学生の多くは知っていると思う。犯人の動機だが、端的にいってしまえば、僕がパラダイムシフトを起こしたことでアンドロイドの体を持つ人間が生まれ、そのグループに虐められたことが原因と聞いたんだ」
 話を始めると、学生は真剣に雅彦の話を聞き始めた。
 「そしてもう一つ、僕が退院してからの話だけど、とある人からコミュニティーに入って欲しいといわれたんだ。そのコミュニティーというのは、アンドロイドの体を持つ人間のコミュニティーで、アンドロイドの体を持つ人間の社会的な地位向上を目指しているらしい。その中心人物から、直々に誘いがあってね。で、その中心人物は、逆にアンドロイドの体を持ったことで、差別を受けていたらしい」
 再び言葉を切る雅彦。
 「この二つの話に共通しているのは、僕が起こしたパラダイムシフトの影響を受けていることだ。僕がパラダイムシフトを起こさなければ、この二つのことはなかっただろう。いわゆる因果応報って奴だね」
 いったん言葉を切り、一口水を飲む雅彦。
 「勘違いして欲しく無いのは、この二つの話があっても、僕はアンドロイドの体を持ったことを全く後悔していない。当時、ミクと添い遂げるにはその選択肢しか考えつかなかったからね。だけど、僕の決断の結果、僕が全く想像していなかったパラダイムシフトが起き、世界は変わってしまった。さっきの話は、このパラダイムシフトの負の側面というべき話だと思っている。だけど、僕の決断で、全ての人が不幸になったとは思っていないんだ。だから、僕は自分の決断がどう思われているか興味を持ってね。君たちに協力してもらおうと思っている。…アンケートでは、君たちには僕の決断を評価してもらいたい」
 いきなりの急展開に驚く学生たち。その学生を見ながら、手元のタブレットを操作する雅彦。
 「…今、君たちの持っている端末に、アンケートを送った。アンケートといっても、質問が一つと自由記述欄が一つの非常に簡単なものだ。設問は、僕が起こしたパラダイムシフトを10段階で評価するものだ。10が最も評価する場合で、1が逆に評価しない、自由記述欄には何を書いても良いけど、できればその評価の理由を書いて欲しい。もちろん未記入でも構わない。そうして、記入が終わったら、回答ボタンを押してくれればアンケートは終了だ」
 アンケートの説明をする雅彦。
 「ただ、君たちの中には、色々な理由で、この問いに答えたくないという学生もいるだろう。その場合は、僕は回答は強要しない。時間切れまで待つか、アンケートに答えずに回答ボタンを押してくれれば良い。もちろん、10段階の評価をせずに自由記述欄に何か書いて送ってもOKだ。以上がアンケートの説明だ。今の説明で理解できなかった人は、挙手して欲しい」
 学生をざっと見る雅彦。誰も挙手しなかった。
 「…最後にこれだけはいっておく。同然だが、今回のアンケートはどのような回答をしてもこの授業の成績その他には一切影響しない。そして、これが重要だが、僕は君たちの本心が聞きたい。だから、自分の思った通りの評価を入れて欲しい。私が刺されたことに同情し、高く評価したり、逆に低くに入れるということだけは避けて欲しい。…アンケートは、自由記述欄に記入する文章を考える時間を考慮して五分設ける。それじゃ、アンケートに答えてくれ」
 そう雅彦がいうと、学生はそれぞれ端末を操作し始めた。自由記述欄に書く文章を考えていると覚しき学生もいる。雅彦はその様子を見て、まるで自分が審判されているように感じた。
 そうして五分たった。アンケートの集計状況を見る雅彦。
 「…みんな、ありがとう。もし、評価を直したい、とか、自由記述欄に書き足りないことがあった、あるいはもっと熟慮した上で評価並びに自由記述欄の内容を書きなおしたいのであれば、今週中であればメールを受け付けるから、僕あてに連絡してくれれば対応するよ。…それじゃ、授業の概要説明に入ろうか」

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初音ミクとパラダイムシフト2 3章28節

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投稿日:2017/02/26 00:09:22

文字数:1,970文字

カテゴリ:小説

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