【お別れの日編】
ある日私は、
部長の部屋に用事があって、お邪魔した。
整然と綺麗に部屋は整理されていた。
でも、何だか入って左奥のコーナーが見えない。
本棚が天井近くまでくらいあって、左奥が隠されている。
いやに気になる。
デスクは真ん前にこちらを向く形で普通に置かれている。
私は、目をいくつかしばたかせて、考えを何度も持ち直した。


あまり、勝手な行動を人様の部屋ですべきではない。
いや人ではないワカメだ。
でも、気になる。
ちょっとくらいいいよ、きっと。
でも、普通に考えて駄目だろう。
でも、ここはあくまでワカメの国以前いた人の世界とは異なるのだ。


私は、この一連の考えを自分がしている事に驚いた。
私は、以前こんな人間ではなかった。
もっと堅い人間だったはず。
他人の、人様の部屋を勝手に詮索するなんて、ありえないとか考えるはずの性格だったのに…。
私、どうしちゃったの?
私はワカメの国に来て、少し融通が利く性格になったのだろうか。
そのとき、ダタンと音がして、私はビクッとした。
下げていた頭をあげて、前を見ると、部長がいた。
そして、ちょっとの間私と目を合わせて例の私の視界の左側へと消えた。
さっきから気になっている、その棚の後ろへ隠れてしまった。
私は?と思った、隠れて、それで?
部長の手が棚の後ろから現れて、手招きした。
私は、おなかの中心をひっぱられるように感じ、そして、のそりのそりと、足を踏み出した。
デスクの右側から回り込んで棚の後ろである所の左奥の角が、視界に入った!
そこには、部長と見覚えの有る光景が有った。

 部長の後ろ側の壁であるはずの所は、穴が開いていて、そうちょうど畳で言うと一畳分の壁がくりぬかれている。
今私がいる位置からすると、そのくりぬかれた壁の左側に本棚があるのだ。
壁の向こう側は、外のようだ。
ただの裏口であるようだ。
「あの部長…」
私は、部長は何も言わず外にでて、階段を降りていってしまった。
「え、」
私は着いていこうと、よく裏口に有り勝ちな、銀色の金属製の板で出来た踊り場へ出た。
そこに広がっていたのは、何だか見慣れた光景だった。
なんなんだろうこの見慣れた光景は、広い土地。
何をする場所?
あ、学校だ。
私がいたのは、私が以前勤めていた学校だった。
部長が階段の下にいて、こちらを見ている。
「早く降りてきなさい」
私はよく分からないまま降りた。
「あのう」
「君はこれで釈放だ。また以前務めていたこの高校へ就職という事だ」
「はい?」
私は今まで逮捕されていたのか?
そのつっこみはいれずに、部長に聞く。
「どういうことですか?」
「では…」と言い、部長は、いつの間にか持っていたのかストップウォッチらしきもののボタンを
ポチっと押した。
すると、風が私の背中を押した。
風は私の体の芯に何か魂を入れて通り過ぎた。
周りの草が揺れ、時間というものが流れ出したのを感じる。
「ハイ、それじゃあ」と言って
部長は私の肩をポンと叩き、階段をタンタンタンタンと軽快にあがっていってしまった。
それで、ドアを…バタン。
そこにあるのは本来横に開くはずのドアだが、洋風のドアがバタンと音をたてて閉まった。
それで、その部分が元の横開きのドアに戻った。
私は、呆然と立ち尽くした。
一体なんなのか…

「もうお昼だし、お昼ご飯を食べよう」と思い、職員室へ向かった。
一瞬の内に私は以前の生活に戻った。
生活の変わり目って結構単純に行われる事が多い。
其れこそ、紙一枚とかで。
高校入試何て本当に其う言うものだ。

 私は以前より少し柔らかい性格になった。
以前の様に仕事をいつも完璧に熟す(こなす)とか考えないで居られる様になった。
ワカメの国での、優しい人情(若布だから「ワカメ情」だけど)に触れる生活は私を本質的に変えた。
夫と緩やかなゆったりとした時間を過ごせる様に成った。
どうしても休む然(べき)時は、休める様になった。
例えば、余りにも疲れているとか夫が今日は仕事に行か無いで欲しいと言って来た時とか。
以前なら大丈夫!と仕事に行ったり、だらし無い!とか思って夫を振り払ったり。
夫は其れに応じて段々と調子が整って来た。
格言う(かくいう)私も調子が良く成って来た。
良く成ると言うより整って来た。

ライセンス

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ワカメの国 第九章 正し過ぎた人 畑広美の物語

彼女はワカメの国を去る。
そして(其仕て)いつもの生活に戻る。
異次元に行く事に寄って、彼女は変わったか?
彼女は以前の様に「恐ろしい迄の正しい生活」に戻って仕舞うのか?
※小説「ワカメの国」は現在「KODANSHA BOX-AIR新人賞」に応募中。
※小説「ワカメの国」は現在「KODANSHA BOX-AIR新人賞」に応募中。
Yahoo!版電子書籍「ワカメの国」は此方
URL:http://blogs.yahoo.co.jp/wakamenokuni
です。

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投稿日:2012/02/14 03:18:17

文字数:1,795文字

カテゴリ:小説

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