「ねぇレン、私を殺して・・・」
リンが俺にまたがりながら、潤んだ瞳で言った。
「分かったよ、リン・・・」
俺はリンの首に手をかけた。



                     第一章 日常


 ここはブルーベリーの栽培が盛んな小さな村だ。
僕たちは親子3人で暮らしている。俺、双子の姉のリン、そしてお母さんだ。お父さんは僕たちが生まれてすぐに死んでしまったらしく顔も覚えていない。
お母さんは普段はブルーベリー農園で働いている。そして、週末になると庭で育てた花を売りに街へと出かけていく。
決して生活は豊かでは無いが、僕たち3人は協力し合いながら何不自由なく暮らしていた。

「それじゃ、2人とも良い子で待ってるのよ」
「はーい!」
土曜日の朝。僕たちにそう言うと、お母さんは出かけていった。
見送りが終わり、俺はキッチンへと向かう。
『さてと、朝食の食器片付けないとな・・・』
そんな事を考えていると『バタバタバタ・・・』と走ってくる足音がする。
「あ、ヤバイ・・・」
俺がそう思った時には、既に手遅れだった。
「レン―――――!!」
リンが勢い良く俺にジャンピングハグをしてきた。
俺はあまりの勢いに受け止めきれず、そのまま後ろに倒れる。
「ぬほぁ―――――!」
「ねぇ、レン!!チュウしよ!チュー!!」
リンが俺の上にまたがりながら、キスをせがんでくる。
「ちょっと、リン!夜まで待てよ!まだ、仕事いっぱい残ってるだろ?」
「えー!イヤだ!今がいーいー!!」
「ダーメ!」
「・・・リンの事、きらい?」
そう言うとリンはうつむいてしまった。
「あーもー!・・・・ほらっ」
俺はリンに軽くキスをする。
「今はこれだけだからな。食器片付けるの手伝って」
「えへへー、ありがと、レン」
そう言うと、リンは俺の上でにっこりと笑った。

僕たちは物心ついた頃からいつも一緒にいた。同じ時に生まれ、同じものを食べ、同じものを見て、同じことを感じながら育ってきた。何をするにもどこに行くにも一緒で、いつも二人で手を繋いでいた。小さい頃はそれで良かったのだが、8歳を過ぎた頃から周りの子供達にからかわれ始め、10歳を過ぎた頃から大人達からも何故か怒られ始めた。だから僕たちは、極力スキンシップを控えた。
そして、12歳になった頃、週末のお母さんが居ないときに僕たちの面倒を見に来てくれていた、隣のテトおばさんが来なくなると、僕たちのフラストレーションは爆発した。一緒にいるのに近づけない時間が、お互いの想いの形を変えてしまっていたのだった。
お金が無くて学校に行っていない僕たちは、お互いが初めての友達で、そして初めての恋人だった。

「リン、今日、どっちが食器洗う?」
「昨日、レンがやってくれたから今日は私がやるね」
「分かった。じゃあ俺は、先に庭の花の手入れしとくな」
「えー!!や――だ――!!せっかく今日、お母さん居ないんだし、一緒にやろうよ!」
「え?でも、狭い台所に二人も居たら逆に邪魔に・・・」
リンが泣きそうな顔をする。こういう時、リンは本気で泣きそうな顔をするから困る。
「ごめん、分かったよ。じゃあ二人でやろう」
「わーい!レン大好き!」
そう言って、笑顔で抱きついてきた。俺はまた倒れそうになったが、今度はちゃんと受け止めた。

俺たちは朝食の片付けを終えると、庭に出て、花たちの手入れを始めた。リンが花たちに水をやる。
「レン、何してるの?」
「お母さんに言って、ここのスペースを貸してもらったんだ。俺も花育てようと思って」
「へー、何植えたの?」
「あ、あぁ・・・えーっと、あれ、そう!黄色いチューリップ!」
「えー、チューリップより、絶対パンジーの方がかわいいよ!黄色のパンジー!」
「い、いいだろ!俺はチューリップの方が好きなの!」
「・・・・うん」
この時、俺は嘘をついた。本当はここに植えてあるのは黄色いパンジーの種で、俺もパンジーの方が好きだった。でも、今は言う訳にはいかない。『リンへの誕生日プレゼントの為に、黄色いパンジーを植えてる』だなんて。

その後僕たちは、一緒に昼食を食べ、手を繋いで昼寝をし、一緒に薪ををわって、一緒に本を読んで、一緒に夕飯を作り、一緒にお風呂に入って、一緒に一つのベッドに入った。
「えへへー、レンのベッド、レンの匂いがするー」
「当たり前だろ、俺のベッドなんだから」
「落ち着くー、えへへっ」
「さ、もう、明かり消すぞ」
「うん」
俺はランプの明かりを消して、リンのいるベッドに入った。
リンがくっついてくる。俺もリンの背中に手をまわし抱きしめる。
「レン、おっきくなった?」
「な、何が?」
「カラダ、ちょっと筋肉ついたんじゃない?」
「そうかな?でも、身長はリンと同じだよ?152。」
「でも、最近レン、大きいよ?今は絶対もっと伸びてるよ。明日測ってみよっか?」
「うん。そうだね」
そう言うとリンが、僕の胸に顔を埋め、ぎゅっと抱きしめてきた。
「リン?」
「・・・私、怖いよ」
リンが震えながら、消え入りそうなか細い声で囁く。
「レン・・・私、怖い。このまま、私たちの違いが大きくなって、いつかは離れなきゃいけないような気がして・・・・」
俺はリンを強く抱きしめて言った。
「リン、大丈夫。僕たちはずっと一緒だよ」
「・・・本当?」
「絶対。約束する」
「へへっ、ありがと」
そう言って僕たちは、キスをして眠った。



                     第2章 別れ


「母さん?どうしたの?具合でも悪いの?」
「ありがとう、レン・・・大丈夫よ。何でもないの。さぁ二人ともこっちへいらっしゃい」
そう言うと、母さんは僕たちを強く抱きしめた。
「?どうしたの?お母さん?」
「何でもないの。ただ、ちょっと、寂しくなっちゃって」
そう言うとお母さんはドアを出ていった。
「・・・それじゃあ、二人とも、いい子でね」
「はーい!」
それが、僕たちが見た、母さんの最後の姿だった。

僕たちは、母さんが街に花を売りに行った後、いつものように、一緒に朝食の片付けをして、一緒に花に水をやり、一緒に昼食を食べ、手を繋いで昼寝をし、一緒に薪を割り、一緒に本を読んで、一緒に夕食を作り、一緒にお風呂に入って、一緒に一つのベッドで眠った。

 しかし、次の日の朝、ノックの音と共に目覚めると、玄関に立っていたのは、お母さんではなく隣のテトおばさんだった。
「あ、テトおばさん、おはようございます。お母さんだったら、まだ・・・」
「レン君・・・もう、あなたたちのお母さんは、戻って来ないわ」
「え?」
「街に行く途中、事故に巻き込まれて、死んでしまったそうよ・・・」
「そんな・・・・」
「・・・四日後の朝、引越しだから。荷物をまとめておいて頂戴ね。一人は、私の家に。もう一人は北の港街にいる、私の親戚の家に」
「・・・え?どういう事ですか?」
「急な話なんだけど、もう決まった事だから。ごめんなさいね・・・」
そう言うと、テトおばさんは申し訳なさそうにうつむいて去っていった。

俺は玄関に立ち尽くした。


「・・・そっかぁ。で、レンはどっちに行くの?」
泣きそうになるのを必死で堪えながら、事情をリンに説明した。でも返ってきたリンの反応は以外なほど冷静なものだった。
「あれ?リン、悲しくないの?」
「そりゃあ、悲しいよ。でも、薄々こうなる事分かってたんだ」
「?」
「私、テトおばさんとお母さんが言い争ってるの聞いちゃったんだ。テトおばさんが『あの子達をほっぽり出して、街で男と暮らすなんて許せるか!』って。そしたらお母さんが『元々は10歳までの約束だったんだから、もう十分でしょ!』って」
「それって・・・」
「お母さんは、私たちの本当のお母さんじゃなかったのよ。だから、事故で死んでなんてない。きっとどこかで、幸せに暮らしているよ」
「・・・・リン」
「レン、お母さんを許してあげよ?そりゃあ、悲しいけど、ここまで私たちを育ててくれたんだし、間違いなくお母さんは私たちのことを愛してくれてた。だから、ね?レン」
「・・・・・うん、わかった。リンがそう言うなら」
「ありがとう、レン」

そして、僕たちは荷造りを始めた。
テトおばさんに言われたとおり、必要最低限の荷物だけをまとめる。残った家財道具や食器は家と一緒に売ってしまって、僕たちの養育費に充てられるらしい。
俺は、庭に植えてあった、芽が出たばかりのパンジーを、鉢に植え替えて持っていく事にした。

そして、あっという間に2日が過ぎた。
3日目、今日がリンとこの家で暮らす最後の日だ。
朝、小鳥のさえずりで目を覚ますと、隣には気持ち良さそうに眠るリンの寝顔。俺は、起こさないようにこっそりとベッドを抜け出して、朝食を作る。作っていると、眠そうにリンが起きてくる。俺が笑顔で「おはよう」と言うと、リンも眠たそうに目をこすりながら「おはよ~」と言う。そして、僕たちはキスをして、朝食を食べる。朝食を食べ終わると、一緒に荷造りを始める。一段落すると、一緒に昼食を食べる。昼食を食べ終わると、手を繋いで昼寝をする。昼寝から起きると、一緒に部屋を掃除する。掃除が終わると、一緒に夕食を食べる。夕食を食べ終わると、一緒にお風呂に入る。そして、お風呂から出て、一緒に一つのベッドに入る。

物が減り、寂しくなったとした部屋の中。腕の中にいるリンの温もりだけが、俺を強くする唯一の希望だった。
「・・・ねぇレン、こうして眠るのも最後だね?」
「・・・うん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ねぇ!レン!お互い、服、脱ごっか!!」
「え?」
「ほら、早く早く♪」
「あ、っちょ、っちょっと?」
俺はあっという間に服を脱がされた。
「わー、レンあったかーい♪」
リンが俺にすり寄ってくる。
「やっぱり、裸はちょっとまずいんじゃないか?」
「いいじゃん。お風呂も一緒に入ってるんだし。生まれる前から一緒なんだから、逆に服着てる方がおかしい位だよ?」
「んー・・・まぁ、そう言われれば、そうなのかな?」
「そうなの!」
僕たちは笑いあった。
「・・・・ねぇ、レン、私たち、どうしてひとつじゃなかったんだろ?」
「ん?」
「・・・私たち、ひとつだったら、ずっと一緒にいられたのに・・・・ひとつだったら、こんなに辛くなかったのに」
そう言うと、リンは僕の胸に顔を押し当てながら、泣き始めた。
「・・・レン、離れたくないよぉ」
「・・・俺だってリンと離れたくないよ」
そう言って、僕たちは強く強く抱きしめあった。涙を流しながら、ひとつになれるように強く強く抱きしめあった。

「ねぇレン、私を殺して・・・」
リンが俺にまたがりながら、潤んだ瞳で言った。
「分かったよ、リン・・・」
俺はリンの首に手をかけた。
「でも、リンの居ない世界で僕は生きていけないから、リンも俺を殺してよ」
リンはゆっくりと、震える手で俺の首に手をかけた。
「じゃあ、せーのでお互いの首を絞めるんだよ?」
リンが頷く。
「じゃあ目を閉じて。いくよ、せーの!」

リンの手は震えたままで、俺の首を絞めてこない。代わりに、俺のお腹に温かい雨が降ってきた。
目を開けると、リンのくしゃくしゃな泣き顔があった。
「・・・レン、どうして?どうして私を殺してくれないの?」
「そう言うリンだって、俺の首絞めてないじゃん?」
俺も大粒の涙に枕を濡らしながら言った。
「できない・・・できないよぉ・・・!」
「俺だって、できないよ・・・」
「バカレン!」
「ごめん・・・」
「大好きだよ」
「俺も大好きだよ」
僕たちはキスをして、強く強く抱き合いながら眠った。明日が来ない事を祈りながら、明日になれば二人がひとつになっていることを願いながら・・・・・。

                  
    『ちょっとヤンデレ・リンレンのちょっといい話』(後編)に続く

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

ちょっとヤンデレ・リンレンのちょっといい話(前編)【オリジナル小説】

みんな、聞いてくれ。僕は確かに3日前、いちゃみね動画を見ながらニヤニヤしていたんだ。そして気がついたら、3日経っていて、この小説を投稿していたんだ!《゜Д゜》

何番煎じか分かりませんが、自分好みの愛の形です。設定とか無視しまくってごめんなさい。内容は至って健全です。
タイトルとかあれだから消されるかなー(・・;)消されたくないなー(・・;)
鏡音は過去を想像すれば想像するだけ好きになる。はぁはぁ(*´д`*)鏡音いいよ鏡音。嗚呼、薄い本が欲しい!(゜Д゜)夜中のテンション、失礼しました。

閲覧数:10,849

投稿日:2011/08/07 00:29:07

文字数:4,998文字

カテゴリ:小説

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