風澤望はアンダーポイントである。

 ひょんなことから一条ひなたと一緒に暮らすことになった。

 + + +

 ある日の夕方。

「ちょっと食べ過ぎちゃったかな? あはは……ん?」

 トイレから出てきた望は、足下に白いものが落ちていることに気づいた。

「なんだろう?」

 彼は、なんの気なしにそれを手に取り、広げてみる。

「こ、これって……」

 バカな望でも、その白くてちっちゃな布切れの正体はすぐにわかった。
 同時に、それがだれの物であるかも理解した。

「……ひなたのパンツ」

 そのとき、ひなたが部屋から出てきた。

「どこかに落としたのかなあ? ねえ、望。あんた、さあ……いや、いいわ」

 そう言うと、ひなたはキョロキョロとあたりを見回した。

「ど、どうしたの? なにか、さがしているの?」
「うん、そうなんだけど……自分で探すから大丈夫よ」

 ひなたはそう言うと、リビングへと向かった。そこに「なにか」をさがしに行ったのだろう。

(まさか……さがしている物ってコレ?)

 望はひなたが部屋から出てきたときに、とっさにポケットへ突っ込んだ右手を出した。
 そこには、力いっぱいパンツを握りしめた自分の手があった。

「リビングにはなさそうね」

 ひなたが戻ってくる。

「どうしたの? なんだか顔色が悪いわよ。体調でも悪いの?」
「いぃ、いやあッ。ぜんぜん、元気だよ。もう、すごい元気で困っちゃうぐらいだよ。あははは」
「そう? それならいいんだけど……もう、どこいっちゃったのかしら?」

 ひなたは、すぐに別の場所をさがし始めた。

(あっぶねえ、もう少しで見つかるところだったッ!)

 望が、ポケットから右手を出す。

「どうしよう? 僕が持っているのがバレたら……」

 望は、ひなたに見つかったときのことを考えると、全身に寒気が走った。
 きっと、見たこともない恐ろしい顔で、彼の息の根を止めにかかるだろう。

(いやだ。死にたくないッ!)

 もちろん、そんなのはごめんだった。
 だから、望は、よくない頭をひねって考えた。

(あ、そうだ!)

 すると、珍しくよい案を思いついた。
 パンツを洗濯機の中に放り込んでおくのだ。そうすれば、ひなたは洗濯の後に、取り忘れたと思ってくれるに違いない。

 さっそく、望は洗濯機のある脱衣所へと向かった。

「うーん、取り忘れってわけじゃないみたいね」
(確認済み、ですか)

 一足遅かった。すでに洗濯機は、ひなたがチェックを終えた後だった。

「本当、どこいっちゃったんだろう? お気に入りだったのに……そこ、ジャマよ。どいてくれる?」
(ど、どうすればいいんだ?)

 望は、もう一度、考えてみた。またよい案を思いつくかもしれなかったからだ。
 だが、この状況を打破する方法は、思いつかなかった。

 (いや、必ずあるはずだ。この窮地を乗り切るための方法がッ。諦めちゃだめだッ!)

 額に手を当てて、もう一度、考える。

(あッ、そうだッ!!)

 思いついた。この方法なら、ひなたに知られることなく彼女のパンツを返すことができる。
 むしろ望は、今までコレの存在を忘れていた自分に驚いたくらいだ。

(た だ、コレを使って返すってことは、無断で部屋に入ることになるんだよね。絶対に部屋には入らないって、引っ越してきた日に約束したんだけど……それを破る ことになっちゃう。でも、これは仕方がないよね。部屋を覗くために入るんじゃなくて、パンツを返すためなんだ。サッと入って、タンスにしまって、サッと帰 る。他の物は見ない。絶対……誓うよ)

 望は自分の能力を使って、パンツを返却することを決心した。
 そのとき……。

「望、さっきから気になってたんだけど……」

 ひなたが、望に声をかけてきた。

「その右手に握られているものは、なにかな? ちょっと見せてもらえる?」
「え?」

 彼の右手は、ポケットの中ではなく――自分の額に当てられていた。

「大丈夫。あたし、怒らないから」

 ひなたが、優しげな笑みを望に向けた。まるで天使のような慈愛に満ちた表情だ。
 だが、その手には、いくたの違反者を血祭りに上げた無骨な警棒が握られている。

「……さあ、望。見せて、ね?」
「ひ、ひなたさん?」

 + + +

 風澤望はアンダーポイントである。
 同居人の一条ひなたは、周囲から恐れられている執行部のエースだ。

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+Cな日々 Day2 (純白の悲劇)

閲覧数:102

投稿日:2013/10/10 21:34:39

文字数:1,862文字

カテゴリ:小説

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