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年長組の明快な置換 【後編】

【年長組の明快な置換】後編       2人の仕事が終わる頃には、夜も更けて月が出ていました。  結局今日はずっと女の子のままだったカイコさんが、挨拶してスタジオを出ます。  「お疲れさまでしたー」 「はい、お疲れー」 「カイコちゃん、おつかれー」  男性諸氏の何人かは、明らかに緩んだ顔をしています。 「……あのさ。カイコって可愛いよな」 「…………だな。まさかああまでハマるとは思わなんだ」 「ていうか、ヘタレでバカって、女子だとまんま萌え要素だしな」 「最近……見てるとマジやばいんだけど。俺って変態?」 「安心しろ、お前のは元からだ。……って、あれ?」 「ん? どーした」 「あそこにいる、あの茶髪。あれ、メイトじゃねぇ?」   「ごめん」 「…………いいえ。私がバカなんです。  わかってるのに。言わずにいられなくて……あはっ」 「……ごめん」 「メイトさん、謝らないでください!  私は……今までどおり、メイコも、メイトも、大好きですから!」 「…………ありがとう」   「……聞いた?」 「聞いたっていうか、珍しい事態でもないだろ。  昨日も似たような、っていうか、全く同じ状況を見たぞ」 「うそ、マジで?」 「メイコも、女性ファンが多いからなー。  理想の男性像がマジで野郎になった、なんて、夢のようなんじゃねぇ?」 「……じゃ、俺もカイコに告白してくる!」 「いやお前の場合は速攻で留置所行きだから」     「……………はぁ」  メイトさんは哀愁ただよう溜息をつきました。  終電間近の駅のホームは、閑散としています。  ホームの屋根に区切られて、細長く見える夜空を眺めながら、メイトさんは昨日と今日の告白のことを考えていました。 「……本気、だったんだろうな」  断った瞬間、目に浮かべた涙に、心が動かなかったと言えば嘘になります。  それでも、断る以外の選択肢はありません。  責任の持てないことは言わないししない。それが彼女のジャスティスです。今は彼ですが。  ふと、真っ赤な携帯を開き、ちょっとしたメールを送信します。 「……起きてるかな」  言った顔は、どこか儚い笑みを浮かべていました。    ちゃーちゃらっちゃっ、ちゃっちゃっちゃ~  ちゃーちゃらっちゃっ、ちゃっちゃっちゃ~  ちゃーちゃらっちゃっ、ちゃっちゃっちゃ~  ららら~ ららら~    あたりに、思わず「朝、目が覚めてっ、真っ先にぃ」と歌い始めてしまいそうなイントロが流れました。  乙女ティックな選曲は、メイトさんの着メロではありません。  メイトさんは驚いて振り向きます。そこに居たのは。 「……え」  ベンチの上で、黒いボレロにリボンをつけた、ふわふわスカートの少女が寝息をたてていました。  あどけない、無邪気極まりない寝顔は、逆に何かの罠かと疑いたくなるほど清純さを醸し出しています。 「…………カイコ?」  近寄っても、起きる気配はありません。  メイトさんは思わず、辺りを見回しました。誰もいません。 「………………」  じっ、とその顔を眺めます。  触れてはいけないものを見ているような気分で、少女の前に立ちました。  それでも、誘惑に負けて差し出した手は、触れるか触れないかの位置でぴたりと止まります。  彼は、差し出した手を握り締め、引き戻しました。  隣に座って、空を眺めます。けれどちっとも集中できず、気がつくとカイコさんの無垢な寝顔を眺めていました。    カイコさんは夢を見ていました。  よくあるタイプの妄想のように、バージンロードの上を、好きな女の子が歩いてくるのが見える、そのままの夢を見ていました。  花嫁姿のメイコさんが酷く麗しく、またたいそう可愛らしいので、カイトさんは嬉しくて死にそうなのを必死に押し隠しつつメイコさんを待ちました。  夢の外ではカイコさんな彼も、今は立派な『カイト』として出来るだけ平常心を保ち、毅然と、メイコさんの手を取ろうとしました。  その瞬間。  メイコさんの横に付いて歩いてきた青年が、にっこり笑いました。  それは、メイトさんでした。  はっ、と嫌な予感がしたカイトさんは、自分の姿をもう一度よく見てみました。  足元に、白い柔らかな布の裾がふわりと広がっています。  今や、カイトさんはカイコさんの姿になっていて、純白の花嫁衣裳を着ていました。 「よし、行くぜカイコ」 「え」  愕然とするカイコさんの腕を掴んで、メイトさんは教会の外へ走り出しました。 「え、え、え、え」  状況に流されながら、振り向きます。  名残惜しそうな様子など微塵もないメイコさんが、笑顔で手を振っています。 「えぇえええええ!? め、めーちゃ・・・めーちゃーーーーん!!」  差し出した自分の手は、小さな小さなカイコさんの手で――    ばちっ、と目を開くと、誰かの顔が見えました。  ぼやけて輪郭がつかめませんが、それが良く知った誰かであるとはすぐに気付きました。 「……めーちゃん」  言って、手を伸ばします。すぐにその手が取られ、その人はにっこりと笑いました。 「おはよう、カイコちゃん」 「…………え」  低い声に名前を呼ばれ、カイコさんは驚いて我に返りました。 「め、め、め、メイトっ!?」 「お。初めて呼び捨てにしたな」  にやにやと笑う顔を見て、カイコさんの顔は、頬が焦げる音をたてるほど赤くなってしいました。  今朝の痴漢事件のことまで思い出してしまい、照れすぎて目が潤んできます。  物も言えないほど照れているカイコさんを見て、メイトさんは微笑みました。  ぽん、ぽん。  つい軽く、その青い髪の頭を撫でてしまい――撫でてしまってから、あ、触ってしまったと思いました。  さっきはあんなに我慢したのに――と苦笑していると、 「こ、子供扱いしないで!」  カイコが抗議します。 「子供だろう」 「い、今は子供だけど――ず、ずるいよめーちゃん! 自分ばっかり大きいからって!」  めーちゃんが少年になったら子供扱いしてやるんだから、とカイコさんは息巻きました。 「いや、問題をよけい大きくしてどうするよ」  メイトさんのツッコミも聞こえない様子で、カイコさんはめーくん来い、めーくん来いと呟いています。  カイコさんの頭を、メイトさんはもう一度ぐりぐりと撫でました。 「お前もなー。もう少し警戒心を持てよ。こんなところで1人で寝てたら、襲ってくれって言ってるようなもんだぞ」  今朝の痴漢をまた思い出して「ぴゃっ」と叫んだカイコさんは辺りを見回しました。  終電前にしては人影も少なく、2人以外に人影はありませんでしたが、カイコさんは、見慣れた駅のホームがなんだかとても怖く感じました。  けれどぎゅっと両手を握りしめ、メイコの琥珀色した瞳をにらみつけます。 「お、女の子の生活なんて、慣れてないんだから仕方ないじゃないか!」 「慣れろとは言ってない。せめて自覚しろよな、カイコちゃん」  それを聞いて、カイコの可愛い眉がぎゅっと寄せられました。  「……めーちゃんだって……自覚した方が、いいよ!」 「え?」  こわばった口調でそう言われて、メイトさんは撫でていた手を下ろしました。  カイコさんはスカートの裾を握り締めて、言いました。 「今日も、昨日も、告白されて!」 「…………」 「めーちゃんは、分け隔てなく優しくて、だから……好きだって、女の子も、多いんだから!」 「……え、まさか……焼きもち?」  メイトさんはびっくりして、思わず笑ってしまいました。  だって告白してくるのは女の子で、メイトさんの正体は紛れも無くメイコなのです。  断るのは当たり前だとしかメイトさんは思っていませんでした。  その笑顔に、これ以上ないくらい顔を赤くしながら、カイコさんは怒りました。  泣き出しそうなくらい瞳を潤ませて、小さく叫びます。 「焼きもちだよ!」  真剣な様子に、メイトは言葉を失ってしまいました。 「……私が。……俺が。好きだ、って知ってて。何で、そんな……そんなこと、言う」 「…………泣くなよ」 「まだ泣いてないっ」  強情な顔でにらんでくるカイコさんを見て、メイトさんは何か考えていましたが、 「……カイコ」  名前を呼んで、両手を差し出します。  それを見て、カイコさんの手がスカートから離れ、メイトさんの背中を抱きしめました。  カイトさんも、外見が男だった時は、こんな場所で堂々と甘えたりはしませんでした。  メイコさんも、カイトさんが男の時は、こんな風に甘えさせたりはしなかったのですが。  これは悪い影響だと自分に言い聞かせながら、メイトさんは優しくカイコさんの頭を撫でます。 「あのね、カイコ。焼きもちなんか焼かなくていいんだよ。わかってるだろう?」 「……うん」 「こんなこと、他の誰かにするわけないだろ?」 「……うん」  カイコさんは不思議に思っていました。  さっきまでは我慢できた涙が、今ごろぽろぽろと零れてきたのです。  メイトの服が濡れてしまうので、顔を離そうとしたのですが、その頭を後ろからぐいと押し付けられました。 「……め、めーちゃん」 「いいから」  メイトさんのみぞおちがおでこに当たります。カイコさんはどきどきして来ました。 「……う、うん」  メイトさんは冷静な顔を保ちつつも、心中は穏やかではありませんでした。  本当は、カイコさんに、男なら泣き顔を見せるなと言ってやるつもりでした。  けれど、それは言えなかったし――それが本心と違うということにも、元から正直な性格のメイコは気付いていました。  本当は、ぼろ泣きのカイコさんの顔を、とても見たかったのです。  それは――かなり本能的な意味で。差し支えない程度に例えるなら、送り狼的な意味で。  これはひどい。  メイトさんは自分にそういうタグをつけました。  気を逸らすために、あえて明るい声で話し出します。 「それに――それなら、俺も言わせてもらうけど」 「…………?」 「『カイコちゃん』だって、野郎どもに人気があるんだぜ」 「……え。そんな、こと……ないよ?」 「あるんだよ」  カイコさんの自覚のなさに、メイトさんは苦笑しました。  そもそも、スタッフは女性より男性の方がずっと多いのです。  その一部がじろじろとカイコさんを眺め回しているのを見たときの心情など、言葉では言い尽くせません。  拳でなら語れるかもしれませんが。 「自分のことは棚に上げて、俺のことばかり責めないでくれ」  カイコさんが、言い返そうと顔を上げると、見えたのは意外な、寂しそうに曇った瞳でした。  いつもの強い意志の篭った、まっすぐな目とは違う、深い憂いが見えるような目でした。  どきり、とカイコさんの胸が鳴りました。  女の子の自分がどきりとしたのか、男の子の自分がどきりとしたのかはわかりません。  けれど、カイコさんは何かに気がついて、ぎゅっ、とメイトさんの背中を抱いて、 「ごめんなさい」  意外なほど素直に謝りました。  そしてまた、自分の頭を力いっぱいその胸に押し付けて、メイトさんから見えないように隠しました。  メイトさんはふと笑って、その愛らしい頭を優しく、優しく、何度も撫でました。  カイコさんは泣きたい気持ちでした。  ――あんな風に寂しそうなメイコを、今の自分は抱きしめて支えてあげることができない。  それどころか、ただ甘えて、我がままを言って、困らせることしかできない。  それが心の底から悔しかったのです。  カイコさんは――カイトさんは、涙をこらえました。  ぎゅっと歯を食いしばって、涙をこらえました。  メイトさんは何も気付かず、ただ、その小さな頭を撫でていました。  終電は、数分遅れて、ホームに滑り込んできました。  明日からも、2人の非日常は続きそうです。     【おわり】

最後まで読んでいただきありがとうございました!
 
メイカイってこういうことじゃないんだろうな、たぶん。
カイトさんて乙女なキャラが似合いますよね。なぜだか。
投稿日時 : 2010/05/07 04:13

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