年長組の明快な置換 【前編】

投稿日:2010/05/07 04:03:57 | 文字数:2,544文字 | 閲覧数:334 | カテゴリ:小説

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読んでくださった方、ありがとうございます。
よろしければ、後編まで読んでいただけると嬉しいです。
 
KAITOの扱いが酷くてすみません・・・

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TEXT
 

 注)
 カップリングものです。
 MEIKOがメイコだったりメイトだったりします。
 KAITOがカイトだったりカイコだったりします。
 

【年長組の明快な置換】前編
 
 
 満員電車です。
「あっ……」
 今まさに、痴漢が犯行に及びました。
 被害者のカイコさんは顔を赤らめて俯きます。
 脅えきってしまい、声も出せません。
(ど……どうしよう)
 車内は満員で、痴漢が誰かもわかりません。
 間違えて、別の誰かを捕まえてしまったら、ことがことです。
 とてもそんなことはできません。
 カイコさんが考えている間に、痴漢は調子に乗って、スカートを捲ろうとしました。
 びくっ、とカイコさんが震えた時、
「おい」
 背後で、男の低い声がささやきました。カイコさんは身を固くしました。
「それ以上、その子に触ってみろ。人生終了させるぞ」
 声と同時に、ぴたり、と痴漢の手が止まりました。
 慌てて、手を引っ込めたのが気配でわかります。
 カイコさんはおそるおそる顔を上げます。
(…………あ)
 外はトンネルです。車内の光を反射して、鏡のように映る窓に、見慣れた顔が映っていました。
(……めーちゃん)
 ほっとして笑うと、メイトさんが微笑み返しました。
 それがとても気恥ずかしくて、カイコさんはまた俯きました。
 
 電車を降りると、階段の前でメイトさんが待っていました。
「めーちゃん」
「おう」
 改札へ向かって歩きながら、メイトさんとカイコさんは話します。
「災難だったな」
「うん……びっくりしました」
「次は自分で何とかしろよ。せめて大声でも出さなきゃ、誰も助けようがないんだぜ」
「はい……」
 でも、言われただけで、それができれば苦労はしません。
 きっともう一度同じ目にあっても、恐怖心が勝ります。
 まして、今のカイコさんは――小さな女の子なのですから。
 カイコさんの声が沈んだのを聞いて、メイトさんは溜息をつきました。
「せめて『この状態』が直ればな……」
 ぽつん、と呟いたメイトさんの声に、カイコさんが顔を上げました。
「逆だったら何の問題もないんだがなぁ」
「だ、ダメです! めーちゃんが痴漢にあうなんて・・・ダメ、ぜったい!」
「・・・いや、『メイコ』なら、痴漢どころか武装強盗でも捕まえて感謝状のひとつも貰うだろうよ」
 呆れた顔で呟くメイトさんと対照的に、カイコさんは嬉しそうに笑いました。
「そういうところが、めーちゃんのカッコイイところです」
「お前、もう少し女を見る目を磨いた方がいいぞ」
 ちぐはぐな会話を交わしながら、2人は改札を出て――
 
 瞬間、駅前の雑踏の中で、赤と青の光が交差しました。
 
 おかしいのは、誰もその光景を気に留めないところです。
 時計の針がカチリと動く間ほどの間に、その現象は終わりましたが、すれ違う誰もが、その不可思議な現象に気がつかないのでした。
 
「…………」
「…………」
 『メイコ』と『カイト』に戻った2人は、顔を見合わせて曖昧に笑います。
「……おはよう、めーちゃん」
「おはよう、カイト」
 そして、また同じ方向へ歩き出しました。
 
 メイコとカイトの性別が時々入れ替わるようになったのは、ここ最近。鏡音の双子による陰謀説であるとか、ミクが怪しげなネギをアイスに混ぜただとか、さまざまな説が流れました。
 しかしどれも根拠に乏しく、原因はわからず終い。そして周囲が騒いでいる間に、当の2人が状況に慣れてしまって、早くも2週間がたとうとしています。

 しかし、2人には、流されるわけにもいかない大きな問題が残されていました。
 
 
 控え室。
 メイコが携帯電話のカレンダーを見ていました。
 マイクのアイコンがつけられた日付が、メイコの目にはひときわ目立って見えました。
「ライブ……近付いてきたわね」
「あと、2週間だね」
 軽い音合わせの後で、2人は向かい合って話していました。
 今日の収録は順調です。2人がまだ、入れ替わっていないからです。
 男声パートと女声パート。例え性別が入れ替わっても、そこはボーカロイド。声の高低差でカバーできます・・・と、言いたいところですが。
 2人は、納得のいく出来には遠いと感じていました。
 もし入れ替わった場合は、2人のパートは性別と同じに入れ替えることにしようと、結論は出ていました。
 
 が。
 
 それでも問題は残ります。ソロです。
 メイコとカイトのイメージに合わせて作られた歌詞は、とうぜん、メイトとカイコに合うように作られてはいません。
 歌い手と歌詞のイメージが、ギャップという言葉で済ましきれないほど逆らったものになってしまうのです。
 例えば、そう。メイコさんがアイスの歌を歌うようなものです。
 それを喜ぶのは世界広しといえど、青い髪のアイスバカだけでしょう。

「最悪、本番が乗り切れればいいんだけど……難しそうね?」
「そうだね。せめて、いつ来るのかわかればいいんだけど」
「最近、入れ替わってる時間が長いような気がするのよ」
「……それ、俺も考えてたよ」
「…………」
「…………」
 2人は顔を見合わせて、苦笑しながら溜息をつきました。
「……ま、悩んでばかりいても仕方ない、か」
「そうだね。きっとなんとかなるよ」
 笑いあった、その一瞬。
 
 彼らの構成が瞬き、ぶれて被り、クロスしました。
 
 彼らは目を見合わせて、瞬きをひとつしました。
 何が起こったのかわからない間に、控え室のドアが開き、
「メイコさーん! カイトさーん! 来て下さ……」
 呼びに来たアシスタントが、2人を見るなり、腰につけた無線を取りました。
「あー。プロデューサー? メインのジェンダーが交代しました」
「――ジェンダー交代、了解」
 例え2人に予期しない事態が起きても、スタッフは一切動じませんでした。彼らは仕事人です。一度やると決めたライブは、どんな不都合があっても完遂する。それが彼らの生き様です。
 そして、カイコさんとメイトさんはそれぞれの歌を練習するため、別れて仕事へ向かいました。
 
 
【後編へ続く】

(プロフィールはありません)

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