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  • 日枝学

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イチオシ作品

【二次創作】植物園

 あの鉄柵の向こう、淀んだ沼の底には、誰かが沈んでいる。  僕は誰に言われたわけでもないのに、そう信じ込んでいた。別に、死んだ人を知るわけでもないし、そういった噂を聞いたわけでもない。鈍色に輝く沼の底は魚の影さえ見えず、勿論死体の気配もありはしない。明け方、時折靄で霞むその沼に対して僕が抱く、漠然とした予感には何の根拠もない。  でも僕は、とにかく、なんとなく、そう思っていた。  そもそも、この植物園は訪れる人すらいない。仕様のない事だ。植物園とは名ばかりで、色とりどりの花や、眩いまでの緑はここにはない。ここにあるのは、しおれてかさかさと寂しげな音を立てる草花と、葉を落として後は干からびるのを待つばかりの裸の木々と、件の浅いのか深いのかさえ判断のつかぬ赤茶色の沼。そして、沼に錆を注ぎ続けている鉄の柵と、朽ちかけた東屋に、椅子、百葉箱。そして、所々割れ綻びて、斑な空を覗かせる円形のガラスの天蓋…本当に、ただそれだけしかない。  僕は、時々想像する。ここが美しかった日々の事を。草木は青々と茂り、様々な花が咲き乱れ、透明な水が沼を満たしていた頃の事を。その水の底に――僕は、訳もなく誰かが眠る姿を、思う。  君にその話をすると、決まって「夢でもみたんじゃないのか」と笑う。誰かが死ぬ夢、あるいは、誰かを沼に沈める夢――誰かを、殺した夢。ぞっとしない話だ。やめてくれよと笑えば、「では気のせいだろう」とまた君は笑う。君が言うのならば、やはり気のせいなのだろう。気のせいならば、僕は何故そんな予感を抱いているのだろう。そして、思考は堂々巡りを始める。僕は何故、そう思うのか。沼に沈むのは、誰なのか。  僕のこの植物園での仕事は、とても簡単なものだ。朽ちかけた東屋の横に、同じように朽ちかけた百葉箱がある。毎日毎日定刻に、僕はその百葉箱を開けて記録をとる。日時、温度、湿度、僕の知らない多くの単位。僕は頭があまりよくないので、最初の3つ以外のものはよくわからない。僕はただそれを記録する。意味を理解するのは君だ。「こんな簡単な仕事は君一人で十分だろう」そう言えば、君はいつも笑う。「一人では寂しいだろう」「誰が」「僕も、君もさ」――そうだ。この植物園には誰もいない。確かに君がいなければ、僕は寂しくて堪らないだろう。では、僕は誰があの沼の底に沈んでいると思っているのだろう。僕の気のせいだとしても。  僕は気がつけばいつもあの沼を眺めている。君はそんな僕を見て「いつも飽きぬものだ」と笑う。だって仕様がないじゃないか。僕は仕事意外にすべきことがない。朽ちた植物園をただただ散策するしか、その退屈を紛らわす術を思いつかない。君はそんな僕を面白そうに眺めると、色んな話をしてくれる。身分違いの恋をした姫と騎士の話、残忍な王様を千の夜のおとぎ話で宥めた物語。風車に闘いを挑んだ勇敢な騎士の話。君は僕の知らない事を何でも知っていた。僕は君の話す物語の中でも、とりわけピノキオが好きだった。切り株から生まれた人形が、様々な冒険を経て、人間になる話。何度もその話をせがむ僕に、君は不思議そうに笑う。「君はその話が好きだね。どうしてだい?」――さぁ。どうしてだろう。嘘つきな少年の鼻が伸びる様子が可笑しいのでも、人間になれた彼を祝福したいのでもない。僕はただ、好きなのだ。あの木偶の少年と、その少年を本当の息子のように愛するおじいさんの話が。だってまるで…まるで何だというのだ。僕は全てを知る君の目を見る。君の目はこの濁った色ばかりの植物園の中で唯一、冴え冴えと青い。 「どうしたんだい」君は笑う。  僕は君の笑顔以外を知らない。  何でも知っている君に、僕は色んな事を尋ねる。この枯れ果てた草の名。あの百葉箱の中身。今朝夢の中で見た鳥の名。君は全てに答える。僕の夢の中の事にすら。僕は思う。もしかしたら、あの棺の中――沼の底に沈むのは、僕自身なのではないかと。僕はあの棺の中の誰かを模した木偶人形で、君は僕の創造主なのではないかと。寂しい、と君は言った。こんな寂れた植物園で一人生きるのは寂しいから、君は僕を創った。その青い瞳で、僕を慈しむ。僕が君にそう尋ねれば、君は笑う。「君がピノキオ?僕がおじいさん?じゃあここは、さしずめクジラの胃の中かな」「違うのかい?」「違うさ。僕がどうして君を創るなんて、そんな神様みたいな事ができるんだい」では違うのだろう。君は嘘を言わない。「じゃああの沼の底には誰がいるんだい」「誰もいないさ」では違うのだろう。君は嘘を言わない。君が嘘を言わない事を知っているのに、僕は沼の底に沈む棺を信じている。ああなんて可笑しな事態だ!君は嘘をつかないのに。僕はまるで根拠のない事を信じている!これが矛盾というものなのだろう。僕はまるで頭の中が右から、あるいは左から、てんでばらばらな方向にひっぱられるような心地がして、身を屈めた。「大丈夫かい」君の声がする。笑っているのかもわからない。 「疲れたんだね。休むといい」――瞼を閉じる瞬間、僕は何かが軋む音を聞いた。それは、あの鉄錆た柵が発する音に、良く似ていた。  僕は、夢を見た。この植物園が美しかった頃の夢。君の瞳色の空に、鳥が羽ばたいていた。草木は青々と茂り、様々な花が咲き乱れ、透明な水が沼を満たし、その水の底に、確かに、白い棺を見た。  早朝の沼は、霞が立ちこめていたが、いつもと変わらず鈍色の水面にはさざ波一つ立っていなかった。けれど、確かにそこに水は湛えられていて、覗きこめば沈んだ落ち葉が幾重にも重なっているのが見えた。「今日は早いね」君は笑う。僕は君に告げなければならない。夢で見た事を。あるいは、僕の夢さえ知る君には、もう伝わってしまっているのだろうか。「僕は思い出してしまったよ」「何を?」「やっぱり、この沼の底には棺があるんだ――僕らの創造主。僕らのおじいさん」君は痛ましげに笑う。「僕も君も、木偶人形なんだ」僕は夢を見た。けれどそれは夢ではない。僕の瞼の裏で再生された遥か過去の出来事だ。僕は上を見た。空ばかりは青々と変わらない。見たことのない鳥の群れがドームの向こうで羽ばたいている。全てを知る君もあの鳥の名は知らないだろう。だって、あの鳥は君が全てを知った後に生まれた鳥だ。君が知る世界は、もうこの植物園の中にしかない。あの草の名も、物語も、君と僕と、この中でしか意味を持たない。この荒れ果てて、寂れた鯨の胃の中が、僕らの世界だ。ああ何故僕は忘れていたのか!あの百葉箱の中身。あれは棺の扉を開ける目覚ましだ。 「忘れていたかったのさ」君は寂しげに笑う。 「だって、一人は寂しいだろう――君も、僕も」  何を言うのだ。僕には君が、君には僕がいてくれたではないか。  僕は君の青い瞳を見る。ガラス玉のようなその瞳には、目の前の景色が映し出されている。朝もやの中の、鈍色の沼。――だけど、それだけ。  僕は君の笑顔しか知らない。僕は僕の顔を知らない。僕は僕の名を知らない。僕は君の名を知らない。僕は。    僕は夢を見た。白い棺を見送る夢。淀んだ沼の中に、一人ぼっちでそれを沈める夢。6億年後にその蓋を開ける約束をした夢。途方もない、とりとめもない夢だ。そう告げれば、君は笑う。「不思議な夢を見たね」「6億年だなんて、気が遠くなる」「何、案外すぐかもしれない。何度も何度も、それこそ擦り切れたレコードを再生し続ける様にしていれば、いつか6億年経つさ」君は笑う。それは理屈の上ではそうだろうと、僕も笑う。 あの、鉄柵の向こう、淀んだ沼の底には、誰かが沈んでいる。―――僕は、知っている。そんな気がする。 言えば、君は笑うだろうが。

宮沢もよよさんの「植物園」がもう大好きで、エンドレスリピートしていたら、ものすごく創作意欲が高まってしまい、気がつけばこの話を思いついていました。大変おこがましいのですが、他にタイトルがつけられず、元曲のタイトルをそのまま使用させていただいております。
素敵な元曲様はこちら→http://www.nicovideo.jp/watch/sm18340037

曲をそのままお話にするのがはじめてのことなので、どういう風に投稿していいのかわからず…右も左もわかりません。失礼があったら申し訳ないです…。
素晴らしい原曲のイメージを壊す、あるいは曲のイメージを限定してしまうということであれば、下げさせていただきます。

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投稿日時 : 2013/01/18 01:13

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