タグ「GUMI」のついた投稿作品一覧(23)
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それは、まだぐみがここに来て間もない頃の話だ。
小岩井家には沢山のボーカロイドが既に存在していた。主流のメーカーの者たちはひとそろい。それだけでなく、自分と同じメーカーのがくっぽいどまでいた。沢山のボーカロイド。沢山の歌う事が出来る存在。その中で、ぐみは自分が埋没してしまうような不安があった。
...ヒーロー・7
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「カイトさんの誕生日会の準備、本人にばれてないです。あと、女子陣のチョコの準備ですが、残念ながら結子さんはチョコづくりは失敗したそうです。」
結子さんのチョコはどうやっても固まらなかったそうです、とメイコから聞いた言葉をぐみが告げると、御苦労さま。と画面の向こうでマスターが微笑んだ。
夕ご飯の後。...ヒーロー・6
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「だけどさ、あげはちゃん。ガリ勉君はあげはちゃんのために喧嘩までしたんでしょ?私的にはお兄さんよりもガリ勉君の方がヒーローになるけどな。」
ミクが胸の前で乙女な様子で手を組みながらそう言った。その言葉に、確かに。とリンも横で頷いた。
普段、意地悪だった子がいざとなったら身体を張って助けてくれる、と...ヒーロー・5
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じゃあ結子さんはいまチョコを作っているんだね。なんて事を、画面の向こう側であげはが市販のチョコを紙袋の中に詰めながら言った。
「うん。上手にできるかどうかは心配な感じだけど。」
そうぐみがチョコを包みながら言うと、横で同じようにチョコにリボンを掛けていたミクが、メーちゃんがついていれば大丈夫だよ。...ヒーロー・4
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結子さんは素直で正直な人ではあるんだけど。ちょっと鈍感な所もある。折角ときめきの切欠があちこちに転がっているのだ。些細な事でも、きゃー、とか、わー、とかなっておくべきなんじゃないかな。
なんて事を考えるぐみの横で、でも手作りならばひとつだけ特別にできるじゃないですか。とルカが言った。
「例えば、...ヒーロー・3
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「ええと結子さん。そもそも何でチョコを直火にかけたんですか?」
メイコが微かに眉をひそめてそう問い掛けた。その言葉に、だって、と結子は傍らに置いていた、チョコの作り方をプリントアウトした紙を広げた。
「細かく刻んだチョコを火にかけて温めて、温まったら生クリームの入ったボールに入れてください。って書い...ヒーロー・2
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※この話はいっこ前に投稿した「雨宿り」と関連のある話です。
これだけだと、少し?な部分もあったりします。
それでも良いよ。読んだ事あるよ。という方はどうぞ。
―凪いだ水面にリズムの弾丸が地に落ちる。爆発し空気を払いのけ、世界を真空にする。
ななめ横からまるで襲い掛かるようにざりざりと電気の通った弦...Master・ヒーロー・1
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謝られているのに笑ってしまうなんて不謹慎だ。そう思いながらも笑顔になってしまうのが止められず、三村は口の辺りを手のひらで覆った。そんな三村の様子をちらりと伺うように見て、結子は口を開いた。
「あの、変に色々と考えてしまうのは、私のうぬぼれかもしれないんだけど。」
申し訳なさそうに言う結子の言葉に、...雨宿り・16
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それにしても本当に、なんて偶然だろう。と笑いながら三村は近寄って、こんばんは、とその華奢な肩を叩いた。ぼんやりしていたのだろう。結子がびくりと肩を震わせて三村に視線を向けた。
「こんばんは。」
声をかけてきたのが三村である事にも驚いたのかもしれない。目を丸くして少し裏返った声で返事をして、まじまじ...雨宿り・15
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偶然なんか、簡単に起こらない事を知っているから。
偶然に触れ合った手は、離れてしまえば簡単にどこかに行ってしまうと思ったから。
些細なちょっと嬉しい出来事なんか、日常の中に簡単に飲み込まれて見失ってしまうから。
だから無理やりでも繋がりを作ろうと、焦って手を伸ばした。
何も育っていないのに...雨宿り・14
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「さあどうでしょう。焦ると冷静な判断が出来ませんから。あまり良い結果が得られない場合もありますし。」
三村の言葉に、それもそうね。と老女はあっさりと返事をした。そして少し人の悪い笑みを浮かべてきた。
「ところで、お兄さんが焦っているのには、やっぱり可愛らしい女の子が絡んでいるのかしら?」
若い女の子...雨宿り・13
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夕方から雪が降る、なんて天気予報で言っていたような気がするけれど。見上げた空はうっすらと雲が掛ってはいたけれど穏やかな淡い日差しで満たされていて、どこにも冷たい欠片の気配などない。冷たい風が吹いているわけでもなく、それほど寒いわけでもなく。だけど少し、切なく。いい加減にそろそろ家に帰ろう。そう思い...
雨宿り・12
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偶然というものはそう簡単には起こらないから、偶然と言うのだろう。
チョコを欲しいと結子に強請ったけれど、そもそもの話、バレンタイン当日に会う約束はしなかった。当然の帰結として、再び偶然が起こらないかぎり会う事もない。連絡先も知らないから、メールでやり取り、なんて事も出来ない。
当たり前の事。
...雨宿り・11
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何かを感じる理由は無い。だって結子と自分の間には大したつながりなど無いのだから。ただの知り合いで、それだけなのだから。
だけど。
三村の頭の中に、つい先日、業務連絡にやって来たぐみと交わした会話がふと、浮かび上がった。三村が携わった楽曲の動画に使う絵のデータを持ってきてくれたぐみが、世間話つい...雨宿り・10
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「ところで、チョコ、手作りするんですか?」
そう結子が持っている雑誌に視線を向けて三村が言うと、まあ、うん。と煮え切らない調子で結子は頷いた。
それは表紙に特集☆バレンタインと書かれているお菓子作りの雑誌だった。バレンタインチョコを手作りするのか。好きな人がいるんだな。と三村が思っていると、結子は...雨宿り・9
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やり残した事。
そんな事を考えながら三村は帰り路を歩いた。地元の駅に降り立ち、そう言えば漫画の新刊を買うの、忘れていた。と少し遠回りをして本屋に立ち寄る。目的の漫画は目立つところに平積みになっていたので、手に取り、ついでに何か面白い本は無いかな。と三村は店内を物色すべく歩き回った。
やり残した...雨宿り・8
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指先に記憶させていたリズムを形にすると自分で思っていた以上に出来が良く。音に再現してやると、するすると、その後も連なり生まれた。スネアの弾丸。タムが空気を巻き上げる。支え導くバスドラムの波。
やっぱり実際に叩いたほうがイメージ通りの音が出るかもしれない。折よく大学の合否通知が出てその報告もあった...雨宿り・7
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吹きっ晒しの公園のベンチで座り込んで話していたので、すっかり体が凍えてしまった。さっむう。と身を震わせる三村に、そうですか?とあげはは首を傾げた。さすが小学生。寒さに強い。そう思いながら視線をあげると、見知った小さな姿が視界の中に入ってきた。そしてその横にはほっそりとした大人の姿。
「あれ。結子さ...雨宿り・6
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弟が、と三村は思い出した。弟が、サルは歌うのが好きだ。と言っていたのを思い出した。スーパーの前で楽しそうに歌っていたんだ。とどこか面白くなさそうに弟が、言っていた。
そんな事を思い出しながらごそごそと上着のポケットを探り、三村は携帯電話を取り出した。タッチパネルに触れて操作をし、アプリを表示させ...雨宿り・5
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凍えきっている指に缶コーヒーは熱すぎて、痛みすら感じてしまうほどだった。ううう。とうめきながら袖を伸ばしてそれで包むようにして缶を持つ。寒いのに、直に温まる事が出来ないなんて理不尽だ。そんな事を思いながらプルトップを開けてごくりと一口、その温かな液体を身体の中に流し込んだ。ゆるゆると内側から体が温...
雨宿り・4
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ピアノの音を左側で聴きながら、とん、とん、とパソコンを操作してリズムを作ってみる。イメージしていた音を画面上に並べてみて鳴らしてみると、思いのほか煩かった。色々調整して、音の鳴る位置や質を変えてみたけれどしっくりこない。
ピアノが澄んだ水を思わせる音だからだろうか。きらきらと輝いているくせに揺...雨宿り・3
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駅からの帰宅途中、三村は冬の通り雨に出会ってしまった。雨脚はさほど強くない。家まであと少しの距離だが、下手に濡れて風邪をひいてしまうのも嫌だ。大学受験のセンター試験を先日終えて、自己採点だが合格間違いナシの太鼓判を得た身なので、今更風邪をひこうがどうなろうがどうでもよいのだが、無駄に寝込むのもつま...
雨宿り・2
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ぽとりぽとりと、溶いた絵の具を紙の上に落としていくような、ピアノの音が響いた。落ちた色つきの水滴は白い世界で滲み広がり花開く。あちらこちらで極彩色の花が咲いていく中、少女の声が降り立った。少しだけ背伸びをしているようなぶっきらぼうな歌い方。大人ぶっている、けれど、まだ子供の甘さも引きずっている声。...
Master・雨宿り・1