指先に記憶させていたリズムを形にすると自分で思っていた以上に出来が良く。音に再現してやると、するすると、その後も連なり生まれた。スネアの弾丸。タムが空気を巻き上げる。支え導くバスドラムの波。
やっぱり実際に叩いたほうがイメージ通りの音が出るかもしれない。折よく大学の合否通知が出てその報告もあったので、三村は久しぶりに登校することにした。年明けてのセンター試験を受けてからこっち、ほとんど登校する必要がなくなっていたので、高校に行くのは本当に久しぶりだった。吊したままにしておいた学生服に腕を通す。記憶のものよりも肩の辺りが堅苦しく感じた。もうこれに袖を通すのはあと少しなのだろう。と思ったら、その堅苦しさも感傷的なものになった。
部室につかっている音楽室に出向くと後輩たちが活動をしていた。丁度、この頼みごとをした後輩もいたので、こんな感じの音だ。と、目の前で叩いてみる。
「細かい所を家で微調整してから渡した方が良いか。」
何度か叩いて練習をし、パソコンに繋いで録音をして。そう言った三村に、これで十分ですよ。と後輩が興奮した声で言った。
「さすがミムラさんですね。てか、大学に入っても音楽続けるんでしょ?」
「多分な。」
「それはやっぱり好きな事だから?」
にやり、とした笑みを浮かべて後輩がそんな事を言った。
実際その通りだけど、そうやって改めて言われるとやっぱり気恥かしいものがある。微かに笑みを浮かべることで三村は肯定の意を示した。それにしても、先日同じようなやり取りを他の人としたが、偶然だろうか。
「この声は、ぐみですか?」
三村のドラムと元々の音源を重ねてみたり、と後輩と並んでパソコンで作業をしているところに別の後輩が寄って来てそう問い掛けてきた。先輩もボカロ持ってたんですね。なんて言ってきたので、俺のじゃなくて、こいつのだ。と三村は隣に並んでいる後輩を指さした。
「いや、正確にはオレがマスターじゃないんですけどね。」
「おまえんち、ミク以外にもボカロがいるんだなぁ。」
「いやまあ、ミクも正確にはオレのじゃないけどな。」
「つーか、おまえ、いったい何体ボカロを所持してるんだよ。」
後輩たちの会話に、実際のところ、こいつの家は本当に何体ボーカロイドを所持しているのだろう。と三村は不思議に思った。
ボーカロイドは人工知能を持ったアプリだ。一体だけでもパソコンの容量をかなり食う。今回使用しているボカロは、ぐみ。前回はメイコだった。そしてミクもいるのだと言う。つまり少なくとも3体は持っているのだろう。それだけでも、コンピューターに関する技術者が使うような高性能のパソコンが必要になる。
そういえば。この後輩の父親はコンピューター関連の仕事についていると聞いた事があった。ならばその関係の人がボカロたちのマスターで、パソコンの性能なども改造しているのかもしれないな。そんな事を思いながら、ミムラは音データを保存した。ドラムの音だけのものと、重ねてみたもの。それぞれを自分用のUSBにも保存し、保存画面のまま、後輩に声をかけた。
「このデータ。このままお前も持って帰れよ。俺も写しを持って帰るから、何か修正して欲しかったらまた連絡してくれ。」
「あざっす。」
そう礼を言って、後輩は、ふと何か企む様な笑みを浮かべた。
「ミムラさん、何か良い事ありましたよね。」
問い掛けと言うよりもほとんど確認と言うような後輩は言う。違う奴から前にも同じような問い掛けをされた事があった。三村は思わず苦笑を浮かべ、何でそう思う、とあえて同じように問い返してやった。
「いや、なんか声の調子が浮ついていますから。」
後輩は、前にぐみが言ったのと同じような事を言ってきて、本当に何にもなかったんですか?と、にやにやと笑った。
「例えばそうだな。ちょっと年上の綺麗なお姉さんとお近づきになって子供の喧嘩の仲裁をしたとか。そういう感じの良い事。」
例えがあまりに具体的すぎる。ぶ、と思わず三村は噴き出した。
もしかしたらこいつ、結子たちと自分が一緒にいるところでも見たのかもしれない。笑いながら三村は首を横に振った。
「年上の綺麗なお姉さんじゃなくて、年下の可愛い女の子とお近づきにはなったけど。」
「あれ、先輩ってロリコンでしたっけ。」
「このデータ消しちゃっていいんだな。」
後輩の言葉に、三村は容赦ない調子でパソコンのキーボードに指を置こうとした。嘘ですごめんなさい。と慌てた様子で声をあげる後輩に、苦笑しながら、嘘だよ。と手を離す。
「おまえが思ってるような良い事なんか何もないよ。浮かれて見えるのは、大学に合格したからじゃないのか?」
そう三村が言うと、後輩はふうん。とつまらなそうに声をあげて、言った。
「ミムラさん。やり残したことが無いようにした方が良いですよ。」
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