私は噴水で一休みをしていた。
魔法は疲れるのだ。
向こうから何かがこちらを見ている。
「あ、亜紀子ちゃん!」
まさかと思ったがそうの様に見えたし、そうとしか見えなかった。
「どうしたのこんなところで」
思ったままを訊いてみた。
「どうして私の名前を知っているの?」
そんな事を聞かれても、亜紀子ちゃんの事葉は前から知っている。
「何を言ってるの?それより、どうしてここに居るの?亜紀子ちゃん」
亜紀子ちゃんは戸惑った表情をしている。
「もしかして亜紀子ちゃん1人で来たの?亜紀子ちゃんも1人で来れたの?」
一体どのように来たのだろうか。
「わからないの?そっか初めて来たんだもんね。よくわからないよね」
「ところであなたは誰なの?」
亜紀子ちゃんは素っ頓狂な事を訊いて来た。
「誰って、私は浮世だよ」
私は半ば呆れ顔で答えた。
「浮世ちゃん?!!!」
突然亜紀子ちゃんはビックリした様な顔になった。
何を言っているのか、ふざけているのか。
…いや、ワカメの国に来たという事は相当精神の力を消耗している筈だから、意識が朦朧としていたのかもしれない…。
ワカメの国に着なれていない人が初めて来ると、非常にそれだけで疲れる。

この時点でやっと私が浮世だとしっかり気が付いたようだ。
「浮世ちゃん!どうして浮世ちゃんがここに居るの?私、やっぱりワカメの国に来たんだよね?!」
「そうみたい。1人で来たんだね」
「あれ?なんで??いつの間にこんな所に来たんだっけ?私、1人でワカメの国に来たの?私って実は1人でワカメの国に来れたの?それって凄くない?何で来れたの?どうやって来たんだっけ?」
「ぷっ、はははは」
「え?何?どうしたの?」
「だって、亜紀子ちゃん、前みたいに元気だから」
「あ……うん。」
「あ、………」
最近の私と亜紀子ちゃんの事について問われて少し、後ろめたさを感じた。
「あのさあ、私、この頃なんか学校で亜紀子ちゃんにやな感じにしちゃって……ごめん」
私は気まずくなって、最近の私の亜紀子ちゃんへの良くない態度を謝った。
心の中にいつか言いたいと思って亜紀子ちゃんへの謝る言葉を用意しておいたのだった。
それをここで再生した。
「え、あ、ううん、私も、なんか最近、嫌な雰囲気出しちゃってて」
少しの沈黙の後、浮世が話し始めた。
「あのね、私、亜紀子ちゃん、私が変わってしまったのが嫌なのかなって思ってたの。
前の私に戻るようにって亜紀子ちゃんがしていたのかなあって思ってたの。今の私は嫌?」
私はずっと思っていたことを言った。
「え?ううん、別に嫌ではないよ。」
意外だった。
「そう…あのね、この頃亜紀子ちゃん、暗い感じでしょ?」
どこか言葉がぎこちなくなってしまった。
普段の人間界での私の振る舞いをここ(ワカメの国という夢の国)で謝るというのはどこか良くない気がした。
勢いで謝っているみないな感じがしたのだ。
でも、これは本心だ。
「うん」
やはり亜紀子ちゃんは自分が最近暗いという事を自覚しているようだ。
「それで、その暗い感じを出して、私をまた、前のイケてない感じの性格に引き戻そうとしているのかと思ったの。」
これはいつもひっかかっていた事だった。
もしも亜紀子が私を前の私に戻して欲しいと思っているのなら、それはちゃんと嫌だと言うべきだと思った。
私を前の私に戻さないで欲しい。
今の、イケイケドンドンの方が私は楽しいのだ。
亜紀子ちゃんも一緒に楽しんで欲しいのに、それなのに私が明るくなったと思ったら、亜紀子ちゃんは暗くなってしまった。
それが私には残念でならなかったのだ。
「え?どういうこと?」
「私が明るい感じになっちゃったから、亜紀子ちゃんが暗い感じになって、それで、私がその暗い感じに飲み込まれて、私がまた前の暗い性格に戻るって……」
亜紀子ちゃんはどう返してくるだろう。一瞬時間が止まったかと思われた。
「え、あ、ううん。私はあの、そんなつもりではなかったよ」
…意外だった。そんなつもりは無かったのか…。
「そうなの?私、そうなのかなって思ってた。そうなんだ。そっか。あ、私、ごめんね。その、なんか嫌な感じにしちゃって」
私の勝手な間違いだったのだ。ただの考えすぎだったのだ。
亜紀子ちゃんは私を道ずれに暗闇に行こうとした訳ではないのだ。
そのことに私は少し安堵した。
「うううん。今の浮世ちゃんは元気がいっぱいでいいと思ってたの」
むしろ亜紀子ちゃんは私が元気になっている事を喜んでくれていたようだった。
それなのに私は、亜紀子ちゃんが私を落とそうとしているなんて…。
それだけにとどまらず、私はいじめのような事を亜紀子に施していたのだ。
「…うん。」
少し、心の荷が下りた気がした。
「私最近なんか元気なくってさ。あのね、私、なんだかこの頃訳もなく落ち込んじゃってね、…周りの人に迷惑かけちゃってるのかも…。私、なんだか色んな事がつまらなくなってね、それで、
色んな事が意味のない事なんじゃないかって……そういう風に思うの」
「うん」
「そうかと思うと、とっても楽しいことが在ったりするの。でもね、それも終わってしまう。それでまたつまらなくなって…そのつまらなさに、いたたまれなくなるの
私は何をしていればいいんだろうって思って、やっぱり部活に入った方が良かったのかなって…。でも入れなかったの、部活ってなんか上の学年の人も居るし…怖くって…」
「分かる。私もなんか部活って怖いなあって思った」
亜紀子ちゃんはそんな事を考えていたのか、全然知らなかった。
亜紀子ちゃんはどうにか憂鬱な気分を吹き飛ばそうと頑張っていたのだ。
それなのに私は冷たく当たってしまったのだった。
「そうなの?」
「うん」
………
二人ともやや嬉しそうな、それでいて何かを真剣に見ているような目をして、少しの間、斜め下を眺めていた。
………
そして二人して、顔を上げて、微笑み合った。

あ、しかし個人的に安堵しているのはいいのだが、
亜紀子ちゃんは人間でここは夢の国。
色々とばれると良くないことがある。
私はハっとした。
亜紀子ちゃんは人間だからワカメの国の居場所がばれては他のワカメの国の住人にどやされる。
人間の記憶は基本的に全て削除して人間界に送り出す。
ということは今亜紀子ちゃんと話した事を全て忘れさせないといけないという事だ。
そんなのは嫌だ。
「浮世ちゃん」
「え、何?」
「私達、遠足で皆でここに来たよねっ」
「うん…」
「そのときにワカメの国の人に会ったっけ?」
やばい、亜紀子ちゃんがもうワカメの国の仕組みに気が付き始めている。
「………うーん、どうだっけ。覚えてないの?」
「う…ん」
「そっか」
どうしよう、人間の記憶を消さないで人間界に送り出したことがもしワカメの民にばれたら私はただ事じゃすまない。
でも、絶対にさっき話した事をもう一度人間界で話すなんてもう勇気が無い。
いや、でもやっぱり…
「っあのね」
突っ込むようにして浮世が言った。
「亜紀子ちゃんに話す事があるの」
「何?」
「ワカメの国に来た人はワカメの国でのことは忘れてしまうの」
「え、そうなの?」
「そうなの。それでね、私、本当はワカメの国の人なの」
「え、あ、うん。それはさっきから見てれば分かるよ」
「えっあ、そっか」
浮世は少し下げ気味にしていた顔を上げて驚いた表情で私の顔を見て、少し、目をしばたいて、うなずいた。
私は言った。
「でも可笑しくない?だってワカメの国に行ったって言うのに何も覚えていないなんて、みんな絶対おかしいって思うでしょ」
「そこらへんはそうは思わないようにしているの。コントロールしているの」
「ふうん。そうなの?」
いまいち納得は出来なかったけど、私はとりあえず分かったということにした。
「それでね、亜紀子ちゃん、もう帰ったほうがいいと思う。初めてアナログで来た人は早めに帰ったほうがいいの。出ないと戻れなくなっちゃうかも知れない」
「そうなの?」
「うん、時間が経てば経つほどどんどん戻りにくくなっちゃうの」
「え、じゃあもう帰らなくちゃ、やばいかも」
私は慌てた。
「うん。今くらいに帰れば多分問題はないと思う」
「そ、そっか。あ、でもどうやって帰ればいいんだろう」
「ごめん!」
「え!」
そのとき遠くから私の母がやってきた。
私は慌てて亜紀子ちゃんを一気に人間界まで戻す魔法を亜紀子に掛けた。
少々荒っぽかったが、パンチをしてワカメの国から人間界までぶっ飛ばすというかなり宜しくない方の魔法を使った。
この魔法は実際にパンチが当たらなくても効く。
魔法なんて気持ちの問題なのだ。
ワカメの国から人間界に一気にワープ出来るイメージを持つモーションなら、なんでも良かった。
やっぱり私にはもう一度、亜紀子ちゃんにさっきの告白をする勇気なんてなかった…。

校門で亜紀子ちゃんに登校班と一緒になった。
「おはよう」
「おはよう」
覚えているだろうか、亜紀子ちゃんは昨日の事を。
いや覚えていないかもしれない。
いやそんな事は無い。
だって記憶を消さないまま人間界に送り返したのだから…。
亜紀子ちゃんが昨日の事を覚えているかいないかが気になって全然じゅぎょうに身が入らなかった。
休み時間に亜紀子ちゃんが話しかけて来た。
私はどぎまぎしながら、ああ、おはようと言った。
「昨日、あったね。夢で」
あ、覚えている…。

あの日以来
それからというもの、夢の中で頻繁に浮世ちゃんに会った。
毎晩のように夢の中で会って話をした。
そしてある日、手伝って欲しいと言われた。
何のことかよく分からなかったのだが、どうやら夢の国が今、別の夢の国から戦争をしかえけられていて、大変だから、その援助をして欲しいというものだった。
私にそんな事できるの?と私は浮世ちゃんに言ったが、出来ると言われた。だって夢の世界なんだもん、だって。それは確かにそうかもしれない。
私は浮世ちゃんに連れられて、ある場所に連れて行かれた。それは夢の国の農村部だった。私が浮世ちゃんと始めて会ったあの夜のレンガ造りの街とはまた別の場所であった。
しかしその農村の様子を見て私は唖然とした。
めちゃくちゃだったのだ。
道は凸凹で、ところどころに穴が空いている。
木や草も倒れたり、ごっそり無くなっていたり。それも不自然に無くなっている。
枯れてはいないのだが…。
お家もグチャグチャだった。
私と浮世ちゃんは口1つ交わさないでしばらく進んだ。
すると、ワカメさん達が多く居るところに着いた。
1つ、運動会のときに使うあの簡易テントがあって、その下にワカメさん達が座って休んでいる。
これは一体どういう状態なのか。ここは初めからこういう場所なのだろうか。
「浮世ちゃん、これは」
「これがコンブの国からの攻撃なの。コンブの国の攻撃であちこちが壊れてしまったから、その修復に今とっても忙しい状態なの」
よく分からないが、とにかく、戦争によってこのような悲惨な状態になっているらしい。
「ちょっとコッチに来て」
浮世ちゃんに言われて着いていくと、ワカメさん達が大勢見えてきた。
何やら輪を作っている。お遊戯会か、キャンプファイヤーでもしているのだろうか。
「これが修復魔法の現場なの」
「え?何魔法?」
「修復魔法」
「あ、修復魔法」
「ここで輪を作って、真ん中の火を囲んで皆の力を合わせて、ワカメの国全体に魔法をかけるの」
「そうなんだ」
「亜紀子ちゃんには、さっきの休憩所で働いてもらうね」
「あ、うん。わかった」
これは大変なことになっている。私も手伝わなくては…。
「私はコッチの魔法の方に加わるから、早速お願いね。」
「はい」
私は働いた
。雑用というのはこういう仕事の事をいうのだろう。お茶を汲んで疲れているワカメさんに持っていったり、食べ物を容器にいれて持っていったりした。
なかなか体を動かしてサッサと動くのは楽しかった。
私は始めて仕事らしい仕事をしたようでそのことが誇らしく、うれしかった。
ワカメの国の食べ物はとても珍しかった。
液体なのだ。
それをストローでチュウチュウ吸うのである。
だから私の仕事は、器にその液体を入れてそこにストローを添えて、魔法を使い果たして疲れたワカメさんに手渡すことである。そして去って行ったワカメさんの器の後片付けである。まるで、ファミレスの店員さんであった。

 ある日の事だった。そうやって雑用を始めて3日目、休憩所の仕事にも大分慣れてきたときだった。
浮世ちゃんとあの田舎に向かって、レンガの街中を歩いていたときだった。

バン!



後日談
少々疲れた顔をして母が言って来た
「まったくあんたもバカだったね。人間界であんなことばっかりやっていたからそんなことになったんだよ
。普通自分の記憶が変わっていたら気付くはずだよ!」
母が言った。
「でも相手は女王様だったんだよ、女王様の魔力は強すぎて、わたしなんかの一般のワカメじゃあ適う訳が無いよ!」
私はある言葉は呑んでおいた。
「私なんかの一般ワカメ」ではなく、私なんかの人間との混血と言いたかったけれど、それはやめておいた。
以前にそれを言って、凄く微妙な顔を母にされたから。
それは禁句らしいという事をそのときに感じた。
それに、混血だから魔力が少ないというのはそもそも違うし。
「あんたは本当に馬鹿だね!そんときの女王様は力を失っていたから普通のワカメ人での女王様からの魔法を跳ね返せたはずだよ!」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

ワカメの国 第六章 浮かれた人 貝塚浮世の物語

塚と言う字には、不思議な力と言う意味がヨーロッパでは在ります。貝は、ワカメの国が海に存在している事を現しています。又、彼女の美しさも表しています。決して御金は表して居ませんよ。
だから、彼女の苗字は貝塚です。
※小説「ワカメの国」はKODANSHA BOX-AIR新人賞応募作品です。

閲覧数:65

投稿日:2012/02/14 02:08:01

文字数:5,568文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました