舌先で溶ける甘味が好きだ。
それはふわりと一瞬で広がって、それでも、溶けてしまえば幻の様に直ぐさま全部が色あせる。
栄養なんてほとんどなくて。
愛でられるためだけにあるそれは、何かにとても良く似ている気がした。

噛んで砕いて燕下して。
甘い想いを飲み込んで。
そうしていつまで伝えられずにいるのだろう。
吐いた溜息は、桃の香りがした。
「馬鹿みたいね」
そうして何度、後悔するのだろう。





掌に転がった、銀色の包み紙を見つめながら、私は盛大に眉間に皺を寄せた。
照明に反射して、きらりと光った銀色の小さな包み。
「あ?お前、好きじゃなかったっけか」
「アンタね…人の趣味覚えるなら、きちっと細かく把握しときなさいよ」
仄かに香る桃の匂いは、直ぐさま強すぎる薄荷にかき消される。
キャンディーは好きだ。
ピーチ味ならもっと好き。
「あたしが辛いの苦手なことくらい、覚えときなさいよね!」
だけど、彼が好んで食べるこのメーカーは確か、薄荷が強いので有名だ。

貴方が私にくれたものなら、どんなものでも取り込んでしまいたいと思う。
だけどどうして。
珍しく私にくれたそれは、私が取り入れられないものなのだろう。
包みから香る薄荷の匂いが、鼻につんと染みた。
涙が出そうだった。
八つ当たりしたいんじゃない。
好きな物を覚えていてくれたこと、ただ純粋に嬉しかった。
ありがとうって、言いたかった。
だけどどうして、素直に言えない自分を正当化する言い訳ばかりが浮かぶの?
だめでも。嫌いでも。
私にくれた、そのことだけを、ただ純粋にありがとうって。
言えばいい、ただそれだけなのに。


「んな細けぇこと一々覚えてねえっての」
「細かくないわよ、普通!」
「あー、もう悪かったって。寄越せよ、食えねえなら俺が食う」

あ…------。
手に触れる指先。
貴方の温度を感じるよりも早く。
捕まれそうになる銀色を、咄嗟に握りしめて叫ぶ。

「い、いいっ!」
「は?」
「いいの!貰ってあげるわ!」
「はあ?だってお前、それ食えねぇんだろうが」
「いいのよっ。貰ったんだからこれは私のものだわ」
むきになって言う私に、困った顔で頬を掻く。

貴方は訳が分からないといったように首を捻ってから、「まあ、いいけど」と呟いた。
たぶんタイミングは今しかなくて。
これを逃したらきっともうそれは戻ってこなくて。
だから私は、赤くなる頬と震えそうになる声を必死に隠しながら、少しだけ俯きながら。
「ありがとね」
と、呟いた。

一瞬、目を丸くした貴方は、「気にすんな」って笑って言った。
その言葉が、この包みが、全てが、私にとってどれだけ大切なことだったかなんて
鈍感な貴方は、相変わらず気付かずに。
「今度はお前が食えるヤツ探しといてやるよ」
その一言が、どれだけ嬉しかったかなんて。
不器用で意地っ張りの私が、言える筈もなくて。

「期待しないで待ってるわ」
「そーかよ」
平行線の均衡は、崩れる気配もないけれど。
(ありがと。だいすき)
せめて、心の中だけでも、素直に呟いた。





私の鞄の小さな内ポケットには、あの日からずっと、小さな銀色の包みが入ってる。
言えない沢山の言葉達と一緒に。
密かに、ひっそり、大切に。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

シークレット・シュガー・ピーチ

クルリちゃんに、小さな幸せをあげたかった。



自称字書きです。絵は描けません。(今更)
自己紹介バトンなんかとにらめっこしながら書いたんですが
口調とか性格とか、違ってたらごめんなさい…。涙

閲覧数:117

投稿日:2009/09/23 21:16:41

文字数:1,358文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

  • 関連動画0

  • 由希@時間がなければ余裕もない

    チャバさん>>
    文才!?ないよ!?

    いや、チャバさんのね、あの素敵な動画だとか詩だとかクルリちゃんの涙だとかを見てたら
    すっごい幸せにしてあげたくなって。
    でも、やきもきする女の子の心情とか書くのが大好きで
    そんなこんなで書いてたらそんなに幸せでもなくなってしまったという…orz
    もっと甘くしてあげればよかったー、と反省しております。

    クルリちゃんとマクさんは、すっごいピュアで素敵!
    妄想力をかき立てられる。笑
    ありがとーっ!うん、良かったらまた書かせてくださいませな^^

    2009/09/23 21:25:15

  • チャバ

    チャバ

    ご意見・ご感想

    にょっほおおおおおおいい←

    いえいえ二人のキャラはこのまんまですよ!
    由希ちゃんの文才がありすぎて変な笑い方してもたww

    クルリの気持ちを私より分かってる…っ
    マクの返しもすっごく彼らしいです^^

    うわわ…っ
    ほんとにありがとう!小説初めて書いてもらったけどすっごい新鮮で嬉しい><
    またすっごい暇なときに書いてくれたら嬉しi(黙れ

    2009/09/23 21:01:28

クリップボードにコピーしました