TAITO~ONLY YOU……~ 4
「記憶」

 朝食を終えて、幸音は簡単な身支度をしていた。

 『……じゃあ、私はアルバイトに行って来るから
  留守番、お願いね。』

 『……アルバイト?』

 一瞬、幸音の外出先に違和感を覚えた。

 『……学校には、行かないのか?』

 『えっ?』

 『最初、幸音を見た時……高校生ぐらいだなと……
  思ったから……違うのか?』

 『…………。』


 幸音は複雑そうな顔をした。
 俺は……聞いてはいけない事を聞いてしまったのだろうか……。


 『……そうね……。
  ちゃんと通ってたら、高校二年生になってたかな。』

 『なってた……?』

 『ちょっと……色々あってね。高校は中退したの。
  でも、さすがに何もしないで家に居るのも……
  お父さんに悪いし、こうしてアルバイト生活してるんだよ。』

 『……そう……か……。』


 幸音は話してくれたけど、やっぱり聞かない方が良かった。

 幸音にも何か辛い事があったんだ。

 ……それを、俺は……。


 『幸音……ごめん。』

 『何で帯人が謝るの?』

 『……俺は、幸音に自分の事を話してないのに……
  幸音には答え辛い事を聞いてしまったから……。』

 『……その帯人の話も、私にいつか話してくれるんでしょ?
  それで良いじゃない?お互い様よ。』

 『…………でも……。』

 『私は大丈夫だよ。それに、今は通信制の学校に一応
  通ってるから……帯人、気にしなくて良いよ?』

 『………………。』


 素直に分かった、とは言えなかった。

 幸音……何で、そんなに優しいんだ……?


 『……あ、時間!私、もう行くね!
  夕方頃には帰るから……じゃあねっ!』

 幸音は慌てて出掛けて行った。

 残された俺は……何となく部屋を見回した。

 昨日はまともに自分の周囲の状況を把握出来なかったから。

 『……仏壇?』

 最初に俺の視界に入った仏壇。俺は仏壇に置かれた写真を見た。

 幸音とよく似た、女性。

 幸音は母親が居ないと言っていたけど……亡くなっていたのか。

 位牌の日付を見ると……意外にも最近で、一年程前だった。

 病気で……?事故で……?
 幸音が高校を辞めた事に関係があるのだろうか?


 …………

 いや、考えるのはやめよう。

 自分の事も打ち明けられない俺が
 幸音の事をもっと知りたいなんて……


 おこがましいにも程がある。





 俺は窓を開けて、床に寝転がった。

 そして……そっと、瞳を閉じてみた。


 耳に響く鳥のさえずり……
 頬を伝うそよ風……


 あの暗くて冷たい研究所には無かった……感覚。


 自然と……幸音の顔と言葉が俺の記憶回路を廻る。



 『……ねぇ、大丈夫?』

 『こんな雨の中で傘も差さないなんて……。風邪引くよ?』

 『いくら機械だから風邪引かないって言っても
  濡れたままは嫌でしょ?』



 ……幸音……。



 『……その……傷……。まさか……自分で……?』

 『……痛かった……よね……。
  何か……辛い事があったんだね……。』

 『あ……ううん。な、何でもないの……!
  ごめんね、突然泣いたりして……。』



 ……幸音……。



 『…………じゃあ、帯人って名前にしない?』

 『うん♪包帯がトレードマークのKAITO……。
  略して、帯人……で、どうかな?』




 ……幸音……。



 『じゃあ、ここにしばらく私と暮らさない?
  帯人と今日出逢ったのも、何かの縁だし。』

 『本当!ありがとー!これからよろしくね!帯人っ!』

 『そう言われると……嬉しいなぁ。
  ありがとね、帯人!』



 ……幸音……。



 『帯人の今の顔、何でもないって顔じゃないわ。
  一人で悩みを抱え込むのはあんまり良くないよ。
  ……私で良かったら、何でも言ってね。
  誰かに話す事で、少しは気が楽になると思うよ?』

 『あ……別に無理に話さなくても良いんだよ?
  いつか帯人が私に話しても良いかなって思った時に
  言ってくれれば……ね?』



 ……幸音……。



 『帯人、これ私がよく行く店で買ってるやつなんだけど……
  美味しいから、帯人も食べてみてっ!』

 『人と話してる時に急に考え込んじゃ駄目だよー?
  ……で、どう?お味の方は?』

 『良かった♪帯人と私って味覚が同じみたいね。
  さぁ、他のもどんどん食べて!』



 ……幸音……。



 『何で帯人が謝るの?』

 『……その帯人の話も、私にいつか話してくれるんでしょ?
  それで良いじゃない?お互い様よ。』



 ……幸音……。



 『そう、幸せの音って書いて、幸音。
  あはは、何か私には似合わないよね~。』



 ……幸音……幸せの……音……。



 ………………………。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

TAITO~ONLY YOU……~ 4

続きです。と言っても、後半は幸音の前のセリフを
貼り付けただけなんですが(汗)。 orz

幸音の過去背景もちょっと見せたかったので……
プロットはまだ先の方まで一応考えてあるけど
実際に書いてるとどうしても長くなるので
とりあえず、区切りの良い所で切りました。

話考える上で起承転結と同じぐらい
キャラ設定って大事だと思うんだよね。
絵も大事だけど……さすがに全部完璧には出来ない。>ゝ<ノシ

追記:続き出来たよ~。

閲覧数:278

投稿日:2009/04/24 13:00:13

文字数:2,085文字

カテゴリ:小説

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