発声練習も終わり一息ついてから、一応歌詞は配るわね、と咲音先生が全員に手早く歌詞カード(先程の準備の時用意したらしい)を配った後、テストは名前順に一人ずつ前に出て歌うという形で行われた。
急遽決まった実力テストに私も含めクラスの全員が戸惑っていたが、始まってしまったものはどうしようもない。皆、こうなればヤケだ、とばかりに素直に従う事にしたようだ。(もっとも、始まる前に彼女が言った『異論は認めない』が事実であり、反論しても無駄だと悟ったから、というのもあるが。)

 「はい、オッケー。基本はできてるから、発声の練習をしてもう少し声が出せるようになればさらに良くなるわよ。頑張ってね。それじゃ次!」
彼女は、伴奏をしながらだというのに歌い終えた生徒一人一人の特徴を把握しており、それぞれの改善点を的確に述べていった。その真剣な表情と評価の的確さから、音楽に対してかなりこだわりがあるというのがよく分かる。生徒に対する評価に時折厳しい言葉が混ざるのもそれ故だろう。

 そして何人かの生徒が歌い終え、いよいよ私の順番がやってきた。私は緊張しながら前に出て歌い始める。しかし、歌い始めてしばらくしてから、彼女は突然伴奏の手を止めると私に向かってこう言った。
「菊音さん、だったかしら? あたしの授業で手抜きするとはいい度胸ね。もう一度最初からやり直し。今度は“全力”で、ね。」
その言葉を聞いた瞬間、私は思わず凍りついた。
「手抜きなんて、そんな事ありませんよ。」
なんとか気を取り直してそう言ったものの、声が震えているのが自分でもよく分かった。
「あたしはごまかせないわよ。さっさと始める!」
強い口調でそう言った彼女の言葉におとなしく従いながら、私は内心ではかなり焦っていた。初めて演技を見破られたからだ。

 私は歌う事が好きで、小さい頃は音楽教室にも喜んで通っていたし、中学時代は合唱部に所属していた事もある程だった。(【あの時】以降は部活にも顔を出さなくなったが…。)
だから、きちんと声を出して歌うという事に関しては、一応普通の人よりできると思う。いわゆる『好きこそものの上手なれ』というやつだ。
けれど、学校生活において【ルール】に従う行動を心がけていく事を決めた私にとって、その技術は必要の無いものになった。少しでも目立つ可能性のある事はしたくなかったからだ。そのため、たとえ好きでも授業では自然と全力で歌う事をしないのが当たり前になっていたし、今まではそれが見破られるなんて事は無かったので問題は無かった。
しかし、見破られてしまった。
(どうしよう、どうしたら良い? きっと、“私が全力でやった”と先生自身が納得するまで続けるつもりだろう。それは流石に嫌だし、何より皆にも迷惑が掛かる。…ええい、ごまかせないなら仕方無い! 覚悟を決めてやるしかないか!)
私はそう結論づけると、すぅ、と大きく息を吸い込み歌い始めた。いざ全力で歌い始めると、自分でも驚くぐらい勢いが止まらなかった。
私の歌声が、伴奏に乗って音楽室中に響き渡っていく。まるで今まで抑えつけられていた鬱憤を晴らすかのように。
 私は久々に全力で歌った事に思わず気持ち良くなってしまっていて、周りの視線の事なんか完全に忘れていた。そしてその勢いのまま歌い終わり、少し興奮状態で自分の席に戻った。
だからこの時、歌い終わった私を興味深く見つめている視線がある事にも気が付かなかった。
咲音先生は私が歌い終わった後、少し呆れた様に
「やっぱりね。まったく、次以降は最初からその調子でやりなさいよ。」
と言うと次の生徒を呼び、テストの続きを始めた。

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闇を照らす光 3 ~きっかけ・後編~

やっと後編投稿です。予定より長くなってしまい、読みづらかったので分割。前のバージョンで続きにいきます。

書いてる途中で、イメージが出来ててもそれをまとめる文章力の無い自分に絶望して泣けました。

…ああ、どっかに文才(ry


最後まで読んで下さり、ありがとうございました!

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投稿日:2010/06/10 00:20:27

文字数:1,511文字

カテゴリ:小説

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