パリンッ。
音が鳴った。彼女の大事にしていた姿見が割れてしまったのだ。可愛らしい黄色の水玉が目立つこの部屋で。彼女の足下にはバラバラに砕けた鏡の破片が、あちこちに散らばっている。
「あーあ。」
その声は諦めと悔しさがこもっていた。彼女はその場でしゃがむと落ちてしまった破片の中で一番大きいものを拾った。男の姿をした“彼女”の姿が映る。その顔は苦笑に満ちていた。
『しょうがないよ。』
“彼女”は言う。君は悪くないと。
「でも。」
『そっちで大きな地震あったでしょ?だったらしょうがないよ。』
彼女は何も言えなかった。事実だから。
「でも、レンは?」
『俺なら大丈夫。まぁ、ちょっとリンが映らなくなったから心配したけど。』
彼女―リンは破片を近くのテーブルに置くと
「ちょっと待ってて。」
『うん。わかった。』
鏡に映る“彼女”―レンはその場に立ちすくむ。といっても実際彼は“鏡に映る存在”なのでリンが鏡を見ない限り映らないのだが。
と、いっている間にもリンはゴム手袋をして散らばってしまった破片を拾い集めジクソーパズルを組み上げるように破片を元に戻そうとする―が、やっぱり元には戻せないわけで。
「あーっ!もうっ!」
鏡の向こうで彼は笑う。ただ、破片のひとつひとつに丁寧に映るものだから彼が何人もいる状態になっているのだが。
「もうっ、レンがそっちにいるから!」
それでも彼は笑い続ける。反対にリンはプンプンと効果音がつきそうな程怒っていた。
彼女はある意味では特別な存在だ。巷では『歩く都市伝説』と言われている程に。なぜ、鏡に彼女自身ではなく“彼女”が映るのか。それは本人も知らない事実なのだがリン自身あまり深くは考えない性格なのでそれはそれでどうでもよかった。
ピンポーン。
玄関のチャイム音が鳴る。
「あ、はーい!」
リンは足早に玄関へ行きドアを開ける。現れたのは隣の部屋に住んでいるミクだ。
「えへへ、お邪魔しま~す。」
「え。ちょっとミク姉!」
大胆にリンの部屋へと入るとミクはまず鏡の破片を見る。
「あ、やっぱり壊れちゃったんだ。」
ウエストポーチを近くに置きながら言った。
「うん。…って、なんで知ってるの?」
「隣ですっっごい音がしたから。」
ミクは小さな冷蔵庫から麦茶を取り出す。
「あ、勝手に飲んじゃうね。」
そう、断りを入れて。
「それにしてもさっきの地震すごかったね~。」
「うん。おかげでこれ割れちゃったけど。」
一口、麦茶を飲むミク。リンが指さす前にはレンが映る。
「そりゃ災難。」
「言えてる。」
くすくすと笑いあう二人。その横目でレンは複雑そうな顔をする。それから
『こっちは大事なんだけど。』
むすっとした顔で言う。
「え?あぁごめんごめん。そうだったね~。」
ミクはまたもや笑う。彼女はリンの理解者の一人でネットアイドル歌手だ。その為『電子の歌姫』、なんて称号を持っていたりする。
その隣でリンはうーんと唸る。
「どうしたの?」
ミクが訪ねる。
「ん?これどうしようかと思って。」
鏡の破片を指さす。
「あ、そっか。」
ハッとして思い出すミク。実はこの姿見(だったもの)は普通の鏡とは少し違うのだ。その決定的な違いは“レンが映るか否か”だ。レンは“普通の鏡では映らない”からだ。やはりこれもなぜなのかは本人共々知らないのだが。
「ん?」
ふと、破片を裏返すリン。そこに書かれているのは「C」とも読み取れる文字が。
「なにそれ?」
『何かあったの?』
「見て。」
二人(レンは見えていないのだが)に文字らしきものを見せる。
「なんだろうねこれ。」
「さあ?」
二人して唸り始める。
『何か書いてあったの?』
「え?うん。なんかね、Cって書いてあるのかな?」
リンが説明する。
『………。多分それ“Magic”って読むんじゃなかったけ。』
「「へ?」」
正に同時に言う二人。
「どういう事?レンくん。」
『確か、こっちの方で鏡に“Magic”って書くと向こうの…ってリン達の方な。の世界が映るとかなんとか…。』
「それだったらさっさと思い出して欲しかった。」
またもやぷんすかと効果音が流れそうな声で言うリン。
「解決しちゃったね。」
「うん!」
ミクは残りの麦茶を飲むとポーチを取る。
「じゃ、今日はすごく楽しかったよ。」
「もう行っちゃうの?」
「うん。」
靴を履く。名残惜しそうに見守るリン。
「じゃあね。」
「じゃあね。」
バタンと閉じるドア。辺りはすっかり夕方だった。部屋のカーテンを一通り閉めると破片を見つめる。
「もう、レンのばかっ!」
そう言われて何も言えなかったレンであった。
とあるボカロ荘の一日 ミクとリンと鏡編
鏡設定で明るい話を書こうとした結果がこれだよ!
ぶっちゃけ何を書きたかったのやら…
実は青い兄さんや赤い姉さんも別の号室にいる設定だったりする
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