「ねぇ、弘くんー。お腹空いたー。」
目の前には炬燵に入り、上気した顔で僕にねだる女の子がいる。下手に相手をしてたかられてはたまらないので、放っておくことにする。
「弘くんってばー。ねぇねぇねぇねぇー!」
こいつは猫か。構ってもらえるまでこのまんまなのか、こいつ。馬鹿だろ。うん、そうだ、絶対馬鹿だ。
「ひーろーくーんー!」
「あーっ、もううるさいっ!
 何なんだよ、一体!」
正面にはにへーっと笑った先ほどの女の子、もとい猫がいる。

さて。何でこんなことになったのか、まず説明しようか。
今日は冬休みの初日。学校は早々に終わり、通知表を眺めてため息なんかを吐きながら帰ってきた。まず夕食を食べるまで母親の説教をくらい、夕食を食べた。そしていつものように自分の部屋の炬燵に入り、さてゲームでもしようかと思った途端、家のチャイムが鳴った。
「誰だろ、こんな時間に。」
「弘人、出てきてくれるー?」
台所から母の声が聞こえる。
「やだよ、寒いじゃん。」
「お母さんだって寒いわよ。」
そして、止めの一撃。
「そんなこと言うんだったら、お小遣い減らすわよ。」
…こればっかりには逆らえない。迂闊なことを言うと、本当に小遣いの額が下がる。
「…出てくる」
「あらがとうー。」
台所からのエール。残念ながらそれでは寒さを凌ぐことはできないのでパーカーを羽織り玄関に出る。
がちゃり。ドアと開けると、寒空の下で花が立っていた。
花について説明しよう。僕の幼馴染みだ。母親同士が中学からの親友であるために僕はこのろくでもない我が侭女と縁が切れず、気がつけば周りから幼馴染みだと認識されていたというだけの話なのだが。
そして話はもとに戻る。
―うわぁ、やっかいなのが来たよ…。
僕は本能的に半開きにしたドアを無言で閉めようとした。脳内には今まで花が起こした事件の数々がフラッシュバックしている。
「うわわわっ! 閉めないでよ弘くん! 花が凍えちゃうよっ!?」
ドアノブを向こうから引っ張っているようだ。
「知るかそんなの、お前確か雪の中で埋もれて遊んでたことあるだろ! 今更風邪なんぞ引いたとこでたいしたことねぇよ!」
思いっきりドアを引っ張る。が、中々ドアを閉じさせてくれない。いい加減冷気が部屋の中に入り込んで寒い。
「あぁ、弘人、花衣ちゃんだったの? 中に入れてあげなさいよ。」
玄関でドタバタやってたのに気がついた母親がそんなことを言う。
…迂闊に返事をしたら、小遣い確実に減るよな。
僕は諦めてドアを開けた。と、花がドアと僕の隙間から入り込んできた。
「うわー、あったかい。おばさん、失礼します。」
なにが失礼しますだ、強引に入ろうとしてたくせに。
「花衣ちゃん、どうしたの?」
「弘くんとお話しようと思って。」
「え、何?」
いや、高校生にもなって遊びに来る幼馴染み(女)ってどうなんだ…。
「じゃ、弘人の部屋で話したら?」
「あ、いいですか? じゃあ、行こっか弘くん」
そして花に引きずられていく僕。
「え、ちょ、おい!」
勝手に人の部屋入るなよ、とはいまさらだが、本当にずかずかと人の部屋に入る花なのだった。

そして話は冒頭に戻る。炬燵に何故か差し向かいで座る。
…なんか照れるなぁ…。
やはり、差し向かいっていうのは説教されるときを連想してしまう。
「てかさ、わざわざ僕の家に来たってことは何か用事あるんだろ、何なんだよ。」
居心地が悪く、話を切り出した。こいつの我が侭に付き合っていては疲れる。話をとっとと終わらせて帰って欲しい。
「えとねー、重大発表しにきたの。」
けろりとさっきまでの話を忘れたかのように通常モードな花。にへらと笑いながら、こっちを見てくる。
「だから、それをとっとと言えって。」
「花は、どうやら弘くんのことが好きらしいです。」
…今なんて言った、こいつは。
「え、何、新手の冗談?」
「いや、残念ながら冗談じゃないようです。」
何故に敬語。いや、そこじゃなくって。なんか僕今、すごいこと言われた…?
「じゃないようですっておい、他人事かよ。」
口は勝手に軽口を叩くけど、頭は真っ白だった。
「よく、わかんない。」
ふ、と視線を机の上に落とした。
「は…?」
「だけど、弘くんと居るのが好きだよ。」
「は、はぁ…。」
やばい、こいつのペースに巻き込まれた。これだからマイペースなやつって苦手なんだ。
「だから、弘くんのことが好きなんだよ。」
なんなんだろう、こういうとき僕はどうしたらいいんだろう。
「あ、あのさ、僕はどうしたら、てか、花は僕にどうして欲しいんだよ。」
「う…わかんないよ。」
「わかんないだらけだなぁ、花は。」
「むう…。弘くんだって大して変わらないよ。」
むくれて軽く此方を向く様子が可愛いとか思ってしまったのは内緒だ。
「そうだな。」
笑って返事をする。
「じゃ、帰るね。」
花も笑って炬燵から出る。
「おう。」
僕は立ち上がらず、そのまま見送った。そして花が出ていった後、
―僕も、花のことが好きなのかもしれないと、少しだけ思った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ぼくと花

またまた澄川です。お目汚しすいません。少し甘くしましたが、甘くなりませんでした笑
ではでは。

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投稿日:2011/03/14 22:40:03

文字数:2,094文字

カテゴリ:小説

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