「永遠はあると思う?」
君はふと、僕にそう問いかけた。
僕は、そんなものはないよと応えた。
夢がないなぁと言って、君はおかしそうに笑った。
夢なんてないと、あるはずがないと思っていたのだ(君ががっかりするだろうから口には出さないけれど)。
そう、確かにそれは僕の主張だ。
そしてそれは、僕の存在が示していた。
夢を持つのはいいことだと思う。そこに意欲が沸くから。
でも、現実になってしまえばそれはもう現実でしかなくて、夢だったことは一瞬で消えてしまう。
僕もそうやって生まれたのだ。
夢は現実に。現実は夢に?
もう二度と戻れない。夢は現実になっても、現実は現実のまま。
そして、夢から生まれた現実は、また夢の可能性を孕むのか否か。
他のものについては知らないけれど、自分のことははっきりと言える。
否。
キカイは夢を持たない。
どんなにニンゲンらしく振舞ってみても、所詮まねごとでしかないのだ。
たとえ夢が生まれても、それは僕以外の何かが僕を見て考えたもので、それは僕にはならない。ぜったいに。
僕はその夢に押しやられて、「かつて夢だったころの現実」ですらなくなって、その新しい夢に踏み台にされる。
そして皆からぽんと判を押され。
「夢でも現実でもない何か。そう、貴方はがらくたなのです!だから貴方は……
ゴミ箱行き!」
どちらかというと、死刑宣告だね。
まあその頃には本当のがらくたになっているだろうから、意識もなくていいけれど。
ああ、でも、その時に君はいないんだな、と思って。
なんだかとても、寂しいような、悲しいような、そんな気分になった。
でも一番悲しいのは、この感情すらも人の真似でしかないことだろうか。
こんなにも複雑に絡み合ってしまって、限りなく人に近い???なのに、それも「ヒト」ではなくて。
それが悲しくて、けれどこの感情も偽物なのか、とも思って、
ぐるぐると始まりと終わりがつながった、おかしな線になっていく。
「……どうしたの?」
ふと我に返れば、そこにいたのは少し心配そうな顔をした君だった。
なんでもないよと薄く笑いを貼り付けてこたえた。そういうプログラム。
考え事をしてただけなんだよ。
思考する葦ならぬ思考するキカイだよ、おかしいね。
そのうち本当におかしくなってきて、本当に笑い出した。
あははは。
君もつられて、笑い出した。
偽物でもなんでもいいさ、今確かに僕は笑ってる。
君もいっしょに笑ってるんだから。
それでいいんだ。
白いシーツに光が反射している。日の光が入ってきて、午睡に丁度よさげなあたたかさ。
薬のにおいなど気にならないくらいに、部屋には春が満ちている。
ごめんね、眠いや。
君はそう小さく呟いて、そしてそう経たないうちに寝息をたてはじめる。
すうすうと、規則的に聞こえてくるそれは、ニンゲンらしさの何よりの証。
このまま口元を塞いでしまえば、君は簡単に*んでしまうだろう。
ニンゲンの証が消えたあとの君は、一体なんになるんだろうか?
湧き出た小さな好奇心も、一瞬で消え去る。
今、こんなところで、わざわざ終わらせる必要はないから。
ここに来て、本来の役目を遂げることはなかった。
多分、これからもその時はこないだろう。
冬に君に会い、寒さに耐えた後にやってくる春。
きっと夏はこない。
君とすごす夏は。
本来の意味もなく、代わりに与えられた意味もなくなりそうな今。
意味のないものは一体どこへ行くだろうか。
答えは――さっき言ったとおり。
僕は夢を持たない。キカイだから。
そして、「現実」でしかない僕は、叶わない夢に縋って落ち込むことはない。
そうプログラムされてないから。
そうじゃないと、新しい現実に押しつぶされる瞬間に耐えられないから。
死刑宣告も、そう遠くない。
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想