Bad End Night
第一章「村娘」「色褪せた手紙」
花の香り。木の香り。草の香り。いろいろな香りが心を落ち着かせる。
まだ春になったばかりの、のどかな風景。
周りを見渡すと、そこは森の中。
その中で、歩き続ける少女が1人。
髪も瞳も、まるで森に溶け込みそうなほどの鮮やかな緑。
おろしたら、地面に届いてしまうんじゃないかと思うほど長い髪は、
頭の上の方で二つに括られている。
(まだ着かないのかしら・・・、もうかなりの時間は歩いているのに・・・)
その少女は歩き続ける。森の中へと進んで行く。
手に握り締めるのは、一通の色褪せた手紙・・・。
(何をやっているのかしら、私。まだこの手紙が関係あると決まったわけじゃないのに・・・)
あたりはどんどん薄暗くなって行く。夜が近いのだ。
事の始まりは、家の掃除をしていた時だった・・・。
「ミク!何をしてるの!?また本ばかり読んで!本なんて読む暇があったら、叔父様の部屋でも片付けてちょうだい!」
「はあい。分かったわよ、うるさいな。」
そこは小さな村。森にかこまれた、自然豊かな村。
そこに私はいた。
その日は年に一度の村を巻き込んだ大掃除。
まあ、もっとも?私は自分の部屋が終わり、まだ読んでいる途中だった本を読みすすめていたのだけれど。
(ずいぶん久しぶりな気がするわ。この部屋に入るのも。
叔父様がまだこの村に居た時以来かしら?)
私の叔父様・・・グレイ叔父様は、私が小さい頃急に姿を消してしまった。何の前触れもなく、本当に突然。
お母さんの弟で年がわりと近かったこともあり、
小さかった私はとてもなついていた。
何故、姿を消したのかは誰も知らない。
村では、何か重罪でも犯してしまったんじゃないかと、誰もが噂した。
(まあ、当然よね。誰にも何にも言わなかったんですもの。
誰だってそう思うわ。)
叔父様が消えたのは、10年ほど前になるだろうか?
つまり、叔父様の部屋にはそれ以来誰も入っていないわけで、
10年間も、掃除をしていないわけで・・・。
扉を開けると、そこはホコリの山だった。
(う、うわあ・・・。お母さんのバカ!こんなとこ普通娘一人に任せる!?・・・しょ、しょうがない、やるしかない。)
とりあえず、ホコリを払う作業から始めよう。
窓という窓を開け、ホウキと雑巾を駆使してホコリを駆除していく。
不幸中の幸いといえば、私の大嫌いな虫類が出なかった事だろうか。
「まあ、こんなものかしら。」
何とか苦戦しながら、目に付くホコリをすべて取り除いた。
「さてっと、次は本の整理ね。」
叔父様はずいぶん大雑把だったらしく、数え切れないくらいの本が至る所に積み上げられている。どうやら片付けができない人だったようだ。
初めて知った。
(私は、何も知らないんだわ。叔父様のこと。小さい頃は、私が遊んでって強請るばかりで、叔父様のことなんて知ろうともしてなかった。)
暗くなってきた自分に気付き、慌てて思考を追い払う。
(そんなことよりも、まずは片付けをしなくちゃ。このままじゃ日がくれちゃうわ。)
使われたようすのない本棚へ、本を片していく。叔父様のものだから、なるべく、丁寧に。
天井に届くのではないかと思われた、本の山も、やっと残すところあと
2、3冊だ。
それすらも片し終わった所で、ふと気付く。
本がびっちりと埋まった本棚にあと一冊ほどいれるスペースがあることに。
(たまたま余ったとか?でも一冊だけ?何処か片し忘れた本があるのかしら。)
やっと片付いた部屋を見回すと、机の陰に本が一冊だけ落ちてあった。
「こんなとこに隠れてたのね。って、あら?」
本を引っ張りあげると、ページの隙間から何かがこぼれ落ちる。
「なに、これ?手紙?」
それは『手紙』だった、それもかなり古いのだろう。
『色褪せて』いる。
「どうしてこんなところに手紙が?」
見ると、開封した跡があるのが見て取れる。ふっと、好奇心がわく。
(いや、でも人の手紙じゃない。勝手に見るのはいけないわよね。
あ、でも・・・!)
送られてきた日付をみて驚く。その日付は、叔父様が消えた日と同じだったからだ。
(うそ、でしょ?いや、でも・・・。)
「まあ、見るだけなら、いいわよね?もしかしたら関係があるのかもしれないし!」
誰もいないとわかってはいるが言い訳をして破いたりせぬよう、気をつけながら手紙を開いていく。
ハーゲン村のグレイ様へ
突然の手紙申し訳御座いません。
貴方の古文の研究がとても素晴らしいと聞きつけ、
我が当主があなたに是非お会いしたいと、申しております。
例の事もお知りになりたいそうなので、是非森の奥にある館へいらして下さい。素敵なワインと素敵な舞台を用意しました。
お待ちしております。 ~年3月18日森の奥の館
カイト・タルクより
「3月18日って、今日!?あ、でも年が違うか・・・。」
(どういうこと?それに例のこと?森の奥の館って、森の中に館があるなんてきいたことないわ。)
イロイロな疑問が頭の中を駆け巡る。それと同時に、知ってはならない。考えてはならない。忘れろ、と本能に近い何かが警告音をならしている。
胸騒ぎが止まらない。叔父様が古文の研究をしていたのは知ってた。
でも例の事ってなに?叔父様は、この手紙を見たから姿を消したの?
行ってみれば?もしかしたら、その館に叔父様がいるかもしれないじゃない。ミク、久しぶりだね、なんて言って何食わぬ顔をしているのかも。
私の中の私が語りかけてくる。いってみればいい、と。
もしそんな館がなくても、引き返せばいいじゃない。何も心配する事なんてないわ。
(そう、よね。もし何もなくても、すぐに引き返したら誰にもばれないわ。それに森は小さいし、大丈夫よね。)
私は胸騒ぎを気のせいだとして、立ち上がりこっそりと誰にも見つからないように抜け出し、外へ駆け出した。その先には森が口を開けて待っていた。
二章へ続く
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