『妹』

 静まり返る寝室。
電気もつけず、妹がすぅすぅと、小さな寝息をたてて、僕のベッドに寝転んでいた。
「ぐっすり眠ってるな……」
 我が妹ながら、端正な顔のつくりをしている。
枕元で乱れた繊細な髪の毛の線が、幾筋にも広がっている。
流れるような艶めく髪をたどってみても、先にあるのは毛先だけだった。
 眠っているところを起こすのは可哀想だ。
だがしかし、このままだと、僕が妹に何かしらの感情を抱き、
あろうことか血の繋がった実の妹に、興奮しかねない。
どうしたものだろう。
 仕事帰りで疲れた体はもう限界に来ていた。
ええい、気になどしていられるものか。
僕は寝る。いいじゃないか、たまには兄妹仲良く添い寝というのも。
仲睦まじいことはよきかなよきかな。
 そっと。
 柔らかくてふかふかの、マイ羽毛布団をそっとはぐり、こっそり慎重に侵入する。
「おじゃましま~す……」
 妹は気づかず、深い眠りの中。
はたまた、幸せな夢の中にトリップしてまだ帰っていないのだろうか。
そして、なんとか横になる。
真横に眠る妹の寝顔がなんとも幸せそうで、こいつ、
何も不安とかないんだろうなぁ……なんて、考えてしまう。
そうは言っても年頃の女の子だ、何かしらの葛藤はあるだろう。
それにしても、中学生ってまだまだ子供だよな。
可愛らしい寝巻きがまた愛らしく感じる。
 さて、俺の意識もそろそ――あれ、おかしいな、目が冴えてきた。
隣で眠る少女の口もとからうっすら漏れた艶めかしい吐息が、小さく漏れる寝息が、その生っぽい暖かさが僕の頬をくすぐる。
よくよく考えると、自分の妹といえども、女の子が横で寝ているという状況は、どうなのかと思う。
そう思えば思うほど気になってきて、うかうか寝てはいられなくなってくる。
 諦めて床で寝よう。
そう決めた僕は、ベッドから出ようとしたのだが……
「ムニャ……ひとりに、にしないで……」
 小さな声で、確かにそう言って、確認すると、どうやら寝言のようで、
その言葉から妹はまだまだ甘えん坊な可愛らしい少女なんだな。と、勝手に思い込む。
そして、僕の腕をがっしと掴み、足を絡ませ、僕を束縛したまま眠っている。
 ああもう、これじゃ脱出不可能じゃないか。
 僕は諦めて、そのまま意識が途絶えるのを待つことにした。
しかし、やはり眠気はやってこない。
ため息をついて、もう一度妹の顔を見る。
「おにい……ちゃん?」
 顔をゆでだこのように赤くした妹が、頭の上にWHY!?という文字が浮かんで見えるような、そんな表情をしていた。
「な、なんでお兄ちゃんと一緒に寝てるのよ! 私、え、うそ……なんで……」
「なんでというかだな、お前が僕のベッドで寝てたから、おこしちゃまずいかなって思って、でも、僕も眠いから、仕方ないから一緒に寝ようかなって……」
「仕方ないじゃないわよ! お兄ちゃんのバカ! エッチ!」
 枕ですごい叩かれる。
あんまり痛くないけど、こんなに怒られるのは、非常に遺憾に思います。
「~……」
 しばらくすると、急に黙る。
口を開いたかと思うと、僕の腕の裾を掴んで。
「今日だけだからね」
 そう言って、僕を上目遣いで見つめながら、身を寄せてくる。
「えっと……」
 僕はどうしたらいいのか分からず、戸惑う。
情けない、実の妹に、なに取り乱してるんだろう、僕は。
「早く寝よう。明日も仕事なんでしょ? 一緒に寝てあげるんだから感謝しなさいよね」
 いつもよりキレのないツンデレ口調で言ったあと、照れ笑いのような表情をして、僕にしがみついてくる。
僕は妹の頭を撫でながら、少しずつ、意識が遠のいていくのを感じた。
妹の暖かさが、末端冷え性の僕の身体をあたためてくれる。
不器用だけど、お兄ちゃん思いの妹を、これからも大切にしようと思う。
「お兄ちゃん、大好き――」

-完-

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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妹ほしいよう

閲覧数:79

投稿日:2013/03/03 06:38:38

文字数:1,605文字

カテゴリ:小説

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