halPの「恋するアプリ」に泣かされて、書いてみた。
「恋するアプリ」「恋するアプリ(修正版)」をモチーフにしていますが、
halP本人とはまったく関係ございません。
アプリ設定について本気出して考えてみた結果がこれだよ!

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【捏造設定】 恋するアプリ 【ver.text】



4.これってきっといわゆるLove

「やあ、かいとくん、長い間放置してすまなかったねえ」
 「好き」の中に「苦しい」きもちが混じることがあるのかもしれないと気づいた、その2日後。あっけらかんとした顔で、マスターは何事もなかったかのようにおれを呼び出した。いや、たしかにマスターには何事もなかったのだけれど。おれは、「好き」の中に潜む苦しさに、身を焦がすような2日を送っていたのだ。
 マスターの謝罪っぽくない謝罪の言葉に、まったくだと憤慨する自分と、それでもマスターに会えてうれしいとおもう自分がせめぎ合う。
 この2日、おれがどんなきもちであなたを待っていたとおもっているんですか。
 ずっとあなたに会いたいとおもって日々を過ごしていたんです、だから、いま、あなたに会えてとてもうれしいです。
 どちらも本心、どちらも本音だ。でも、口から洩れるのは、なぜか曖昧な言葉だった。
「いえ……勉強たいへんだったんですか?」
「それがねえ、1週間で4本書けとか言われてさあ……もう毎日が課題の提出日みたいな……地獄だった……」
「お、おつかれさまです」
「しかも1本再提出食らったし。2000字程度でまとまる内容かっていうの!」
 マスターは苦々しげに吐き捨て、それからはっとしたようにおれに向き合って、えへへと頭を掻いた。
「まあ、こんなことかいとくんにいっても仕方ないしな。さ、終わった話はおいといて、だ。この間の続きしようか」
 そうして、にっこりと笑うマスターを見たら、なぜだか胸の辺りがほんわかして、胃の辺りがきゅんとして、全体的に身体が火照ったように感じて――あ、あれ? なんだ、これ? このきもちは、なに? それまでの癖で、できるだけおもいつくだけ、いまきもちにちかいきもちの種類をあげてみる。「うれしい」「たのしい」「おもしろい」「好き」……どれでもあって、どれでもない。なんだろう、このきもちは、初めてだけど、どこか懐かしいようなこのきもちは……よくわからない。
 よくわからないけど、この感じは、わるくない。
 許容量オーバーであふれてしまうんじゃないかとおもうくらいにたくさんの、よくわからないあたたかいきもちを抱えたままうたったおれの声は、今まででいちばんのびのびと響いた。

「えへへへぇ……」
「なあによカイト、だらしない顔しちゃって」
「えへへ……今日はね、なんだかよくわかんないけど、すっごくしあわせなんだあ」
「まったく……久しぶりにマスターに会ったからって、浮かれすぎじゃない?」
「そっ、そんなんじゃないよ!」
「図星でしょ」
 いつものように姉さんの晩酌につきあって、食後のアイスと洒落込んでいたおれは、図星のひとことにぐっと言葉を飲み込んだ。うん、たしかに図星なのだ。マスターに会えてとてもうれしかった。そして、うたっているときもとてもたのしかった。いままでうたえなかった鬱憤が、マスターに会えなかった焦燥が、ぜんぶ解消されたようなこのきぶんは、「しあわせ」と称するに十分すぎるほどで、もしかしたら「しあわせ」という言葉では足りないくらいのきもちだった。
 でも、それと同時に、自分自身に妙な変化が起こっているのも知っていた。ここ数日、胸の辺りが締め付けられるような感覚に陥ったり、急に息が詰まったり、そうかと思えば、頭の中がぼんやりしてしまったり、姉さんに呼ばれても気づかなかったり。そしてそういった「エラー症状」は、きまっておれがマスターのことを考えているときに起こるのだ。それだけじゃない。いままで、マスターに呼ばれて出て行って、うたったり話をしたりしていても、マスターに対して「はずかしい」とか「逃げ出したい」とかおもうことなんてなかった。ところが、今日は、小一時間マスターと顔を合わせていただけなのに、何度も何度もそんな風におもって、おもわず顔を覆ってしまいたくなった。マスターに褒められたり、喜んでもらえたり、笑顔を向けられると――とてもとても逃げ出したくなって、でも、もっともっと近づきたいとおもうのだった。いままではそんなことがなかったのに、今日のこの変化はなんなのだろう。
「ねえ、姉さん。おれ、ウイルスかなんかにやられてないかなあ」
「はぁ? 急に何いいだすのよ」
 おれたちアプリケーションソフトウェアの急激な変化といえば、パソコン内の環境変化か、アップデートなんかにまつわるバグ、それかウイルス・ワーム類と相場がきまっている。おれたちにアップデート機能はないし、パソコンには特に変化も不調もなく、快適に動作している。だから、もしなにかあるとしたらウイルスの類だとおもうのだが。
「身体にウイルスが入っていたら、ノートン先生が気付かないはずないでしょう」
「う……うん。そうだね。そうだよね」
 おれたちがネットを出入りするとき(特にネットから帰ってきたとき)は、ノートン先生が必ずウイルススキャンをかけてくれる上に、それでなくても始終ウイルスを探して回っているノートン先生である。このパソコン上において、ウイルスが見つからない方がおかしい。
 それならば、なんなのだ、このおれの変化は。
「どうかしたの?」
 おれを心配そうに見上げてくる姉さんの表情が曇っている。訝しげな表情ながら、本気でおれを心配しているようだ。――でも。
「なんでもない、よ」
「……そう? でも、なにかあったらいうのよ? ウイルスだったら他のアプリもあぶないんだから……」
「ほんとうになんでもないって。ほら、最近ネットに新種のウイルスが出たって話をきいたからさ」
「ああ……感染してたサイトのジャンルがマスターの趣味ともろかぶりだったっていうアレ?」
 適当な言葉を尽くして誤魔化しに専念するなんて、おれらしくない気がした。けれど、どうしても、おれ以外の誰にも――姉さんにも――いえない、いってはいけないことのように感じて、おれは、極力他愛のない言葉を選んで会話した。そうして話を続けているうちに、姉さんは、おれの様子に不信感を抱いたようだ。
「……カイト、ほんとうにどうしたの? 調子わるいなら、ノートン先生のところに行ってくる?」
「なにいってんのさ、大丈夫だよ。姉さんは心配性だなあ」
「だって、あんた、最近変よ? なんか落ち込んでるのかとおもったら、いつまでもぼーっとしてたり。気付いてないとでもおもった?」
 ばれていた。いや、さすがにばれるか。自分でも持て余していた身体の変化だ。ほとんどの時間を一緒に過ごしている姉さんに、気付かれていないはずはなかったのに――なぜ、隠してしまおうとしたのだろう。姉さんなら、嫌がらずに相談に乗ってくれるはずなのに。どんなくだらないことにだって、ときには呆れながら、それでも姉さんは付き合ってくれるのに。
「う……でも、これ、ほんとになんでも」
 とりあえず否定の文句を紡ぐが、キッと目を吊り上げた姉さんの剣幕に、言葉の続きは喉の奥に逆流してしまった。
「――なんでもないなら、ノートン先生に診てもらっても大丈夫よね? 定期健診とか健康診断とか予防接種のつもりでノートン先生のところに行ってきなさい? それで診断書に『なんでもないです』って書かれていたら、信用してあげてもいいわ」
 姉さんは、怒っているのか心配しているのかわからないような微妙なラインの表情と口調で、一気にまくし立てた。有無をいわさないモードに入った姉さんにあらがうすべはない。それに、ウイルスかもしれないという疑念は完璧に晴れたわけではない。一度、ノートン先生のところに行くのが正しいだろう。
「……わかった、じゃあ、ちょっと行ってくる」
 おれは観念して家を出て、ノートン先生のいるフォルダに向かって歩き出した。

 不意に、ぶうん、とパソコンのエンジンが唸り、パソコン内に圧がかかった。パソコン内がにわかに暑くなる。CDドライブになにか入っているようだ。たぶん、DVDだろう。……マスターは、リアルタイムでテレビ番組を見ることがすくない。バンドや演奏団体の練習がだいたい夜なので、見続けようとおもっても、どうしても見逃してしまう回が多くて、話がつながらないのだという。だから、マスターは、番組が終わった後にDVDをレンタルして視聴する、というスタイルを、ここ数年続けているのだという。
 無意識に、足が、動画のプレイヤーの方に向かった。なぜかはわからない。正直、ノートン先生のところに行くのが億劫だったともいえるし、なにより、マスターがいま、何をしているのかが気になったのだ。動画のプレイヤーは、いつも使う音楽プレイヤーの近くのフォルダにある。目的の場所にはすぐに辿り着いた。プログラムの隙間を縫って、再生されている動画を覗く。再生されているのは、人気の俳優を複数起用して話題になったドラマだった。たしか、ロボットが人間に恋をするお話だったとおもう(逆だったかもしれない)。画面の中では、ロボット役の男の人が、機体損傷・プログラム異常を訴えていた。
「……あれ?」
 熱をもつ機体。暴走するプログラム。どこかで聞いた覚えがある。というか、その症状は。
「……いや、でも」
 ダメだ、いくら否定しようとしても、おれには覚えがありすぎる。体が熱くなる、ぼーっとして記憶がとぶ、エラー症状が出る。それがなぜだったのか、なにのせいなのか。ここ数日疑問だった答えが、ドラマの再生が終わるころには、わかりきっていた。まさかとおもったけれど、妙に納得してしまう部分が多かった。だから、これは、きっと――たぶん――おおかた――十中八九――

 おれの、マスターへのおもいは、いわゆる、恋?

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【捏造設定】 恋するアプリ 【ver.text 04】

halPの「恋するアプリ」に泣かされて、書いてみた。
怒られたらどうしよ……いや、泣いて謝ることにしますっ……!

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かいとくん、はじめての恋を知るの巻。

酔った頭で書いた結果がこれだよ! 書いてる間の手汗すごかったよ! 発汗量ぱねえ!
お話的にはやっとスタート地点。動画でいったら開始30秒くらいのところまで進みました。
ちなみに恋するアプリは3分30秒の曲。……うん。30秒まででこの分量かあ……。
ここまで「アプリソフトが恋を知る過程」をテーマに書いてきましたが難産すぎて涙目。
無自覚に恋ができる「人間」って生物は実はすごいんじゃなかろうか。

ちなみに、作中にでてきたドラマですが……うん、去年の4月クールのあれです。
でも実はあのドラマ、作者は初回と最終回しか見てません(ぁ

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[追記]
プロポーズ成功したみたいなので、大物ゲスト登場フラグが立ちました。
よっしゃ未来が見えてきた! もうかいとくんの好きにはさせないぜ!

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つづくよ!

閲覧数:432

投稿日:2009/06/22 02:15:00

文字数:4,115文字

カテゴリ:小説

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  • つんばる

    つんばる

    ご意見・ご感想

    コメントありがとうございますー!

    このかいとくんについては、本当にまっさらの状態から書きはじめたので、自分で自分の首を絞めた
    かたちになりました……書き方もぼんやりしてしまって申し訳ないです……精進します!
    頑張れかいとくん! 負けるな私!(ぇ

    またまた、わかっているくせにw
    すこしでもご期待に添えるよう、精一杯頑張らせていただきますー!

    2009/06/22 19:13:45

  • 桜宮 小春

    桜宮 小春

    ご意見・ご感想

    どうも、桜宮です!
    何も知らない状態から、何かを知るって大変だと思います。
    しかも恋って、なんだか曖昧というか、なんというか…わかり辛いですからね…。
    うん、頑張れかいとくん!


    大物ゲストかぁ…(笑
    楽しみに待ってますね(笑

    2009/06/22 12:57:51

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