ある夜、作業を終えたあと、ふとターミナルの画面を眺めていた。黒い背景に白い文字が並んでいく。それだけのはずなのに、妙に美しく感じた。カーソルが点滅するリズムが心地よくて、まるで音楽の拍のようだった。
プログラミングというのは、論理を積み上げる作業だ。構文や関数、APIやフレームワーク。どれも正解があり、厳密で、どこか冷たい。でもその夜は違った。コードが流れるたび、僕の中に旋律が生まれていた。きっとそれは、ロジックの奥にある「自分の癖」みたいなものがリズムを作っているのだと思う。
思えば、創作もエンジニアリングも似ている。初めて書くときは真似から始まり、何度も破壊しては再構築を繰り返す。気づけば自分の手癖が残り、それがスタイルになっていく。コードの一行一行にも、無意識の“声”が宿っている。僕はそれをいつも聴こうとしている。
バグにぶつかったときの沈黙も、ビルドが通った瞬間の静かな高揚も、音にできないけれど確かに響いている。プロダクトが完成したとき、それはひとつの楽曲のように感じる。自分が書いたコードの中に、誰かの想いが乗って、動き出す。それがものすごく嬉しい。
創作という言葉を使うと、絵や音楽や物語を思い浮かべる人が多い。でも、僕はプログラミングも立派な表現だと思う。誰かの問題を解決することは、誰かの世界を少し優しくすることだから。そこに意図や感情があるなら、それはもう立派な作品だ。
ターミナルの画面は無機質だ。でも、あの黒い空間の中には、たくさんの色がある。考え、試し、失敗し、再び立ち上がる。そこにあるのは人の営みそのものだ。だから僕は今日も、黒い画面を開く。そこにまだ聴いたことのない音が流れている気がするから。
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